第42回:西部劇名作選 ベスト20 No.8
ジョン・ウェイン主演 『捜索者』 (原題: The Searchers;1956年)
日本語の『捜索者』というタイトルだと、探偵小説か『母を訪ねて3千里』風に聞こえてしまう。英語の題は『The Searchers』で、海賊の宝とか大昔の仏石などを探し求める響きがある。
映画『捜索者』は1956年に公開された時、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演のなり物入り大作だったにも拘わらず、アメリカでの評判も人気も芳しくなかった。それどころか興行収入も悪く、失敗作とみなされていた。それが次第に評価がうなぎ上りに上昇し、2008年のアメリカ映画協会のランキングでは西部劇No.1にまでなっている。私自身、映画『捜索者』は西部劇の名作中の名作だと思う。
ジョン・ウェインは大根役者だという人は是非この映画を観て欲しい。確かに、彼はシェイクスピアとかブロードウェイの舞台で演ずることはできないだろうけど、ピタリとハマリ役に当たった時に輝きかつ鋭い演技をする。それがこの『捜索者』のイーサン役だ。
イーサンは南北戦争後も米西戦争に参戦してきた南軍の将校だ。頑固な軍人気質が骨にまで染みつき、偏狭なインディアン蔑視を隠そうともしない中年男だ。そんな彼が、姪のデビーがコマンチに誘拐されたのをデビーの兄のマーティンと探し求める筋書きだ。
ジェフリー・ハンター演ずるマーティンはインディアンとの混血で、乗馬は巧みだが、まだすべてに経験の浅い、尻の青い少年から青年に、一人前の男への成長過程にあった。
この二人のコミカルなやり取り、弥次喜多道中がストーリーを引っ張っていく。マーティンはインディアンの女性に付き纏われたり、メキシコの貧村でも酒場の女に惚れられたりで、まるで漫画の世界を映したかのような展開が続く。
二人の“捜索者”はなんと5年の年月を、デビーを誘拐したコマンチを追い求め大平原と深い雪に覆われた北米を彷徨うのだ。コマンチ族の酋長はスカー・フェイス(傷のある顔)という男で、すでに幾人もの妻を持っていた。デビーがその一人にさせられる可能性があった。
コマンチの部落を騎兵隊が襲い、殺戮を展開した時、マーティンはスカー・フェイスを殺し、デビーを救出するのだが、デビーは「私はもうコマンチ族だから、白人の社会へは帰らない」と宣言するのだ。
インディアン嫌いで冷血なイーサン=ジョン・ウェインは、デビーに銃を向けたのだ。それをマーティンが自分の身を盾にデビーを庇うシーンが一つの山場になる。
だが、イーサンの心が和らぎ、インディアン、コマンチの娘然としたデビーを軽々と抱き上げ、彼女の育った家に連れ帰り、デビーを家族の元に届けたイーサンは一人でそこを去って行くというラストシーンになる。
話の筋ではテキサスの開拓部落が舞台になっているが、ジョン・フォードはこの映画のロケをお気に入りのモニュメント・ヴァレーに移し替えている。背景に映し出されるモニュメント・ヴァレーが雄大で震撼とするほどの美しさで、かつとても有効に使われているので、ほとんど映画の主人公はモニュメント・ヴァレーであるかのようだ。

アメリカで初演の時のポスター
いくらジョン・ウェインの名前があっても、雄大なモニュメント・ヴァレーが
背景にあっても、これじゃインパクトがなさすぎると思うのは私だけだろうか。
ジョン・フォード、ジョン・ウェインの鳴り物入りであっても、ヒットしなかった西部劇だ。
だが、次第に評価がうなぎ登りに上がり、今では『駅馬車』をしのぐ代表作になっている。
『捜索者』が初演当時ヒットしなかったのは、映画ファン、西部劇ファンはジョン・フォードとジョン・ウェインのコンビだから、勇壮な活劇を期待していたからだろう。『捜索者』には取って付けたようなインディアンとの戦闘があるにはるが、ストーリーはあくまで頑固一徹な退役軍人の執念と最後にインディアンになり切った姪っ子を受け入れる心理葛藤劇だ。
西部劇にある善玉と悪玉、インディアンとパイオニア住人の対立がテーマではない。馬を飛ばして駆けつける鞍馬天狗じゃないが、ラッパを吹き鳴らし救援に来る騎兵隊が登場しないわけではないが、それはあくまで付け足しで、ジョン・ウェイン演じるイーサンの姪っ子捜索にかける執念がテーマなのだ。
もちろん西部劇独特の非現実的なところがたくさんあるにはある。
開拓牧場で暮らす女性、主婦ら(酒場の女性ではない)奇妙に小綺麗なドレス、エプロンをつけ、揃いも揃って、ウエストがキュッと締まった体型で、しかも髪も綺麗に、今ヘアードレッサー・サロンから帰ってきたばかりの髪型で、綺麗に化粧をしているとか、牧場の主人、牧童がシミやホコリをかぶっていない、汗のマーク一つないシャツを着ているとか、コマンチの中で5年以上暮らしたデビーが博物館のインディアンの衣装そのままのような真っサラな服を着て、鮮やかな薄化粧をしているなどなど、数え上げればキリがない。
この映画でインディアンに囚われた白人娘、デビーを演じているのは若きナタリー・ウッドで、黒髪、黒く大きな目が印象的だ。
決闘シーンがなく地味な映画だが、味わいのある西部劇であることは確かだ。
-…つづく
第43回:西部劇名作選 ベスト20 No.9
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