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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第24回:サンタフェ・トレイルのギネスブック的スピード記録

更新日2024/10/10

 

西部開拓時代に使われていた街道は大きく分けるとオレゴン・トレイル、それとほぼ並行して走っているモルモン・トレイル、あまり知られていないテキサスへ向かうサウザン・オヴァーランド・トレイル、最も使われたサンタフェ・トレイルであった。もっとも、それに加えて数多くの脇道があった。

オレゴン・トレイルは、主に西へ向かう開拓民と金鉱目当てのヒトヤマ組が圧倒的に多かった。それに対し、サンタフェ・トレイルはメキシコがスペインから独立し、貿易ルートとして1821年に確立された。貿易と言っても、メキシコからはペソ銀貨、バッファローの毛皮、アメリカからは種子島銃に毛が生えただけのような鉄砲、ピストルなどの武器の交易だけだった。

それぞれのトレイルに特徴というのか難所があり、いずれも危険が伴った。

サンタフェトレイルは大きな山越こそないが、アパッチ族やコマンチ族に襲撃される可能性があった。インディアンの事情に詳しく、彼らと交渉できる斥候ガイドも活躍していた。

サンタフェ・トレイルはミズーリー州、インディペンダンスにあるミズーリー川の渡し場、ウエストポートを出て、一路南西に大平原を横切りサンタフェに至るルートで、距離にして約900マイル(1,448キロ)ある。サンタフェのすぐ西にサングレ・デ・クリスト(キリストの血)山脈が南北に走っているが、急峻な岩山がゆるやかになる山脈の南端近くにあるゴリエタ峠だけが山越えで、あとの800マイル以上は大平原を横切ることになる。

当時の幌馬車隊は1日平均20~40マイル程度の距離を進んだ。途中のフォート・ザラ、フォート・ダッジ、ロアー・スプリングなどでの休憩、食料品や牛馬の飼料などの買い付けで3~7日過ごしていたようだから、サンタフェまで全行程を3ヵ月で乗り切れば上出来だった。馬車が故障したり、引かせていた牛が倒れたり、インディアンの襲撃に遭うなどの事故がなく、2ヵ月で渡るなら、非常に早い部類だった。


フランシス・ハビエール・オーブリー(Francis Xavier Aubry)と名乗る24歳の小男が、サンタフェの町の広場からミズーリー州のインディペンダンスまで6日間で横断してみせると出発した。名前から判断するに、ヒスパニック、スペイン、メキシコ系のような響きだが、彼はフランス系のカナダ人だった。
 
騎手は競馬で観るように、痩せ型の小男に限られる。郵便速達サービスのポニー・エックスプレスの騎手も若い小男ばかりだった。ジョン・ウエインのような大男は長距離の馬の旅向きではなかった。西部劇で観るように走らせると、馬は10マイルと行かずに潰れる。

アメリカの草原向きに改良された馬はクォーターホースと呼ばれ、4分の1マイルを全力で走らせることができるところから、クォーター(1/4)ホースと名付けられたくらいだから、馬はせいぜい2、3マイル全力疾走させるのが限度で、陸上競技なら短距離から中距離の選手だった。長距離をゆっくりとしたペースで歩かせるにはミュール(馬とロバの掛け合わせ)の方がはるかに優れていた。

6日間でインディペンダンスに着いてみせる、イヤそんなことは言外で全く不可能だ、よし、それなら賭けよう…ということになり、1,000ドルもの大金を賭け、フランシス・オーブリーがサンタフェを出発した。ということは、オーブリー自身に相当な財力があり、このサンタフェ・トレイルの経験も豊かだったのだろう。

スタートの日、1848年9月12日には幌馬車隊ガイドとして有名だったキット・カーソンの姿もあったという。6日でサンタフェ・トレイルを渡るなんてことは全く不可能だと、オーブリーの負けに賭ける人の方が圧倒的に多かった。サンタフェにタムロしている連中は皆が皆サンタフェトレイルを渡ってきた経験者だったから、その厳しさ、余談の許さない自然条件、それに加えてアパッチ族、コマンチ族の襲撃を知っていた。騎兵隊でも通常1ヵ月はかかる道のりだった。

オーブリーの負けに賭けていた連中は、自分の体験から判断したのだ。それは当然のこととは言え、オーブリーの能力を勘定に入れていなかった。

オーブリーはおそらく体重が現代競馬の騎手並みの40キロくらいしかなかったし、彼の愛用する鞍も特別製の軽いものだった。携帯する水、ビーフジャーキーなども最低限に抑えていた。何よりも彼の能力、小さな身体に秘めた筋ばった筋肉と持久力、そして馬の状態を読む能力、加えて緻密な計画性を知る人は少なかった。

実際、彼はリレーの馬をサンタフェ・トレイル全行程に配置していた。おまけに、馬の性格に合った中継点までの距離と、トレイルのコンディション、砂地、瓦礫、ブッシュなどに強い馬を使い分け、配置していた。

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フランシス・オーブリーのサンタフェ・トレイル全行程
西部史家には好き者が多く、彼らはオーブリーが
1日平均133マイル馬を走らせていると計算している

 

オーブリーは経験から馬の限度、馬が潰れる前にどこまで追い込めるかを充分に知っていた。彼の愛馬、メス馬ドーリーもサンタフェに必ず引き取りに行くという条件で、途中で出会った幌馬車隊に預けている。

馬をよく知り、馬に対する愛情をふんだんに持っていたオーブリーでさえ、この行程で一頭、潰している。その地点から彼は徒歩でフォートマンまで歩いてさえいる。アーカンソー川を渡った地点は、現在、“オーブリー・クロッシング”と呼ばれている。

後半に入ると、途中の砦や村、町で彼を応援する人が多く、食事を提供したり、馬の世話をしたり、数時間の仮眠所を提供したりで、ヤンヤの声援が飛び交うようになった。

1848年9月17日の夜10時、フランシス・ハビエール・オーブリーはミズリー州インディペンダンスに到着し、賭けに勝ったのだった。

オーブリーがいかに優れた馬の乗り手であったかは証明されたが、一体彼はいつ、どこで、どのように睡眠を取っていたのだろうか? 慣れると乗馬したままで仮眠を取ることができるとは言うのだが、いずれにせよ、彼は超人的な能力の持ち主だったに違いない。

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1878年に出版された“Les Canadiens de L’Ouest”
(西部のカナダ人)の 挿絵に使われたペン画
画期的なサンタフェ・トレイル・クロッシングの30年後、彼が54-5歳の時の肖像

オーブリーが並み以上の人間であったことは、カリフォルニアのゴールドラッシュを知った時、1849年のことだと思われるが、自分で金探しに加わるのではなく、それだけのヤマ師集団が金鉱探しに狂騒しているなら、彼らに食料が必要だと判断し、3,500頭の羊をサンタフェ界隈で買い集め、カリフォルニアに運んだことでも分かる。

それが大成功したので、次に1万4,000頭もの羊を鉱山へと運び、それも飛ぶように売れたのだった。彼自身、エネルギッシュな冒険家であったが、同時に状況を判断する能力に長けた企業家でもあった。

だが、サンタフェでウエイトマンというゴシップ新聞記者と小さな諍いを起こし、殺されてしまったのだった。1854年8月のことだった。30歳になるかならないかの若さだった。墓石はサンタフェのカトリック墓地にある。

オーブリーは記念碑的なサンタフェ・トレイルを6日以内で渡るという賭けに勝った後、「私はそれ以前にもサンタフェ・トレイルで何頭もの馬を潰し、死なせてきた。おそらく、それらの馬には軽く1,000ドル以上の価値があった。賭けの1,000ドルは、私にとって問題にもならない、考慮するにも足りないお金で、私はお金のためではなく、この西部で他の人がなし得なかった冒険に挑戦したかったのだ」と述べている。

-…つづく


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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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