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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第23回:失われたダッチマンの金鉱 その2

更新日2024/10/03

 

ロバート・ブレイアーは、ソーン医師が確かにニューメキシコに町医者として1850-60年代に存在しており、一時ナバホ族に拘束されていた期間に金脈を見つけた“可能性”はあるとはしている。ソーン医師の話を信じた三人の兵士が1858年に金鉱探索をしている事実はあるが、当然、金は発見できなかった。
 
それでは、アリゾナのウッケンブルグ近くで行き倒れになったダッチマンが持っていた金塊は、一体どこからきたのだという疑問が残る。

ジョン・ウィルバーン(John D. Wilburn)が1990年に書いた本『ダッチマンの黄金伝説(Dutchman’s Lost Ledge of Gold)』の中で、実際に二人のドイツ人山師、ヤコブ・ウォルツとヤコブ・ワイザーが行き倒れになったダッチマンに相当するのではないか、とりわけヤコブ・ウォルツの方は金を発見し、それを公的に発掘する権利書を申請していると言うのだ。

失われたダッチマンの金鉱の元凶であるヤコブ・ウォルツは1808年に生まれた、と彼の墓石に刻まれている。彼の墓はフェニックスのパイオニア墓地にある。しかしながら、ドイツのヴィッテンベルク(Wittenberg)に残る戸籍には、1810年9月にヤコブ・ウォルツなる男の子が生まれた記録があり、同一人物ではないかと見なされている。

アメリカに初めて現れるのは1848年の移民局の記録で、その後1860年代にヤコブは金山の権利を25万ドルで売り渡し、1870年にタダで土地がもらえるホームステッドでアリゾナのフェニックス郊外に160エーカーの土地を貰い受け、農業に専念し、1891年10月25日に死んだ時には1,500ドルしか残っていなかった。1,500ドルは当時として大金だったにしろ、もし彼が本当に25万ドルもの現金を掴んでいたなら、荘園のような大農園を経営できたはずだ。

1891年にフェニックスを襲った大洪水で、彼の畑は全滅に等しい被害を受け、それが元で彼は精神的ダメージを受けて死んだと思われる。

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ヤコブ・ウォルツの墓<フェニックス、パイオニア墓地>


いつも感心し、呆れるのだが、歴史家というのはこんな人物を掘り起こし、足跡を追跡し、調べまくるものだ。それが歴史に名を残すような偉大な人物でも、悪名を馳せた人物でもなく、当時、何万、何百万人といた普通の人間の過去を、経歴を詳細に追っているのにホトホト舌を巻く思いにかられる。そんな彼らの著作に便乗して、上っ面を舐めるように私はこのコラムを書いているのだが…。

黄金伝説はアメリカ西部に何百万単位の人を呼び寄せたが、大きな皿で川底の泥、砂利をすくい、そこに沈んだ金粒を拾い集める、集めようとした人たちが実際に掴んだ金は微々たるものだったろう。金鉱を掘り当てたアマチュアの山師もいたことはいただろうが、そんな情報を掴んだ大資本の鉱山会社が権利を叩き値でむしり取り、大規模な発掘を開始し、山を枯らした。

削岩機で岩山を崩し、高いとこからパイプで圧力をかけた水を引き、巨大な放水機でそれを洗い流し、その泥水を板で囲った緩やかに傾斜した水路に導き、沈んだ重い金塊を集めるのは、一山組の山師にはできないことだった。

どうも西部に黄金探しでやってくる人々は、カリフォルニア、コロラド、アリゾナ、アラスカの山に入り、ツルハシをふるえば、続々と金塊が出てくると信じていたようなのだ。

実際に大金を掴んだのは、金鉱の権利を売買し、東部の投資家に幻惑的な投資熱を煽った鉱山会社だけだった。黄金狂時代の熱狂は日本のバルブに似ている。実態のない投資のための投資に踊らされた日本のバルブより、金という光りモノが実際に存在し、それに夢を馳せた群衆がいたことの方が少しは理解できる。

ヤコブ・ウォルツという人物が存在したのは間違いないが、彼が金山を掘り当てたどころか、鉱山で働いていたという記録さえない。行き倒れになったはずの男と、フェニックス郊外でパイオニア的百姓をし、そこで死んだ男とどう結びつくのだろうか。

一体、“迷信の山”に、伝説に惑わされて、山に入って何人が命を落としたことだろう。今は大都会になったフェニックスと目と鼻の先にあるにしろ、“迷信の山”はシロウトが登れるような山ではなく、標高こそ低いが厳しい岩の壁が連なる近寄り難い岩場の山で、おまけに夏場には猛烈な暑さに襲われるのだ。

“迷信の山”に迷い込み、死んだ人の典型的な例をあげれば“アドルフ・ルース”になるだろうか。彼は熱狂的なトレジャー・ハンター=宝探し山師で、紆余曲折があるが、ペラルタ家の縁戚ペドロ・ゴンザレスなる人物から、詳細かつ正確な金鉱の位置を示す地図を手に入れたのは1931年6月のことだった。

アドルフ・ルースは山歩き、金鉱探しのプロで、今で言えば経験豊かなアウトドアのエキスパートだった。2週間の予定で“迷信の山”に入っているから、それなりの食料、水、キャンプ道具に加えて発掘用のツルハシなどなどを携帯していたに違いない。アドルフ・ルースが66歳の時だった。

同年の12月、『アリゾナ共和国』という新聞の記者がルースの足跡を追って山に入り、いくばくもなく、一つの遺体を見つけ、頭蓋骨を持ち帰った。頭蓋骨には二つ、明らかに銃で撃たれた穴が開いていた。この頭蓋骨はフェニックスの医者の検死の結果、ルースのものに間違いないとされた。

遺体が発見された近くに彼の備品、持ち物のすべて、リボルヴァー拳銃や彼がいつも持ち歩いていた小切手帳まで発見された。しかし、一つだけなくなっていたのが、金鉱の所在を示す地図だった。そして、彼の小切手帳に“Veni, vedi, veci”(ラテン語で我来たり、見たり、征服したり、というシーザーの有名な言葉)と書かれていた…というのだ。

どうもこうなると、“イワシの頭も信心から”に近くなり、新聞記者の創作臭くなってくる。

しかし、戦後1960-70年になってから、“迷信の山”の金鉱を発見したと宣言している御仁が二人いると、カート・ジェントリーの本『キラー・マウンテン』にある。

新しいところでは、2009年にデンヴァーのジェシー・カーペンという35歳の男、2010年にユタのカーティス・メーワースとアールディン・チャールス、それにマルコム・ミークスの三人が山に入り込み亡くなっている。
 
黄金狂どもを惹きつけた“迷信の山”は、現在のフェニックスの東を走る60号線からアパッチ・ジャンクションを数マイル北上したところにある。すぐ東隣には、ゴールド峡谷が乾いた大地を割くよう深い傷跡を残している。

アパッチ・ジャンクションから北上する88号線は、フェニックスの住民にとって恰好の週末ドライブコースで、その入り口にはローストダッチマン州立公園があり、そこを過ぎると、眼前に槍のように尖ったキャッスル・ドームが見えてくる。

因みに、このローストダッチマン州立公園は、トント国有林の中にあり、“tonto”とはスペイン語で“間抜け、アホ”を意味する。

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“迷信の山”にそびえるキャッスル・ドーム
<ローストダッチマン州立公園>

-…つづく


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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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