第50回:西部劇名作選 ベスト20 No.16
コーエン兄弟監督・製作・脚本 『トゥルー・グリット』(原題:True Grit;2010年)
大当たりを取り、大成功を収めた作品のリメイクは柳の下のドジョウと取られるし、同じ監督、俳優、スタッフが第二作目を撮るのでもないかぎり、あるいはシリーズものでもない限り、元々の作品を上回ることは少ない。例外はスティーブン・スピルバーグが撮った『ウエスト・サイド・ストリー』だろうか。
この『トゥルー・グリット』はジョン・ウェインで大ヒットしただけでなく、無骨な役者としてハマり役だったジョン・ウェインは、この映画でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、その他多くの主演男優賞を獲得している。
西部劇の名作を違う視点からコーエン兄弟がリメイクを試みた。コーエン兄弟はヘンリー・ハサウェイ監督、ジョン・ウェインの第1作のリメイクというより、チャールス・ポーティスの原作小説に惹かれ、制作に乗り出したようだ。もちろん、映画だから原作を100パーセント、スクリーンに映し出すのは不可能だ。映画には映画の良さ、映画ならでは表現の仕方がある。
ちなみに“True Grit”とは、本当の勇気、本物のガッツ、気概を意味する。

こんな味気ないポスターは見たことがない。文字だけだ。
コーエン兄弟らしいと言えば、言えなくもないが、
このポスターを観て、よしこの映画を観に行こうと思う人がいるのだろうか?
どうにも、原作を読んでいないので、評論家や製作者の受け売りになってしまうのだが、この第2作目(テレビ映画も作られているから、正確には2作目とは言えないが…)コーエン兄弟の『トゥルー・グリット』は、原作の14歳の少女の目を通して語られた物語になっている。それが西部劇の分野ではユニークな復讐物語をカタチ作っているのだ。
と書いてから、コミカルな『キャット・バルー』でも東部で育ったポット出の女性が西部にやってきて、父親を殺した犯人へ復讐する話だったことを思い出した。西部劇に(チャンバラ映画もそうだけど)復讐談はありきたりの付きものなのだ。それをいかに展開していくか、どのような人物を配するかが鍵になるのだろう。
14歳の少女マティー(ヘイリー・スタインフェルド)が一人でフォート・スミスに乗り込んできて、父親殺しの犯人を突き止め、復讐を果たすために、片目でアル中のUSマーシャル(ジェフ・ブリッジス)を雇う、その過程、どうやってお金を作り、どのように片目のマーシャルにアプローチし、途中で同じ殺人犯を追跡しているテキサスレンジャー(マット・デイモン)と付きつ離れずの道中を進め、最後、犯人グループを殺すという、簡単に言ってしまえばそんなストーリーなのだが、伏線が色々あり、マティー、USマーシャル、テキサスレンジャー三つ巴の展開が笑わせ、緊張させられ、退屈させないのだ。
それはこの三人が群を抜く達者な役者であり、脇役、判事、悪役の果てまで芸達者を揃えているからだろう。だがなんと言っても、主役は14歳の少女マティーで彼女を演じたヘイリー・スタインフェルドにこの映画の成功がかかっていることは監督のコーエン兄弟は重々承知していた。
1万5,000人もの応募者からコーエン兄弟が選んだのがヘイリー・スタインフェルドで、もちろんこの映画が初めての出演、どころか演劇のトレーニングすら受けたことがない、ド素人だった。
いつも思うのだが、映画人、監督、製作者らは、どのように俳優の素質を見抜くのだろう?
映画の最初の5分間で、この少女は只者でない、天才だと思い知らされた。もっとも、私は子役に弱い傾向はあるが…。そして、コーエン兄弟のヘイリー・スタインフェルドを抜擢したという選択は大当たりだった。撮影時、ヘイリーは13歳だった。
コーエン兄弟の『トゥルー・グリット』は、アカデミー賞10部門にノミネートされた。主演のジェフ・ブリッジス、そして当然だがヘイリー・スタインフェルドもノミネートされた。だが、一つも賞を獲得しなかった。10部門にもノミネートされながら、一つも賞を獲得しなかったという奇妙な記録が残った。1969年版ではジョン・ウェインが主演男優賞を受賞している。
映画評論家協会賞では、作品、監督、主演男優、シナリオ、助演女優、カメラ、衣装、メイクアップなど、賞を独占したかのような成果だった。
英国のアカデミー賞では、作品賞はもとより主演男優、そしてヘイリーを助演ではなく主演として扱い、主演女優賞をヘイリーに与えている。
ユニークな映画作りに徹しているかのようなコーエン兄弟の映画は、私にとって見逃せない監督で、従来のハリウッドにはなかった映画作りをしている。
そして、このコーエン版『トゥルー・グリット』は彼らの作品の中では興行的に大成功を収めた作品だ。制作に3,500万ドルかけ、ボックスオフィスの売上だけで1万5,200万ドルの収益があった。これはDVD やビデオの著作権料は別にした数字だ。西部劇にしては異例の大成功を収めた映画になったのだった。
-…つづく
第51回:西部劇名作選 ベスト20 No.17
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