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■フロンティア時代のアンチヒーローたち〜西部女傑列伝 5
 

第7回:カルト・ケイト 〜仕組まれたリンチ総決起集会

更新日2017/07/20

 

新婚早々のジェイムスとケイトがなぜコットンウッドに吊るされなければならなかったのか、彼らは全く牛泥棒を働いていなかったのか、実際牛を盗み、それにケイトのブランド“LU”の焼印を押していたのか、はたしてそれだけのことが二人をリンチにするほどの理由付けになるのか、様々な観点から、今となってはほとんど実証不可能な事件を探っていこうというのが、今回のカトル・ケイトを書いている目的なのだが、マズは事実関係だけを時間を追って書き連ねていきたいと思う。

リンチする側はケイトとジェイムス夫妻を吊るすに値する罪を犯していると信じていた。彼が言う罪とは尽きることろ、ケイトが二十数頭の牛を盗み、彼女のブランド“LU”の焼印を押し、彼女の60エーカーの柵の中に囲ったというだけなのだが、それ以上に感情的対立が先行していたのだろう。

ケイトとジェイムスのリンチに加わった者は、いずれもスイートウォーター(良い水場がある)のケイトがホームステッドからもらった160エーカー、それに隣接しているジェイムスの牧場近くのものばかりだった。彼らは巨大な土地を所有しているクォーターサークル71牧場の主ジョン・クレイの息のかかった者だった。

このリンチに加わった6人、M・アーネネスト・マックリーン(M. Ernest McLean)、ロバート・“キャプテン”M.ガルブレイス(Robert“Captain”M..Galbraith)、ジョン・ヘンリー・ダービン(John Henry Durbin)、ロバート・コーナー(Robert Conner), トム・サン(Tome Sun)、そしてリーダー格、アルバート・ジョン・ボスウェル(Albert John Bothwell)で、これは確実なのだが、どのような意図からだろうか、リンチに加わった人数が10人はいた、否20人はいたはずだとハッキリしないのだ。後に裁判(茶番だが)になった時でさえ、人数は確定できていない。これは牧畜男爵、巨万の富を抱えるジョン・クレイが、ケイトとジェイムス殺しに何がしかの報酬を約束し、それを得んがために、俺も加わっていた…と言い出す御仁が増えたせいだと思われる。

黒人をリンチに架ける時もそうだが、事前に集まり、盛んに気炎を挙げ、先鋒的論客があいつは吊るさなければならないとアジルのが常で、暑い日には(実際、ケイトとジェイムスが吊るされた日は猛暑に襲われていたが)良く冷えたビールが回され、それじゃ、これからあいつらを吊るしてやれと出かけたものだ。田舎町ではリンチは大きな余興だったから、ギャラリーもゾロゾロ付いて行った。南部の黒人リンチほどではないにしろ、ケイトとジェイムスのリンチの前の総括集会に集まった者は20名を越していたから、そこにいた全員をリンチ実行犯として数えたのかもしれない。

中心的6人はすでにハラを決めていたし、リンチ用の正装をしていた。汗臭い普段のカウボーイ、牧童用の仕事着ではなく、小奇麗なシャツ、ズボンそしてガンベルトに拳銃、ライフルを片手に、まるで全員ウチ揃って写真館にでも赴くような衣装立てで、この総括、総決起集会に望んでいる。トム・サンに至っては、真っ白な天蓋付きの真新しいバギー(軽い二輪の馬車)まで仕立てて乗り込んできた。1889年7月20日の朝のことだ。

この時に、アジテーター、リーダー格のボスウェルが自分の友人だとして、ジョン・バーリーコーン(John Barleycorn)なる男を連れてきた。この男は傍目から見ても早朝からすでに酔っ払っていた。バーリーコーンも近くに牧場を持っていた。ボスウェルがなぜ酔っ払いで喧嘩っ早いバーリーコーンを巻き込んだのか、分かるような気がする。このリンチ総決起集会は人数が多ければ多いほどアンチ・ケイト&ジェイムス・キャンペーンが有利に動くと考えたのだろう。また、ここに集まった主力メンバーたちにしろ、プロのガンマンではなく、それまで人を殺めたことなどない連中だった。素人の烏合の衆だったから、一人でも多くまともに拳銃を扱える人物としてバーリーコーンを巻き込んだのだろう。

本当の拳銃使いだった牧畜捜査官のジョージ・ヘンダーソン(元ピンカートン探偵社で働いていた)は参加していないし、彼の雇い主で影で糸を引いていた牧畜男爵ジョン・クレイも表に顔を全く出していない。ただ、ジョン・クレイはモーリー・マックガイアという金のためならためらうことなく何でもする男を牧童として雇い入れている。マックガイアはキナ臭い過去を持ち、ペンシルバニアの炭鉱ストの際、会社に雇われスト破りをしていた。その時、労働者の組合にスパイとして入り込み、多くの炭鉱労働者を会社側に売り、内部からストを崩壊させたりした過去を持っていた。そんな男をジョン・クレイは雇ったのだ。 

リンチのアジテーター、ボスウェルの家はケイトの小屋から700、800メートルしか離れていなかった。ケイトがホーステッドで政府から土地を貰い受けるはるか以前から、ボスウェルは誰の土地でもなかった、ケイトが貰い受けることになる土地に牛を放っていた。そこへ、ケイトが合衆国政府のお墨付きを持って現れたのだ。ボスウェルが面白かろうはずがない。

このリンチ総決起集会でボスウェルが、ケイトとジェイムスは彼の牛を盗んだ、自分のところで働いている二人の牧童がはっきりと目撃しているし、動かぬ証拠もある、こんなことを許しておくわけにはいかない、二人を吊るせと気炎を上げた時、一人の小牧場主、サム・ジョンソンという男はボスウェルの言動に疑問を持ち、その場を去っている。

サム・ジョンソン自身小さな牧場の揚がりだけでは生活が成り立たず、牧畜男爵ジョン・クレイに寄らば大樹の陰的にすがり、アンチ・ケイト&ジェイムス派ではあったが、かといってボスウェルの言動に信を置くことができなかった…と言っている。また、リンチ集団は程度の差こそあれ、全員相当酔っ払っており、そんな状態で、酔った勢いでの行動には付いて行けない…と離脱したのだ。これは多分に勇気のいることだ。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第4回:カルト・ケイト
〜アンチ牧畜男爵的思想の芽生え
第5回:カルト・ケイト
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第6回:カルト・ケイト
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