第39回:西部劇名作選 ベスト20 No.5
ユル・ブリンナー主演『荒野の7人』
これぞ娯楽に徹した映画だ。原作はもちろん黒澤明の『七人の侍』で、それをそっくり西部劇に移し替えたコピーで、まあ良くぞここまで上手くコピーしものだと呆れ、感心するほどだ。だが、コピーとしては、非常によくできている。もちろん黒澤明の原作にある心理的葛藤、農民の狡猾さ、自分の利益だけを求める姿勢などは描かれていない。その分、無償で命をかけて悪漢どもと戦う男たち勇壮、カッコ良さ、死に場を求めているとしか思えない切れの良さがそこにある。
ここでは、黒澤の『七人の侍』との比較は抜きにして『荒野の7人』を語ろうと思う。
主演のユル・ブリンナーは、1920年にウラジオストックで生まれたスイス系ロシア人だ。ロシア革命は広大なシベリアを経て、極東のウラジオストックが1922年に共産主義革命軍が傘下に収めるまで、そこは日本が統治していた。その後1927年にブリンナー一家はハルピンに移住したが、そこも広東軍の侵略に遭い(1933年)、結局、アメリカに移り住んだのは1940年のことだ。
ユル・ブリンナーは早くから演劇に打ち込み、ブロードウェイでシェークスピア(『十二夜』など)に出演していたが、何んと言っても彼の当たり役は『王様と私』で、ブロードウェイで演じた王様役だった。それを映画化する時に彼が主役になるのは決まっていたようなものだった。一方の家庭教師役は舞台ではゲートルート・ローレンスが演じていたのを、若く、美貌のデボラ・カーに変えられた。
ユル・ブリンナーを有名にしたのは、彼の演技力もさることながら、頭をツルツルに剃り上げたスキンヘッドだったと思う。今でこそ、坊主頭、スキンヘッドはどこにでもいるが、当時はショッキングなヘアースタイル?だった。
ハゲ頭がユル・ブリンナーのトレードマークになり、それ以後、『ソロモンとシバの女王』『十戒』『カラマゾフの兄弟』『アナスタシア』などなど、すべてツル禿げ頭で通している。
さて『荒野の7人』だが、原作の映画権をユル・ブリンナー・プロダクションが買い取り、舞台をメキシコの貧村に移し替え、製作に乗り出したのだった。ユル・ブリンナーは企画力とそれを実行に移す行動力を持っていたのだろう。
彼の相棒にスティーブ・マックイーンを選び、また、選ばれた他の5人、チャールズ・ブロンソン、ジェームス・コバーン、テレビ番組ナポレオン・ソロで知られていたロバート・ボーン、名脇役のエリ・ワラシュ、新人のホルスト・ブシュホルツと、いずれもこの『荒野の7人』以降、性格俳優として名を上げ伸びてゆく俳優たちだった。
『荒野の7人』は彼ら、個性豊かで、強い印象を残す脇役で固めたのが成功した要因の一つだろう。
一番影が薄く、存在感に欠けているのが、副将とでも言うべきスティーブ・マックイーンで、彼自身、セリフが少なく、見せ場もない脚本を読んだ後、ゴリ押しで、彼の見せ場を挿入させている。
スティーヴ・マックイーンに言わせれば、西部劇が初めてのユル・ブリンナーに馬の乗り降りをはじめ馬の扱い方、拳銃の抜き方、構え方、撃ち方など、西部劇のイロハから教えなければならなかったとコメントしている。
『拳銃無宿』で拳銃使いの賞金稼ぎ役で人気を博していたスティーブ・マックイーンにしてみれば、ロシア人の舞台俳優が何でより好んで西部劇にシャシャリ出てきたのだといったとこだろうか。
俳優のトレーニングを積んできたユル・ブリンナーにとって、馬や拳銃の扱いなどは演技の一部で、いとも簡単に身に付けているのだが…。
この二人の間に、『明日向かって撃て』のポール・ニューマンとロバート・レッドフォード、『ベラクルス』のゲーリー・クーパーとバート・ランカスターの間に見られたような軽妙洒脱なやり取りはなかった。ユル・ブリンナーは眉間に皺を寄せ、ギョロ目で睨むだけの演技しか見せなかった。

『荒野の7人』のポスター
(The Magnificent Seven;素晴らしき7人とでもなろうか…)
1960年に封切られた『荒野の7人』は、アメリカで当初全く当たらなかった。それこそ無数に製作されていたB級西部劇の一つとしか見なされなかった。ところが、ヨーロッパでは大変な当たりを取り、とりわけソビエトでは馬鹿がつくほどの大当たりだった。もちろん、日本でも当たった。人気の逆輸入のような形でアメリカ本土でも次第に観客が増え始めた。
エルマー・バーンステインのテーマ音楽は、タバコ“マールボロー”のコマーシャルに使われ、荒馬を乗りこなす西部の汗臭い男どものイメージを形作った。
ただ、2時間何も考えずに過ごしたいなら、荒唐無稽な男の童話を楽しむなら、『荒野の7人』は娯楽映画の筆頭に数えても良い…と思う。
余談だが、ウラジオストック市にあるユル・ブリンナーが生まれた家の前には、まるで革命の英雄のように、彼の銅像が建っている。

ウラジオストックにあるユル・ブリンナーの生家と銅像
-…つづく
第40回:西部劇名作選 ベスト20 No.6
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