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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第31回:ローレンス近郊の隠された財宝 その1

更新日2024/11/28

 

一昔前まで、日本でも公務員、教員、企業や工場で働く人の給料は現金で支給されていた。銀行振込に変わるまで、給料は現金で受け取るものと相場が決まっていたものだ。日本で一挙に給料が銀行振込になったのは、東芝の工員の給料がごそっと丸ごと盗まれた“3億円強盗事件”からだと言われている。犯人は思わぬところで日本全国の給料支給システムに改革を及ぼしたことになる。

西部の辺境では、現金がすべてだった。それも銀貨、金貨がモノを言い、紙幣は流通してはいたが、ありがたがられなかった。騎兵隊の給料も、石炭、金銀の鉱山での鉱夫たち、勇猛なカウボーイらがテキサスからロングホーン牛を追い、カンサスに運んできて、最終地で受け取るのは現金、銀貨、金貨だった。

西部劇映画のバーでよくあるシーン、カウンターにコインを投げ、バーテンダーがウイスキーの瓶を、グラスを滑らすように送ってよこす、そんな場面でも札で支払ってはサマにならない。
 
そんなところから、アウトローたちは現金を運んでいる現金輸送馬車、列車そして銀行を狙った。


西部の辺境の町には、週刊、月刊、日刊を問わず、呆れるくらい多くの地方紙が発行されていた。今で言うミニコミ誌のようなものだろうか。紙面の多くは町のニュースで占められているが、隠された財宝、アウトローが奪ったお金を何処そこに埋めたという伝説、噂に毛が生えたモノガタリも載せている。

中西部の人口4、5万人の町に必ずあるパイオニア博物館には、その町で当時発行されていた新聞が置いてある。あらかじめコピーしたものを土産物として売っていたりする。私に収集癖はないが、古い新聞を興味本位で読むのが好きだ。宣伝広告にでさえ惹かれる。あの時代に、しかもこんな辺境で化粧水を売っていたのかと感嘆し、小麦粉、砂糖、コーヒーの値段などに好奇心がくすぐられる。

そんな極小の町の新聞に、いかにもセンセーショナルに時折掲載されるのが、隠された財宝談だ。それが私が多少知っている町のことなら興味は倍になる。
 
カンサス州にあるローレンスは、カンサスシティーの西30-40マイルのある大学町だ。連れ合いがそこで学位を取るため数年を過ごし、私の方は町をほっつき歩たり、ボロ車を転がし郊外の村をうろついていた。なにしろ時間だけはタップリあったのだ。
 
1862年のこと、といえば南北戦争がすでに勃発し、奴隷保有者が多かった隣のミズーリー州に対し、カンサス州のローレンスは奴隷解放の牙城だった時代だった。北軍政府の役人で“Paymaster”という職名だから軍隊の財務的な仕事なのだろう、フランク・ミッチェルという男がその任務の一環として、軍人の給料の輸送を担当した。

バギーと呼んでいるから、幌馬車や駅馬車のような大きなものではなく、フランクが御者台に座り、その後ろに荷台があるだけの軽い、それだけに馬をトロットで駆けさせることができる馬車だったようだ。ローレンスから、およそ250マイル離れたカンサスの真ん中にあるラーンド砦まで兵隊の給料を運ぶのが任務だった。

フランク・ミッチェルがローレンスを出てサンタフェ・トレイルに差し掛かった地点で、二人組のアウトローが兵隊の給料がズッシリと詰まった樫の木に鉄のベルトを回した大きな箱を奪おうと襲撃したのだ。

この二人組は、フォウラーとラッシュとだけ名が知れている。二人組はためらうことなくフランクを射殺し、大きな木箱を運び去ろうとていたところ、フランクの現金輸送馬車を護衛するための騎兵隊が接近してきたのだ。強盗二人組は木箱を壊し、銀貨、金貨だけ持ち去ることもできず、街道から離れた木立の中に穴を掘り埋め、盗るものも取らず逃げ去ったのだ。
 
これがフランク・ミッチェルの隠された財宝談の由縁だ。

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ローレンスのメインストリート、マサチューセッツ通り(1867年撮影)

ここまでのこの話に多少おかしなところがある。フランク・ミッチェルが、いくら彼が優れた銃の使い手であり、広大な大平原を知り尽くしていたにしろ、なぜ一人でローレンスを(おそらく銀行を)離れたのか、騎兵隊の護衛と合流する地点まではほんの10マイル程度であったにしろ、南北戦争が始まったばかりで、奴隷派の私設軍隊というのか南軍シンパのテロ集団が横行しているカンサス州の東、ローレンス界隈をどうして単独で出発したのか分からない。

全くの想像だが、護衛の騎兵隊が待ち合わせた時間に来ず、途中で騎兵隊と遭遇するだろうと予測してフランクはローレンスを離れたのだろうか。騎兵隊到着まであと2時間も待てば避けられたというのは後知恵で、今だから言えることなのだろう。加えて、二人組がどうしてフランクの現金輸送のスケジュールを知ったのか、単なる偶然だったのかも分からない。

騎兵隊は遠目に強盗襲撃を目にしているし、銃声も聞いているが、彼らが駆けつけた時には、二人組は去り、フランクの死体を発見しただけだった。

騎兵隊は早速二人組の追跡に移り、いくばくもなく追いつき捕まえている。内戦中だとはいえ、いかにも荒っぽい西部の辺境らしく、騎兵隊がこの二人フォウラーとラッシュを街道筋のコットンウッドで縛り首のリンチにしてしまった。

この二人は吊られたまま数日間揺れていたのを、カーンというローレンスの男とジム・ウォーカーという郵便局員がロープを切り、遺体を北ローレンス墓地に葬っている。

明らかに二人のアウトローは木箱をどこに埋めたか白状しなかったのだ。

ところが、事件が起こった現場近くに、一部始終を目撃していた男がいた。チャーリー・シンプソンはローレンスから歩いてワカルサへ釣りに行くところだった。この界隈は森とは呼べない薮が道路脇に生い茂り、馬や馬車での旅人ならある程度遠くからでも見えるが、徒歩の人物はトレイルにいてさえ視野に入らない。ましてや低いやぶにヒョイと身を置けば見事に隠れてしまう。

シンプソンは初めから身を隠すつもりではなかったようだが、道端で休んでいる時に銃声を聞き、それから薮の中を行き、アウトロー二人組が木箱をバギーから下ろし、トレイルから離れたところに穴を掘り、埋め隠すのを一部始終見ていたのだ。

シンプソンはローレンスに取って返し、シェリフに届け出で、すべてを語った。ただ、賊が木箱を埋めた場所についてだけは黙秘を通した。苛立った官憲はシンプソンを6ヵ月の刑に処し、シンプソンは牢で、出所後に巨万の富を手に入れる夢を抱きながら刑に服したのだった。

と、ここまでは古新聞で得た情報をもとに事実関係を拾ったものだ。

-…つづく


第32回:ローレンス近郊に隠された財宝 その2

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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