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■フロンティア時代のアンチヒーローたち〜西部女傑列伝 4
 

第7回:パール・ハート 〜名前を消した転落の後半生 [最終回]

更新日2017/05/25

 

パール・ハートが特赦で釈放されてから、ドサ廻りの見世物ショーに加わっていたところまでは確かだ。田舎の町々を2、3年回っていたようだ。そのショーを見たという証言もたくさん残っているが、ハナからいい加減な見世物だから、パール本人が"アリゾナの盗賊女王"として出演していたのか、誰か他の女性が代役を勤めていたのか判然としないところがある。 と言うのは、一つのショーが当たりを取ると、即、雨後の竹の子のごとく、同じようなショーが続々と現れ、パールが同時進行の形でかけ離れた町々に登場しているからだ。

一説によれば、バッファロー・ビルのワイルド・ウエスト・ショーに呼ばれ、駅馬車強盗を再現したこともあると言われている。当時のワイルド・ウエスト・ショーのポスターや演目にパールの名を見つけることはできなかったが…。

パールはカンサスシティーでタバコ屋を営んでいたらしい、と言えるのは1904年にL.P.キール夫人と名乗る女性が盗品を売買していたとして逮捕され、キール夫人の別名(本名)がパール・ハートだと割れたのだ。だが、この件で実刑を喰らっていない。その時、キール夫人=パールが妊娠していたので実刑を免れたと言われている。

パールに平穏な人生を送ってもらいたいという世人が作り上げた伝説だろうか、パールがアリゾナの牧場主カルヴィン・バイウォーターと結婚し、80歳まで生きたと信じているモノもいる。バイウォーター夫人は物静かで信心深く、周囲の尊敬を集めていたというから、パールの激しい性格とは180度異なる。その上、バイウォーター夫人自身が"私はパールである"とは言っていない。

通説によれば、1924年にパールは思い出のツーサン拘置所を訪れたことが流布されている。

20世紀になってからも、アメリカの西部辺境では今流に言えばアイデンティティー(ID)を変えて雲隠れすることが可能だった。過去を断ち切り、新しい人生を始めようとする群れがあった。パールもどこかで名を変え、ヒッソリと生きていたのだろうか…。

パールの伝記やウィキペディアでは1928年までの生存を確認しているが、その後は不明としている。だが、数寄者史家はパールの後半生を追い求め、探し出すことに血道を挙げた。中でも、現時点のことだが、最も信頼のおけるパールの後世は、1940年に行われた国勢調査の時に、アリゾナ、ジラ郡、フォルクローアの町に住んでいた女性がパールに相違なく、彼女は、大戦後、馴れ親しんだグローブの町に移り住み、1955年の12月に亡くなったというものだ。もしこれが事実だとすると、パールは84歳まで生きていたことになる。

一方で、パールは1960年まで消息していたとも言われる。パールは大戦後、しばらく生存していたという説は、インターネットで"私はパールの後半生を見つけた"という大発見のようなブログで見たのだが、どこまで信用してよいものか、判断しかねる。

パールの生涯に充足した幸せな時はほとんどなかった。好奇心いっぱいで、玉のように転げ回る明るい性格、男心を即座にとらえる身から溢れ出るコケティッシュな媚態はフレッドとの同棲で叩き潰され、影を潜めてしまった。パールにあるのは男にもてあそばれ、振り回された暗い人生だけだ。

もとより、パール自身が若気の至りで、小娘の時に家を飛び出し、ヤクザなフレッドの元に走った時に彼女の人生の歯車が狂い出したのだが、当時のピューリタン的モラルが追い討ちをかけ、一度足を踏み外した女性は坂を転げ落ちるように、酒に溺れ、モルヒネを射ち、春をひさぐしか道はなかったのだ。

パールは“西部史上、初めての女性駅馬車強盗” “アリゾナの駅馬車強盗女王” “盗賊の女王”と語られ、伝説化されたが、そこにあるのは、年端の行かない娘が悪い男に引っかかり、転落の道を辿っただけの“哀れな娘”のよくある話だ。

パールは1928年以降、忽然と消えた……としておくのが、この不幸な女性に対しての優しさだろう。

パールの子供たちがどのような人生を送ったかも知られていない。 





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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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バックナンバー

第1回:パール・ハート
〜遅れてきた女性駅馬車強盗の生い立ち
第2回:パール・ハート
〜シカゴ万博で西部熱の虜となる

第3回:パール・ハート
〜流れ流れてアリゾナ・フェニックスへ

第4回:パール・ハート
〜初めての駅馬車強盗

第5回:パール・ハート
〜逮捕・裁判、そして刑務所へ

第6回:パール・ハート
〜脱獄・判決そして恩赦で釈放


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