第40回:西部劇名作選 ベスト20 No.6
アンチヒーロー西部劇 『ソルジャー・ブルー』
1970年にこの映画が公開された時、それはショッキングな事件と呼んで良いほどの出来事だった。
アメリカはベトナム戦争の泥沼にはまり込んでおり、戦争終結の見通しが全く立っていなかった。ベトナムのソンミ村のミライ(My Lai)部落の住民虐殺が明るみに出たのに合わせるように映画が封切られた。
監督のラルフ・ネルソンはとりわけ政治的な映画ばかりを作っているわけではなかったが、それまで誰も取り上げなかった“サンドクリークの大虐殺”をアンチヒーロー西部劇として作り、それがピッタリとベトネム戦争の汚点ソンミ村のミライ部落民の大量虐殺(1968年3月16日、部落民504人を殺戮、うち183人は女性、173人は乳幼児を含む子供だった)と重なり、反戦、ベトナム戦争反対のプロテスト映画と受け取られたのは当然のことだった。
事実、映画『ソルジャー・ブルー』はそれ以上あり得ないほど直接的な反戦、ベトナム戦争のプロテスト映画だったと思う。ことアメリカに関しては、アメリカが国外で行なっている戦争に反対することは、アンチアメリカ、反国家活動と取られる。アメリカ兵、GIが命を賭けて戦っているのに足を引っ張るようなことをするな……というわけだ。
それまで、騎兵隊(ブルーのユニフォームを着ているのでソルジャー・ブルーと呼ばれていた)は西部開拓になくてはならない、力強い正義の味方で、残虐なインディアンどもと勇敢に戦う兵士だと思われていた。それを真っ向から覆すように、騎兵隊=ソルジャー・ブルーが追い詰められ、飢えたシャイアン、キオワ族の部落を襲い、女性を強姦し、子供も殺戮し、男は性器を切り取り、彼らの口にツッコミ、強姦した女性の性器を輪切りにし、サドルホーン(サドルの前に出ている突起物)に掛け、勇猛な戦士の勲章としたり、頭の皮を剥ぐという凄惨の極みの残虐行為を行なったことは、この『のらり』コラム『インディアンの唄が聴こえる』に書いた。
映画『ソルジャー・ブルー』はもちろんドキュメンタリー映画ではない。1864年の“サンドクリークの大虐殺”をバックグラウンドにしてはいるが、フィクションであり、原作は『Arrow in the Sun』(太陽の中の矢)というテオドール・オルセンの小説である。小説である以上、白人の女性を主人公に登場させないわけにはいかない。そして、若いウブな騎兵隊員との恋が絡んでくるのは致し方ない。
主人公の若い女性、クレスタを演じるのは若さに輝くばかり、絶頂期、芳年23歳のキャンディス・バーゲンだ。実際、キャンディス・バーゲンがこの映画の幹になっている。シャイアン、キオワ族の言葉を理解し、話すことができ、インディアンに極めて同情的で、それを行動に移す白人女性 クレスタが主人公であり、話が進行していくのだが、そしてキャンディス・バーゲンの魅力でこの映画をもたせているのだが、異民族、全く異なる文化の中に入り込んでいる西洋人という設定が、私にはハナからうさん臭く感じられる。
もちろん実際の“サンドクリークの大虐殺”にインディアンと一緒に白人女性はいなかったし、万が一いたとしたら、即強姦され血祭りにあげられてたことは間違いない。
この映画は、最後の15分間、ソルジャー・ブルー、騎兵隊が、残虐の限りを尽くすシーンは映画界に衝撃を与えた。今でこそ、首が飛び、血飛沫が飛び散る映画は珍しくなくなったが、この『ソルジャー・ブルー』が元祖だと言われている。

『ソルジャー・ブルー』のサウンドトラックCDのカバー写真
インディアン女性の後ろ姿、これはキャンディス・バーゲンではなく、
描かれた絵だが。残念ながら…
監督ラルフ・ネルソンは、ユニークで軽妙な作品を得意としているようだ。シドニー・ポアチエにアカデェミー主演賞を取らせた『野のユリ』(Lilies of the Field;1963年)や、ケリー・グラントの喜劇『雨の中の兵隊』(Soldier in the Rain;1963年)ではデブで大男のジャッキー・グリースンと若きスティーブ・マックイーンの組み合わせで洒脱なコメディを撮っている。サスペンスものではアラン・ドロンとアン・マーグレットの『泥棒を消せ』(Once a Thief;1965年)もラルフ・ネルソンの作品だ。
『ソルジャー・ブルー』でも映画の中ほど、1時間近くはキャンディス・バーゲンとウブな騎兵隊、ペーター・シュトラウス演じるホナス・グラントのコミカルな駆け引きが続く。それが急変してソルジャー・ブルー=騎兵隊がシャイアン、キオワ族を襲う最後の残虐シーンに変わっていくのだが…。
映画『ソルジャー・ブルー』はアメリカ国内で、全くヒットしなかった。反戦プロパガンダ、アンチアメリカ映画とみなされたからだ。ソンミ村ミライ部落の虐殺は報道されてはいたが、ベトナム反戦運動はほんのひと握りのヒッピーどもが騒いでいるだけだと保守的なアメリカ人(これが絶対多数を占めているのだが)は信じていた。
そんなわけで、いくらキャンディス・バーゲンがお尻まで見せる熱演をしても、振り向くアメリカ人は少なかった。映画は散々な興行成績で、製作費すらカバーできなかった。
ところが、イギリスでは大ヒットした。それに続いて、アメリカのやり方を、外交政策を煙たがっているヨーロッパで受けに受けた。そして日本でも話題作となり、ヒットした。海外での評判を逆輸入する形で、アメリカ国内でレンタルビデオの収益がウナギ上りに上昇したのだ。
このアンチヒーロー西部劇を『のらり』の西部劇名作選に加えるかどうか相当迷ったが、私が『インディアンの唄が聴こえる』で一時期のめり込んだ“サンドクリークの大虐殺”事件に絡んでいるので、現場を二度ばかり訪れ、地理的条件を知っているのとで、それに理知的なキリッとした表情のキャンディス・バーゲンに惚れ込んでいたのとで(今は昔、若かりし頃のことですけど…)大いに私情を入れ、『ソルジャー・ブルー』を名作に加えた次第だ。
ちなみにアメリカの映画評論家や記者が選んだ西部劇25選、名作50選、100選にも『ソルジャー・ブルー』は入っていない。今に至っても、ことアメリカ・バンザイに反する行為はすべてアンチ・アメリカ、イコール共産主義、赤だとみなされるのです。

キャンディス・バーゲン
(Candice Bergen;1946年~)
-…つづく
第41回:西部劇名作選 ベスト20 No.7
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