第51回:西部劇名作選 ベスト20 No.17
アンソニー・マン監督、ジェームズ・ステュアート主演
『ウィンチェスター銃'73 』(原題:Winchester'73 ;1950年)
日本には銘刀と言われるカタナがあり、非常な高値をよんでいる。刀は言ってみれば戦いの道具であり、人を殺すためのものだ。だが、それが実戦にどれだけ役に立つか、実際に戦で刃こぼれもせずに幾人もを叩き切ったかどうかは問題にされない。
実用の面から言えば、刺身包丁、中華包丁、肉屋が使う包丁、屠殺場で牛や豚の皮を剥ぎ、腑分けする色々な特別な刃物ほど、刀自体その目的に使われることがなかったと言い切って良いと思う。
しかし芸術的な観点から言えば、話は全く違ってくる。刀にはそれがある。と言うより、芸術品としての価値しかない。
ここに“ウィンチェスター'73”という1873年型のライフルが登場する。一体工場で大量に生産されたライフルに、日本の刀のように一本、一本、刀工が手で打ち作り上げた工芸品のような銘品が存在しうるのだろうか。
大量生産の工場で作られたライフルに特別な逸品は生まれえない。何千と生産された製品は均一なはずだ。ところが、いくら工場で大量生産されたにしろ、ムラは出る。ここに千丁に一つというライフルが登場する。
日本刀と違い、一丁のライフルに伝説を盛り込むことは可能だ。いくら日本刀の秀逸な一本でも、実戦で激しく斬り使えば刃こぼれを起こす。または使い物にならなくなる。あの宮本武蔵ですら、小次郎と戦い、殺したのは船の櫂を削った木刀だったではないか。日本刀に伝説を盛り込み続けるのは難しいのだ。
そこへ行くと、ライフルの方は人手に渡りながら、説話を膨らませ、神話にも似た奇談、秘史を練り上げていくことができる。なんせライフルそのものを損なわずに弾丸はいくらでも撃てるのだ。

ウィンチェスター'73
西部劇によく登場する、引き金のガードを銃身の方へ倒し、空の薬莢を弾き出すと同時に次の
弾を装填する。今でも愛好家が多いという、テレビシリーズの『ライフルマン』が使っていた銃だ。
『ウィンチェスター'73』は、1950年に西部劇のヌーベルバーグの騎手と言われたアンソニー・マン監督が気の合うジェイムス・ステュアートを起用して作った映画だ。監督と俳優の良いコンビは名作を生む。それはジョン・フォード監督とジョン・ウェイン、ジョン・ヒューストン監督とハンフリー・ボガードの例で見る通りだ。
アンソニー・マン監督とジェイムス・スチュワートは、1950年から58年にかけて数々の名作を産んだ。西部劇ではないが『グレン・ミラー物語』もこのコンビが生み出した傑作だ。

このポスターから何か勇猛な活劇を思わせる。
が、アンソニー・マン監督とジェイムス・スチュアートは
一丁のライフルに絡んだヒューマン劇に仕上げている。
ジェイムス・スチュアートは背高ノッポでマッチョからおよそかけ離れたイメージを持つ俳優だ。殴り合いをしたら、ジョン・ウェイン、クリント・イーストウッド、バート・ランカスター、カーク・ダグラスなどに一発で吹っ飛ばされそうな弱々しさだ。
ジェイムス・スチュアート演ずるリン・マックアダムスは、彼の父親を背中から撃ち、殺した犯人を追っている。途中カンサスのダッジシティーで町の創設100年記念祭りに出くわし、その射撃大会で優勝し、商品の西部の男ども垂涎の的である銘品“ウィンチェスター'73”を賞品として貰う。
それを横取りしようと暗躍するアウトロー、インディアンらが絡み、幕開けに町から追放された酒場の女、ロラが随所に再三登場し、初めから、ただ一人登場する因縁ありげな女、ロラが最後にリンと結びつくことが知れる。
取ってつけたようなインディアンの襲撃があり、幌馬車の爆走があり、酒場で大金、“ウィンチェスター'73”を賭けたポーカーがあり、銀行強盗があり、その時ダッジシティーにいたワイアット・アープまで登場させ、西部劇の要素のすべてを盛り込んでいる。
最後の決闘は、岩山でライフルの撃ち合いになり、リンの父親殺しの犯人はリンの兄だと知れる。そして、“ウィンチェスター'73”を手にしたリンが兄を撃ち殺し幕になる。
と書くと、ありきたりの西部劇のように聞こえるだろうが、ユニークなのは一丁のライフルを物語の中心に据えたことだ。その銃の持ち主が変わり、話が進行していく。俺が、俺がとシャシャリ出る主演のマッチョスターはいない、控え目なジェイムス・スチュワートが良い。
スチュワートはウィンチェスター社の射撃トレーナーに付き、それこそ常にライフルを手元に置き、射撃だけでなくハンドリング、弾のこめ方などなど、自然に流れるようにできるようになるまで訓練したという。
若きロック・ハドソンがインディアンの酋長役で出ているし、騎兵隊員役でトニー・カーチスもちょいと顔を出している。映画のクレジットで何十人もの出演者の名前が流れるように映し出されるが、その中から映画界で生き残るのは少数だろうし、さらに主演を演じるような役者に育つのはさらに少ないのだろう。
ライフルの伝説、それを手にした者、持とうとした者たちの翻弄された運命劇が、『ウィンチェスター'73』だ。
-…つづく
第52回:西部劇名作選 ベスト20 No.18
|