第651回:神話の里、ふたたび - JAL285便 羽田~出雲 -
3月に木次線を訪れて、次の季節が始まった頃。雲南市のN課長からご連絡をいただく。前回はお話をしに行った。今回は実行プランを作りたいという。私は書く商売だ。その延長で話す仕事もする。しかし、実行力はない。実行力のある人が必要だ。そこで、お世話になっている方を紹介するために、また行くことになった。
そうなるとまた、ついでの旅を画策したくなる。前回は木次線に乗ったけれども終点まで行けなかった。心残りである。三井野原から備後落合まで、2駅間12.2km。これは今回、解決しておきたい区間だ。他に未乗区間はあるけれども、今回は廃止が決まった三江線を再訪しようか。会合は7月27日の木曜日。週末は外せない仕事があるから、すぐに帰路につく。ついでの旅をするなら会合の前だ。長くは滞在できないけれど、前日をフルに楽しむ。そうなると、前々日に現地入りして、翌朝から乗り回りたい。

JAL285便 出雲縁結び空港行き
そこで、25日の仕事が終わったら空路で島根に入る計画を立てた。米子空港はANA、出雲空港はJALの縄張り。前回はANAで飛び米子に降りたから、今回はJALで出雲に降りる。JALの羽田と出雲を結ぶ便は1日に5往復ある。今回は前日にホテルには入れたら何時でもいい。最終便は暗くて機窓を楽しめないから、その1本前にしよう。到着したらホテルで仕事の続き。旅は翌朝から始める。27日に木次駅で会議。それが終わったら宍道へ出て、サンライズ出雲で帰る。よし、楽しくなってきたぞ……。

北へ離陸。私の住むマンションが小さく見える……はず
2016年7月25日。午前中に犬の散歩。帰ると母が来ていた。今日から3日間、犬の世話と留守番を頼んでいる。母が買ってきたパンで昼食を済ませ、出かける前のひと仕事だ。東京都知事選挙が近づいている。私は各候補者に、地下鉄一元化、りんかい線と京葉線の乗り入れなどの質問を送っていた。回答者は半分以下だった。インターネットとSNSを活用して有権者とコミュニケーション、と謳った有力候補からも回答なし。メッセージを開封したステータスもない。無回答も有益な情報だ。
予想より早い時間に送稿できた。しかし家にいても落ち着かない。犬は母の来訪で私の出発を悟ったらしく、ピッタリと寄り添って離れない。それを引き剥がして母に託し、逃げるように出発する。京急線で羽田空港国内線ターミナル駅へ。第1ターミナルの荷物検査はスムーズで、JAL285便の出発1時間前に搭乗口に到着した。いつも慌ただしく出発するから、空港でこんなに時間があると、かえって所在ない。
土産物店を冷やかしていたら豆源があった。懐かしい。父方の祖父が住んでいた麻布十番の老舗である。これを手土産にしよう。自分用に揚げおかきを買おうと思ったけれど、さすがに出張店舗では揚げていない。本店の揚げたてがうまいんだがな、店員に話すと、彼女は空港店で雇われたアルバイトで、本店に入ったことがないそうだ。ぜひ行くといいよ、と伝えた。
出発ロビーは子ども連れが多く賑やかだ。そうか、7月25日といえば公立学校の夏休みだ。機内の座席に座ってみれば、後ろの席も子ども。まだ小学校には上がらないくらいの男の子である。退屈になったか飛行機に興奮しているかわからないけれど、私の席の背中をコツコツと蹴り続けている。隣の席の母親は注意しない。やれやれ、しかし相手は子どもだ。どうせ少しの辛抱だろう。

米子空港上空を通過
羽田空港の滑走路34Rを離陸し、晴れた空をぐるりと周回して西に進む。しばらく飛ぶと、眼下に雲が敷き詰められている。雲の絨毯。富士山の眺めを期待して左側の座席をとったけれども、雲の下になっていて見えなかった。背中のコツコツ攻撃は止まった。シートの隙間から覗いたら、子どもは眠っていた。予想通り。人は退屈すると眠る。大人も子どもも同じだ。私も眠りに釣られて、しばらく意識が遠のいた。

宍道湖に降りていく
気がつけば飛行機は高度を下げつつあり、機窓から雲が消えていた。細い半島、中央に滑走路。あれは米子空港だ。JAL285は米子空港の北を通り、南へ進路を変えて宍道湖上空に入る。滑走路が宍道湖に突き出している。飛行機は水面に降りるかの如く低空飛行して、出雲縁結び空港に着陸した。到着ロビーから連絡バスのりばが近い。これがローカル空港の良さだ。

出雲空港着。定刻
ただし、空港ターミナルから宍道駅までのアクセスがややこしい。直線距離は約2kmだけど、途中に新建川が横たわり、しかも橋が架かっていない。2kmといえば徒歩30分で、絶好のアクセスルートになるはずだ。しかし最寄りの橋は新建川の上流に約1kmの地点にあり、迂回ルートは約5kmになる。路線バスはなく、タクシーだと2,500円くらいかかりそうだ。

遠回りの出雲市行きバス
空港連絡バスの最短ルートは出雲市駅行き。所要時間は30分。そこから山陰本線で宍道に戻るルートになる。もっとも今日は出雲市駅付近のホテルに泊まるから問題ない。この付近でもっともビジネスホテル数が多く、利用金もこなれている街は出雲市駅付近のようだ。車窓から見えた「下関 286km」の文字に感心しつつ、その余韻のままバスを降りる。

ヤマタノオロチ伝説、斐伊川を渡る
出雲市駅から徒歩3分ほどのビジネスホテルにチェックイン。ホテル併設のレストランが海鮮居酒屋という場面にげんなりしつつ、外に出てみればハンバーガー屋、大阪風居酒屋、イタリアン……。どれも食指が動かず、出雲市駅の売店に入り、出雲蕎麦と焼鯖ずしを買って部屋で食べた。なんとなく出雲名物を食べて旅の気分を維持した。しかし、今日はもう寝てしまおう。

出雲市駅に到着。バスだけど

19時の出雲市は鳥がたくさん「THE BIRD」
-…つづく
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