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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第623回:のりものくらべ − 藻岩山 −

更新日2017/03/30


私にとって札幌は平面の都市だ。大通公園のイメージもあるし、寝台特急などで千歳線から向かうと広大な景色から市街地が始まる。それは航空機で千歳空港から快速電車に乗っても同じ印象になる。しかし、札幌は山際の都市といえる。

札幌市西側の函館本線は手稲山と海岸の隙間を縫ってくる。南西には藻岩山があり、その近くにはかつてプロ野球を開催していた円山球場がある。実はこの円山のほうがアイヌ語のモイワだったけれど、勘違いした大和民族がモイワを円山と呼び、隣の大きな山を藻岩山と呼んだ。


ウサギではない。リスだ

藻岩山は標高531メートル。札幌市郊外ではなく、札幌市の山だ。大通公園から南西に3キロメートルほどだし、山麓には市電の駅がある。アイヌの人々は見張り台として、自然災害の避難所として崇めていたという。おそらく地元の人々にとって、遠足登山やピクニック、デートスポットの代表的な存在であろう。

平日の水曜日とあって、ロープウェイ乗り場に観光客は少ない。フロアに黒いウサギのようなゆるキャラが立っているけれど動かない。名前はもーりす。あっ、リスかこれ。藻岩山のリス。もーりす。なるほど。いや、わからぬ。まあいいか。ケーブルカーの愛称は“もーりすカー”という。その名前の由来となったキャラクターだ。


2011年に設備更新されたガラス張りのロープウェー

藻岩山山頂へはロープウェーともーりすカーを乗り継ぐ。登山ルートもあると言うけれど、雪山だし時間もないので往復とも乗りものを使う。往復セット券は1700円。もーりす号とセットで2000円というセットもある。もーりすカーともーりす号は違うのか。もうひとつ乗りものがあるらしい。300円の差額なら乗るべきだろう。行きと帰りで違うルートになるかもしれない。楽しそうだ。

ロープウェーは大きなゴンドラでガラス張り。定員は66名とあったけれど、今回の乗客は私と男女ペア2組。ガイドの若い女性が乗っている。男女比は保たれているけれど、私の孤独が目立つ状況だ。しかし、私ひとりだけではなくて良かったと安堵する。ガイドさんと二人きりだとちょっと気まずい。


円山と札幌平和塔

透き通るように磨かれたガラス窓から札幌市街を見渡せる。ロープウェーの距離は1,200メートル。運行時間は約5分。標高差の数字が見当たらないけれど、400メートルくらいの見当だ。遠くに札幌ドームが見える。円山はなるほど丸く孤立している。その手前にベルを伏せたような白く丸い建物がある。これはガイドさんが札幌平和塔だと教えてくれた。太平洋戦争の犠牲者を慰霊し、平和を祈る建物だ。


下りゴンドラとすれ違う

ロープウェイの終点は、もいわ山中腹駅。ここからもーりすカーに乗り継ぐわけだけど、もーりす号が気になる。係員さんに聞くと、雪上車でコースを一周し、15分くらいかかるという。ならば先に乗るとしよう。帰りは暗くなってしまうかもしれない。建物の外の発着場に行くと、どうやら乗客は私だけだ。恐縮しつつ雪上車を待つ。

雪上車もーりす号は除雪用大型ショベルカーに客室を載せたような姿だ。車輪は片側6軸のキャタピラーで、独立したコクピットの先に大きな排雪プレートが付いている。客室は8畳ほどのプレハブ小屋で、定員24名。その後ろに木製のそりを連結している。こちらは4名4列で定員16名。合計定員40名のところ、乗客は私ひとり。


雪上車もーりす号

雪がちらついているけれど、この大自然を楽しむならソリのほうだ。私はソリの最前列に座った。走り始めて少し悔やんだ。目前の客室が壁のように視界を遮る。最後尾のほうが開放的だ。それでも雪原を進む感覚は楽しい。周囲は雪だらけ。ときどき木立と雪の壁が切れて、札幌市街を俯瞰できた。冬の時期ならではの、雪国らしいサービスだ。寒いけれども、珍しい雪上車体験だった。


なかなかの迫力

建物の中は温かい。山頂行きもーりすカーは15分間隔で、発車までは入り口も窓口も締まっている。ガラス張りのケートは未来的だけど、人の姿がないと寒々しい。お土産屋を冷やかして時間を潰した。フライドポテト風のお菓子が人気のようで、味の種類も多い。帰りに買おう。

発車の案内があり、入り口に進めば乗客は私ひとり。ロープウェーで一緒になったカップルは先に上がり、その後は上る人がいない様子。16時を過ぎているし曇天だから、地元の人はこんな時間を選ばないし、観光客はもっと早く来るだろう。つまり、穴場の時間と気候である。


おにぎりフレームのもーりすカー

もーりすカーは2両連結で、車輪の上に三角おにぎり状のフレームが据えられ、フレームの最上部にゴンドラがぶら下がっている。Sさんが書いてくれたイラストどおりだ。なるほど、これなら勾配の角度が変わっても客室は水平だ。緑色だから、2両連結を斜めに見るとバッタの足のようでもある。

乗客は私ひとりで、係員は乗らない。窓締め係の男性が記念写真のシャッターを押してくれた。このケーブルカーは鉄道事業かと訊ねたら違うという。これは乗り鉄にとっては重要な証言である。鉄道でなければ遊具となり、集計の対象にならない。もっとも、ロープウェーと同様に、おもしろいから乗ってみる。2人用連結の前側だ。上りは線路を観察しよう。景色は帰りでいい。


線路の両側にケーブルがある

線路は1本ですれ違い設備はない。レールは2本で普通の鉄道と同じ。ただしレールの中央に牽引用のケーブルがない。線路の両側に細いケーブルが2本ずつあって、これが車体を引っ張るようだ。客室からは見えないけれど、車体から出た足が上のケーブルを掴むと推測する。下のケーブルは逆方向に動いているから、両側それぞれのケーブルが輪のようになっていて、山頂の巻き上げ機を回転させてケーブルを動かす。

左右のケーブルがきちんと同期していればいいけれど、片方が延びたりすると動きが不安定になりそうだ。曲線区間を作りにくいと思う。その通りで、たしかに線路は真っ直ぐであった。もしかしたら上でケーブルがクロスしており、すべてのケーブルが実は1本につながっているかもしれない。そんな想像は楽しいけれど、悩んでも答えは見つからない。公式サイトには世界初の駆動方式と書いてある。ロープウェーや他のケーブルカーに比べると傾斜は緩やかだった。


展望台からの眺め

もいわ山頂駅に到着すると、ホームから金属製のステップが伸びて、ゴンドラの出入り口につながった。ゴンドラの揺れもなくなって、安心して降りられる。ゴンドラはプラグドアで、アニメや特撮映画の宇宙船を乗降するような感覚だ。おもしろい。鉄道の仲間にしてあげたい。しかし遊具のままのほうが都合が良いのだろう。


観音堂。屋根から雪が落ちそうだ

頂上展望台はみぞれから雪に変わった。雪雲の下端に触れているようで、視界はさえない。早々に引き上げ、展望台から見かけた観音堂に寄ってお参りする。立ち去りつつ振り返れば落雪注意の札があり、私がお参りした側の屋根上に、分厚い雪の塊があった。危なかった。

展望台の下にはレストランとプラネタリウムがあった。メガスターという装置を使う。これは気になる。たしか、個人開発で高性能なプラネタリウム投影機を作り話題になった。一度見てみたいと思っていたら、ここで出会えた。上映時間20分。現在は17時。札幌駅22時発の急行はまなすに間に合う。よし、見ていこう。


ロープウェーからの夜景

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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