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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第30回:西部の起業家 バッファロー・ビル・コディの私生活と晩年

更新日2024/11/21

 

西部開拓時代の辺境では“女日照り”が激しかった。大まかな統計だが、女性は男性の4分の1くらいしかいなかった。それも大体は既婚者で、夫に連れ添って来ていた。独身女性は希少価値があり、引く手あまたの状態だった。

それが、鉱山や鉄道敷設の現場近くになると、女性の影すらなかった。独り者の女性は……ということだが、その代わり、町の人口が200~300人になると、雑貨屋、鍛冶屋(これは主に馬の蹄鉄を作る)そしてサロン・バーが判で押したように生え出てきて、そこに娼婦がタムロし、飢えた男どもの性欲を処理していた。

ハリウッドの女優が演じるように若々しく、はちきれんばかり肢体、ウエストがキュウと締った酒場の娼婦は実在せず、子供を何人か抱え、だらしなく太り、生活苦に喘いでいるのが大半だった。

パイオニア時代の娼婦の研究?はたくさんある。それによると、荒くれ男どもは娼婦に対して偏見が少なく、結婚することも結構多かったようだ。辺境で暮らすにはともかく女手が必要だったこともあるだろう。いずれにせよ、彼女らの人生、生涯は悲惨で、平均2年で廃人になったという。性病、不潔でいい加減な堕胎、粗悪なアルコールの多飲が元で死んでいったのだ。
 
バッファロー・ビルは常に西部開拓史の最前線に身を置いてたし、斥候という軍組織の下で働いていたから、当然、辺境の町、娼婦のたむろするサロン・ギャンブル・バーに出入することもあっただろう。彼がバッファロー・ハンターをやっていた時、バッファローの肉を運び込む鉄道敷設最前線の町には真っ先に速成の移動歓楽街が生まれた。但し、サロン・バーを根城にしていたかのような親友のワイルド・ビル・ヒコックやテキサス・ジャックとは違い、バッファーロー・ビルがギャンブルやウィスキーに溺れていた記録、証言は皆無だ。
 
ビルの母親、メリー・アン(Mary Ann Bonsell Laycock)の家系は代々クエーカー教徒だったし、父親も信心深かかったから、自然クエーカー教的モラルを身につけたのかもしれない。記録としては、デキシー・ユニオン教会で洗礼を受けている。だが、彼の自伝や後の人が書いた伝記でも、彼がクエーカーの信仰を持ち続けていた…としているものはない。

ついでに、小学校もロクに出たかどうか程度の教育しかない彼が、どうしてきちんとした英語をこなし、理論的にモノを考える力を身につけたのか疑問だ。これは彼の母親が、シンシナティーに引っ越した時、カントリースクールの教職についているので、自分の子供にもそれなりの教育を施していたからに違いない。もちろん、彼自身が賢く、旺盛な好奇心を持った子供であり、何でも吸収できる能力が備わっていたのだろう。
 
バッファロー・ビルが西部のサロン・バー文化に染まらなかったのは、母親の影響もあるだろうが、早くに結婚したからではないだろうか。相手はルイーズ・フレデリッチという女性で、結婚したのは両者とも20歳になったばかりの1866年の3月6日のことだ。

奇妙なことだが、ビルの自伝ではルイーズとの出会い、そして新婚のことはほんの2、3行で片付けている。もちろん、火花の散るような恋愛感情を互いに抱いていたことは間違いないし、少ない資料、記録にもそのことが伺える。

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中年になってからのビルとルイーズの珍しい写真
離婚騒動に明け暮れていたとは思えない円満な中年夫婦のようだ

彼がホラ半分の伝記をネッド・バウントラインの肝煎りで書いたのは、ビルが23-24歳の時だから、すでに上手くいかなくなっていた結婚のことを書くに忍びなかったのだろうか。それでも、ルイーズとの間に三人の子供をもうけている、しかし、いずれも早死にしている。

忙しく外を飛び歩いてばかりいるビル、相当な金額の資産、収入を得ているらしいビルに置いてきぼりを食ったルイーズは、彼女の身内や弁護士を立てて、離婚を申し立て、相応の取り分を要求した。一方、ビルの方もルイーズが数回にわたってビル毒殺を図った(そんな事実はなかったのだが…)としてルイーズを訴え、離婚訴訟の泥沼に嵌まり込んでいた。

離婚が成立したのは、38年後の1904年になってからのことだ。ビルの外面の良い性格、派手な生活の裏に不幸だと言い切ってよい私生活があった。


バファロー・ビルは西部の立志伝の中心人物だったし、ワイルドウエスト・ショーは大当たりを取った。ビルが生きた時代は西部が大変革を遂げるのとピタリと一致している。カリフォルニアやロッキーの金鉱ブームは終わり、ポニー・エクスプレスは華やかだが短い命を終焉を迎え、大陸横断鉄道と副線が完備し、駅馬車はドンドン廃止になり、何よりもバッファローが乱獲で絶滅しかかっていた。

ビルは確かに聡明で物事を太極的に捉える能力を持ってはいたが、自分の名を冠したワイルドウエスト・ショーで当たりをとり過ぎ、ショーを立ち上げる前にあれほど緻密な計算をし、出演者を厳選していたのが嘘のように、さまざまな企画に投資し出したのだ。

ワイオミングの広大な牧場にホテルを隣接し、馬で辺境(本当は彼の牧場内だが…)を巡るツアーを始めたり、ローカル紙を発行したり、長大な灌漑用水路を堀り、荒地を耕作可能な土地にするための政治運動に乗り出したり、大きなダムの建設に身を入れたり、政治絡みの白人どもがインディアン居留地を侵略し始めた時には保護のための闘争を展開したりした。

どれをとっても素晴らしい、ごもっともな企画なのだが、果たしてそこからどんな結果が生まれたのか、多少でも利益を獲ることを考えていたのか疑わしい。

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William Frederick Cody (1911年)

1917年1月10日に彼が死んだ時、資産と呼べるようなモノはほとんどなく、一時期巨万の富を持っているだろうと言われたビルに残されたのは、ワイルドウエスト・ショーの権利だけで、それをカンサスのアーチ・バンカーという興行師に1億5,000万ドル(231億円?)で売ったのが唯一の財産になった。

死の床にあったビルはどういう理由からか、カトリックの洗礼を受けている。葬儀はカトリックの教義に沿ってデンバーのイマキュレイト・コンセプション・バシリカで行われ、また彼が長年加わっていた結社フリーメイソンのエルク・ロッジ・ホールでも盛大な儀式が営まれた。
 
彼の墓はロッキー東の山腹、デンバーそしてその向こうに大平原を見渡せるルックアウト・マウンテンにある。ここは私たちが年に2、3回は通る高速道路インターステート70号のすぐ脇にあるので、我が家から連れ合いの父親の住むミズーリーに向かう時、よく昼食のサンドイッチを頬張るところになっている。

バッファロー・ビルの生前の盛名とは比べ、いつ行ってもひっそりとしており、他の観光客と顔を合わせたことがない。

騒々しいくらい忙しく派手な人生を送ったビルは、大平原を見下ろす閑静なロッキー中腹の森に永眠している。 

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ルックアウト・マウンテンにあるバッファロー・ビルの墓

 

-…つづく


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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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