第38回:西部劇名作選 ベスト20 No.4
ゲーリー・クーパー主演 『ベラクルス』
西部劇は大人の男の童話だ。ありえない話に満ち満ちていようと、ストーリーの展開や出会いが現実的であろうとなかろうと、観る者をスクリーンに引きつけ、堪能させれば、それで良いのだと思う。
その最たる西部劇が『ベラクルス』だ。監督ロバート・アルドリッチが意図したのも大人の童話だと思う。西部劇である以上、ガンファイトが随所にあることはあるのだが、どこかシニカルでユーモラスなのだ。
1954年の作品で、主演は人気最好調だったゲーリー・クーパー、そして新人と呼んでも差し支えない、これ以前に主演したのは映画『アパッチ』だけのバート・ランカスターだった。
人間、誰しも自然に滲み出る性格、笑み、苦味があるものだが、俳優で、それなりに役作りのトレーニングを経ても、ユーモアの感覚は持って生まれた感性で、学びで身につくものではないらしい。
アクションスターでは、シュワツネッガーにはユーモア感覚が溢れ、『ロッキー』のシルベスター・スタローンにはそれがない。
ここに登場するバート・ランカスターはアウトロー役だが、無精髭の汚れ、脂ぎった顔でニカッと真っ白な歯を見せて微笑む時、どこか憎めない実にいい表情になるのだ。この笑みが相手役の大スター、ゲーリー・クーパーをすっかり食ってしまっているのだ。
ゲーリー・クーパーと親しかった、大スターのクラーク・ゲイブルは、バート・ランカスターと共演するのはやめた方が良いと忠告している。バート・ランカスターは若く、運動能力がずば抜けている上、演技も達者だから、共演相手を食ってしまうと言っているのだ。
俳優同士、流石に相手を見る目が確かなのに驚かされる。だがこの映画『ベラクルス』はバート・ランカスターがプロデューサーの一人として加わっていたから、ゲーリー・クーパーに相手役を選ぶ余地はなかったのだが…。
ゲーリー・クーパー演じる元南軍の将校、ベンとガンスリンガー(Gunslinger;殺し屋)でアウトローのジョーがヒョンなことから、メキシコ皇帝マックスミリアンの財宝、大金を港町、ベラクルまで運ぶ、道中もので、最後にはお決まりである、二人の決闘がある。ヤジキタほどではないが、軽妙なストーリー展開で、道中を退屈させずに見せてくれる。

『Vera Cruz』ポスター
貴公子然としたゲーリー・クーパーと汗臭い髭ズラのバート・ランカスターが
絶妙のコンビを見せる『ベラクスス』 。大人の娯楽映画ここにあり。
この映画の影響力、童話的な話の展開、西部劇の面白さは、『荒野の7人』『ワイルド・バンチ』『プロフェッショナル』などに引き継がれ、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンへと影響を及ぼしている。
余談になるが、ユニークな潰れ顔のチャールス・ブロンソンが“チャールス・ブチンスキー(Charles Buchinsky)”という名前でちょい役だが、出演している。
話の進行上、ロケはすべてメキシコで行われた。1954年当時、西部劇の全編を外国、アメリカの西部以外で撮影するのは異例のことだった。西部劇なのにモニュメントバレーもワイオミングの山々も背景になく、大量の牛を追う大平原もなくても、成り立つと明かして見せたのだった。
西部史家であり、映画評論家のデイヴ・ケールは、この映画『ベラクルス』はそれ以降の西部劇に非常に大きな影響を及ぼしたとし、サム・ペキンパー、セルジオ・レオーネらはその筆頭であろうとしている。
そして、最後の決闘である。
ゲーリー・クーパー演ずるベンとバート・ランカスター演じるジョーが、西部劇史上に残る決闘を演じるのだが、軍人上がりのベンがガンスリンガーのジョーに勝つのも不自然だが、ジョーが撃たれ、例のニカッと微笑み倒れる名場面になる。
映画ファンという人種は、よくぞ細部まで目が届くもので、早撃ちの決闘では明らかにジョーの方が素早く拳銃を抜き、撃っている、老境に差し掛かっているベンは相当遅れている…というのだ。
そんなことは映画自体の面白さとは関係ないことだが…。

バート・ランカスター
(Burt Lancaster;1913-1994)
-…つづく
第39回:西部劇名作選 ベスト20 No.5
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