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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第43回:西部劇名作選 ベスト20 No.9

更新日2025/03/06

 

ケヴィン・コスナー製作・監督・主演『ダンス・ウィズ・ウルブス』(原題:Dances with Wolves;1990年)

古い映画ばかり取り上げていたので「爺さん、古いことばかり言っていないで、少しは現在に目を向けな!」と言う非難が聞こえてきそうだ。

そこで今回はグンと新しい、と言っても1990年の作品だから、もう35年前の公開になる。
西部劇は下火になり、全く売れない時代になっていた。銀幕を飾った俳優、ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、カーク・ダグラス、バート・ランカスターらは鬼籍に入り、監督たちもこの世を去っていた。

そこへ、35歳の俳優、ケヴィン・コスナーが自ら、製作、監督、主演を買って出たのがこの映画『ダンス・ウィズ・ウルブス』だ。邦題も英語をそのままカタカナにした。原作も同じタイトルで、原作者マイケル・ブレイクにケヴィン・コスナーは映画のシナリオを書くよう依頼している。

配給映画会社を探す時に大きな障害にあった。と言うのは、この3時間余りの長い映画で半分はシャイアン語の方言であるラコタ語で話され、画面の下に英語の字幕が出る方式だったからだ。アメリカ人が外国映画を観ないし、評価もしないのは、一つに英語の字幕を読まなければならないからだ。それほど文盲が多い訳ではないが、字幕の母国語を読むのを億劫がるのだ。

西部劇は古臭いものになっていた時代だった。誰が今時西部劇なんぞ観に行くものかと言うわけだ。ところが蓋を開けてみると、その年の3大ヒットになり、興行的に信じられない大成功だった。4億2,400万ドル(約634億円)も売りあげたのだ。当時としては記録的な大収入だった。おまけにアカデミー賞12部門にノミネートされ、7部門で受賞したのだ。その中で作品賞、監督賞をケヴィン・コスナーが受賞したのだ。

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アメリカでのポスターはこのようにケヴェン・コスナーの顔だけで、一体これで観衆を呼べるのかと思わせる
これでは一体どんな映画なのか想像もできない。しかし映画は公開と同時に大当たりを取った

だいぶ前のことになるが、黒澤明が大島渚とのインタヴューで、「映画は独りよがりの芸術ではない、お金を払って映画館まで足を運んでくれる人があって、初めて成り立つものだ」と強調していたのを聴き意外に思った。黒澤は当時“天皇”とまで呼ばれ、自分の映画作りに関して、作りたい放題、精一杯わがままを通したと思い込んでいたから、観客のことなど眼中になく“俺の映画が好きなら観にこい”と一種尊大に構えていると思っていた。ところが、観客あっての映画であり、常に観る人の目を意識して映画を作っていたことに驚いた。
 
ケヴィン・コスナーの映画作りも非常に丁寧で、手を抜くところがない。
ひょんな行きがかりから、北軍の大尉ジョン・ダンバーは自分の希望をそのまま受け入れてくれる将軍に出会い、一人で西部の最先端、フロンティアに前進基地、ポストを設けるため、そこに住みついたのだった。

この辺り、アメリカの少年、青年なら誰しも憧れる西部の最先端、大自然の中で自給自足の生活を始めるのだ。その時に付けていた絵日記がこのストーリーの幹になり、それを読む形で話が進行していく。日記を読むナレーターもケヴィン・コスナーの少し掠れた地声で、大袈裟な感情移入は全くなく、むしろ淡々と読んでいるのが良い。

ジョン・ダンバー大尉はインディアン、ラコタ語を習い覚え、シャイアン族に同化してゆくのだが、そこに大自然を象徴する一頭の狼が彼のポスト、家近くまで来るようになり、終いには彼の手から干し肉を齧るようにさえなる。この狼と人間の交流は実に美しい画面で語られる。
 
ジョン・ダンバー大尉をシャアン族が受け入れていく過程がこの映画の見どころなので、敵役のポーニー族はひたすら悪役、意味もなく残虐な振る舞いを繰り返す…あたりはハリウッド映画の限界なのだろうか…。
 
そして、お決まりのシャイアン族に子供の時から囚われていた白人女性が登場する。そして、これもお決まりのこの女性とダンバー大尉のラブロマンスとなるのだが、とって付けたラブロマンスではなく、ラコタ語のぎこちない会話に始まり、次第に流暢な(と私には聴こえる)ラコタ語と英語が混ざり合い、自然の流れの中にストーリーに上手く溶け込んでいる。
 
そして何よりも、自然、野生を象徴している狼とダンバー大尉の交流が美しく描かれている。
騎兵隊員がおもしろ半分に逃げない狼を撃ち殺す。アメリカ人の西部開拓が自然を壊し、原住民インディアンを追い詰めていったかを暗に示している。

そして、騎兵隊がダンバー大尉のポストにやってくる。シャイアンの服装を着ているダンバー大尉はハナから疑われ、手錠、鎖で拘束される。騎兵隊キャンプをシャイアンがダンバー救出のため襲い、無事にダンバーはシャイアン族の元に帰るのだが、騎兵隊は決して諦めることなくダンバーを探し、そのためにシャイアンを襲撃するだろう、とダンバーとかの女性は二人で部落を去るところで幕になる。

少し大袈裟に言えば、ケヴェン・コスナーは原作にぞっこん惚れ込み、映画制作という複雑で大掛かりな仕事を見事に成し遂げ、成功したのだった。この作品でケヴィン・コスナーナーはアカデミー賞を作品、監督の2部門で貰い、西部劇未だ滅びずと立証して見せたのだった。

-…つづく


第44回:西部劇名作選 ベスト20 No.10

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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