第44回:西部劇名作選 ベスト20 No.10
クリント・イーストウッド監督・主演『許されざる者』(原題:Unforgiven;1992年)
俳優が監督に転じてうまくいく例は少ない。ジョン・ウェインは自作自演の大作『アラモ』を撮ったが、大失敗だったし、バート・ランカスターは『ケンタッキー魂』を監督、主演で撮ったが、これも失敗作とみなされている。逆にロン・ハワードのように名子役だったのが映画作りに目覚め、俳優としてより監督として名作をドンドン世に送り出す例もある。
前回のケヴィン・コスナーのように制作、監督、主演を買って出て、大成功を納めたのはクリント・イーストウッドだ。
クリント・イーストウッドは映画作りが楽しくてしょうがないようなのだ。彼は俳優としてスタートした。テレビ番組『ローハイド』、マカロニ・ウェスタン(アメリカではスパゲッティ・ウェスタンと呼んでいる)シリーズ、そして大ヒットしたダーティ・ハリー・シリーズでスターダムにのし上がった。
彼自身が自嘲気味に語っているのだが、ダーティー・ハリーで入ってきたお金を自分の映画作りに投じている、彼自身が作った映画はどれもマネー・メイキングにはならなかったと…。確かにクリント・イーストウッドの作る映画はどれも地味で、ボックス・オフィスでの売り上げが記録的に伸びることはない。

アメリカでのポスター。この4人が主人公だ
この中に一人でも大根が居たら、この映画は成り立たたなかっただろう
名優とはたとえ脇役でも、それなりに光る演技を見せるものだ
この『許されざる者』も大ヒットを狙ったものではなかったが、3人の名優、ジーン・ハックマン、リチャード・ハリス、モーガン・フリーマンを起用したことが成功の鍵だった。
クリント・イーストウッドの監督、撮影スタイルは、脚本の読み合わをせし、撮影現場で彼の意図するショットを説明した後、あとは俳優に任せることだ。従って、さる監督のように自分のエゴのため50回、多い時には100回ものスタート、カットを繰り返すことはない。俳優を信用しているのだ。何度もの取り直しでスタッフ、俳優を疲労に追い込むこともない。その方が新鮮で緊張感のある撮影ができると言うのだ。
もっとも、クリント・イーストウッドに言わせれば、「彼らは最高の名優だから、私が細かく指示する必要なんかない」ということになり、俳優も存分に自分の演技ができる。そんなことから、多くの名優が喜んで彼の映画に出演するのだろう。『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・シャンク、モーガン・フリーマン、『マディソン郡の橋』のメルリ・ストリープ、『ミスティック・リバー』のショーン・ペンとティム・ロビンソンと、イーストウッドの映画に出れば、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にノミネートされ、受賞する可能性があるという神話さえ生まれるほどなのだ。
クリント・イーストウッド自身、自分の俳優としての限度、干し草を噛んだようなセリフ、しかも超スローな会話しかできないことを知っているのであろう。軽妙なコメディーを製作、主演をしてはいるが、その中でもどちらかといえばタフなボケ役に徹している。
さて、『許されざる者』だが、撮影はカナダで行われた。荒くれカウボーイと悪徳保安官に支配されている町の娼婦たちが、この街の暴虐に耐えきれず、なけなしのお金を出し合って、ガンスリンガーを雇う、結末はご存知、イーストウッドが敵役5人を撃ち殺すという、およそ西部劇にはよくある話なのだが、この映画の脇役が実に素晴らしい。そして映画自体、初めから終わりまで暗い画面に終始している。雨のシーンが多く、室内での撮影も陰影が多く、暗く、それはこのストリーとマッチしている。
私自身、この映画を全く評価していなかった。西部劇に欠かせない抜けるような青空と頂きに雪を被った雄大な山々、あるいは砂漠の荒地に聳え立つモニュメント・バリーのような奇岩も全く出てこない。これではイーストウッドがセルジオ・レオーネ監督の元で出演したマカロニ・ウェスタンをアメリカ西部に移し替えただけではないかと思ったのだ。それに必要以上にバイオレンスシーンが多すぎる、それはサディスティックな程なのだ。
このコラムを書くに当たって、いつものようにDVDで映画を見直したところ、全く違った印象を持った。ガンスリンガーになろうとしている若造スコフィールド・キッド(ジェイムス・ウールヴァエント、熱演です)や、西部をテーマにした記事を書いているジャーナリストを配し、いかにダイム・ノベルが創作されたものかを知らしめたりしていることに気が付いた。
もちろん、ジーン・ハックマン、リチャード・ハリス、モーガン・フリーマンの脇役は準主役と呼んで良いほどに凄い。彼らはイーストウッドの監督、指揮、意図を完全に理解し、役をこなしているかのようなのだ。
この映画にはシブ味があり、長いアカデミー賞の歴史の中で作品賞を授与された3本の西部劇(他の二本は『シマロン』『ダンス・ウイズ・ウルブス』)になった。アカデミー賞はアメリカ的ミュージカルに甘いという定評があり、西部劇好きが多いアメリカでは、もっとたくさんの受賞作があると思っていたところ、たった3本の西部劇しかないことに驚かされた。
イーストウッドが、黒澤の大ファンであることは知れ渡っている。自身『用心棒』の焼き直しコピー『荒野の用心棒』に出演している。ところがこの『許されざる者』を日本がパクったのだ。
パクったと言っても著作権、映画権などは正式に契約し、買い取っているのだが、舞台を北海道の開拓時代に移し、渡辺謙主演で撮っている。日本版はサムライ、チャンバラと西部フロンティアを混ぜこぜにした印象を拭い切れないが…。
実は『許されざる者』という同じタイトルの映画が1960年に撮られている。巨匠ジョン・ヒューストン、主演はバート・ランカスターとオードリー・ヘップバーンで、こちらの方は“The Unforgiven”と定冠詞のTheが付いている。
ヘップバーンの初めて(最後だったが)の西部劇出演だった。鳴り物入りの幕開けだったが、失敗作とみなされている。どうも大女優を西部劇に引っ張り出すのは、その女優に監督、共演者、スタッフが振り回され、映画自体を損なう傾向があるようだ……と、これは余談だが…。
-…つづく
第45回:西部劇名作選 ベスト20 No.11
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