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■フロンティア時代のアンチヒーローたち〜西部女傑列伝 4
 

第1回:パール・ハート 〜遅れてきた女性駅馬車強盗の生い立ち [新連載スタート]

更新日2017/04/20

 

カラミティー・ジェーンは"草原の女王"、ベラ・スターは"女ジェッシー・ジェイムス"、アリスはそのまま"ポーカー・アリス"と、まるで襲名披露のように渾名、公称が付いているが、このパール・ハート(Pearl Hart)は"唯一の女性駅馬車強盗"というものだ。

パール・ハートは遅れてきたパイオニア・ウーマンだった。べラ・スター、ポーカー・アリス、カラミティー・ジェーンよりおよそ20年遅れた1871年(1870年という説もある)にパール・テイラーとして生まれている。場所はカナダのオンタリオ州、リンゼイで両親ともにフランス系だった。

1871年といえば、すでに西部開拓時代は終焉を迎え、残照だけが奥地に残っている時代だ。大陸横断鉄道は1869年に貫通していた。パールが西部辺境に身を投じなければならい理由はまったく見付からない。ただ、西部開拓の余熱に当てられたとしか言いようがない。

パール・ハートを特徴づけるのは、彼女の底抜けの快活さ、表情の豊かさ、それがはち切れんばかりに小さな体に収まっていたことだろう。成人しても、身長は157センチ、体重も48キロ程度だったと言うから、平均身長が今よりもかなり低かった当時においてもプッテットで、大人になっても少女に見られる得な体つきだった。もちろんそれに加えて、彼女が意識していないにしろ周囲を明るく照らす彼女の性格が加わり、とてもモテタようだ。

あまりにアウトゴーイングで天真爛漫すぎる性格を両親は心配したのか、パールを全寮制の女学校に入れている。ということは、両親はかなり裕福だったと言える。全寮制の寄宿女学校は今も昔も非常にお金がかかるところだ。

父親はフレデリック・ハートといい地元で尊敬されていた信心深い男で、リンゼイの町の中産階級と言ってよいだろう。両親の心配をよそに、パールは男友達をたくさん作り、取り巻まかれ、彼女の周りにはいつも追っかけグループがたむろしていた。パールはフェロモンを撒き散らす蛾のようなもので、彼女の周りにはいつもサカリが憑いた男どもが金魚の糞のように付き従っていた。 

Pearl Hart
この有名な写真は、アリゾナで駅馬車強盗を働き、
マスコミの注目を一躍集め、時の人になった時のもので、
アミダに被ったカウボーイハットと手にしたライフルは
写真用にと ゴシップ記者が用意したものだった。

私の連れ合いの従妹で4回結婚した女性がいる。相手の男性はいずれも寄りによって、どうしようもない落伍者で、仕事はしないは、彼女に暴力を振るうは、アル中だったり、彼女のクレジットカードを限度ギリギリまで使い込み、個人破産宣言までしなければならくなったりしている。よくぞここまでダメ人間に惚れ込み結婚し、その後底が割れ、大騒動の末離婚し、それにも懲りずにまた同じようなタイプの男とくっ付くものだと呆れるばかりだ。私は、「ありゃ、社会奉仕のゴミ拾いだ」と言っているのだが…。人は男運が悪いと言うが、彼女の方に煽てに乗りやすく、外面の良さにばかり目が行く性向があるのは、メクラでなくても分かる。

パールも何時の頃からか、自分の魅力を意識し、媚を売ることを知り、それを活用し出した。いくら早熟だと言っても16歳で女学校を飛び出し、しがないバーテンダーのフレッド・ハートと同棲し始めたのだから、それ以前にも女学校の門限を破り、サロンバーなどを徘徊していたとみて間違いあるまい。パールはキュートなプッテットで男どもは彼女を両手で包むようにパールに惚れ込んだし、パールも16歳にして天性の妖婦的性格を発揮し始めていた。

このフレッド(フランクともベレットともウィリアムとも呼ばれている)は女タラシのギャンブラーで、しかもアル中だった。フレッドにとって浮かれた小娘を手玉に取るのは簡単なことだったろう。二人は駆け落ちするように一緒に棲み出した。途端にフレッドが豹変し、パールを殴り始め、アルコールが彼の短腹に輪を掛け、酒乱の様相を呈してきたのだった。

それでも、夫婦の間は外から分からないもので、パールは赤ん坊を産んでいる。それも一人ではなく二人も産んでいる。その時、パールの母親はオハイオ州に移住しており、再三、フレッドの元を抜け出し、乳飲み子を連れて母親のところに帰っている。

家庭で暴君的な男に限って、手の平を返すような優しさを見せるものだが、その都度フレッドはパールを迎えにオハイオの実家に出かけ、二人で新しい人生を切り拓こう、俺は生まれ変わる…と、パールを連れ戻している。そんな彼にほだされ、パールはフレッドに付き従い、一緒に帰っているのだ。

この期間、底抜けに明るかったパールの性格が分裂し始めた。フレッドと暮らすのは陰湿な暴君と寝起きを共にするようなもので、そうかといってどこにも逃げ場がなかった。こんな状況で、落ち込まない方が不思議なくらいだ。この間、パールは4、5回自殺を図っている。偶然から死に至る前に発見されたり、パール自身の若い生命力が自らの決断を覆させたりで、どうにか一命を取り止めている。だが、パールの持って生まれた陽気な明るさは彼女の体内から消え去ってしまった。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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