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第636回:赤い電車に会いに行く - レンタカー 岩見沢~富良野 -

更新日2017/06/29


札幌駅でカシオペアを見送る。機関車付近は相変わらず混んでいる。それを察して、M氏はホーム中央で動画を撮るつもりだ。私は機関車を労いに行き、すぐに離脱してM氏の元へ。銀色の列車が去って行く。さよなら寝台特急。さよなら食堂車。今後、臨時列車で走るかもしれないけれど、パックツアー扱いで高額になりそうだ。そうなるともう私には縁がない。いままで乗っていない路線に乗りたい。


カシオペア、札幌到着

プラットホームを移動して、11時40分発の区間快速に乗った。ここからは私の目的である。岩見沢駅で降り、レンタカー会社に電話する。事務所から駅までは遠いから、迎えに来てくれるという。ありがたい。しかし、送迎という手回しの良い段取りに反して、手続きには時間がかかった。PCで何やら操作し、サインすべき書類を印刷しようにもなかなか出てこない。それからクルマを点検して、その書類にサインして。


さよなら……プラットホーム中程でM氏と見送る

私たちはこれから、岩見沢郊外のレストランで食事をして、そのままクルマで富良野へ向かう予定だ。富良野発の列車の時刻は決まっていて、乗り遅れると旭川空港発の最終便に間に合わない。余裕時間として60分を見込んで予定を立てたけれど、スタートから時間を取られたくない。電話予約だから、書類やクルマの点検などは事前に準備できたはずだ。


区間快速で岩見沢へ

結局、駅到着からハンドルを握るまで30分かかった。これが北海道のリズムってヤツか。ずいぶん前に、帯広で借りて広尾線の廃線跡を巡ったことがある。その時は不便を感じなかった。レンタカーは現地周遊には使えるけれど、乗り継ぎ行程には使えない乗りものと認識を改めた。カーナビに目的地をセットして先へ急ぐ。


岩見沢駅前でレンタカー屋の迎えを待つ

レストラン“大地のテラス”はレンタカー屋から約8km、約20分のドライブだった。つまり駅からここまで50分かかった。バスの便はあるけれど、ちょうど良い便がなく、岩見沢にレンタサイクルもなかった。そんな不便なレストランに行く理由は、711系電車が保存されているからだ。

711系電車は、国鉄時代の北海道で初めて導入された電車だ。北海道の鉄道近代化の象徴でもある。しかし新型車両に置き換えられて全車両が引退した。博物館に展示するか、車庫に保存するか、711系にはその価値がある。しかし、経営難のJR北海道には余力がない。

そこで、地元の鉄道ファン有志が譲り受けた。土地はレストランの余地が提供され、購入費用と移設費用はクラウドファウンディングで寄付を集めた。私もそこに僅かな金額で参加した。クラウドファウンディングは成功し、いま、2両が残されている。その車内に出資者として私の名前が刻まれている。それを確認したい。

私がハンドルを握り、カーナビをセットして走り出す。クルマはハイブリッド車で、低速ではモーター運転だ。静かな走りになるかと思ったら、そうでもなかった。今どきのクルマはもともとエンジン音が小さいし、小型車はロードノイズを拾う。ともかく、いちどハイブリッド車に乗ってみたいという小さな希望は叶った。


大地の恵みたっぷりのシュラスコ

13時のレストラン。まだ昼時で、駐車場にクルマが多い。休日だから遅めの食事の人も多い。ここはビュッフェスタイルの店で、予約した旨を伝えると「○○さんのお知り合いですか」と言われる。Facebookページにコメントしたので、つながりを見ていたようだ。

テーブルに案内されると食べ放題開始。まずはサラダバーに行き、野菜やサイドメニューを持ってくる。しばらくすると、コック姿の男性が大きな銀の串を持ってくる。焼けた肉の塊が刺さっていて、そこからナイフで削ぎ取り、皿に落とす。ブラジル料理のシュラスコというスタイルだ。うん、うまい。

シュラスコはバブル景気の頃に東京・渋谷に登場した。当時の店は銀座に移り、渋谷には2軒。各地に広がっている。大地のテラスは東京の店より料金が安く、肉も野菜もうまい。特に野菜の味が濃い。これが北海道の大地の恵みか。しかし……。
「すぎ、おれ、こんなにたくさん食べられないよ」
「カシオペアの朝飯、がっつり食べましたからねぇ」
それでも人並み以上に食べたと思う。


雪の大地にそびえ立つ711系電車

90分の制限時間を40分ほどで切り上げて、敷地内の711系電車を見物する。ピカピカに磨かれていて新車のようだ。室内も当時のまま。銘板の自分の名前を確認した。中央の上、なかなか良い位置であった。死して名を残す場所ができた。それだけで、いい気分だ。


名前を確認

ボックスシートに座って休憩したい気分だけれども、これから富良野へドライブだ。昨日は雪が降り、今年の初冠雪だったという。それはある程度覚悟しており、現地の様子次第では岩見沢駅に戻って電車に乗るつもりだった。そうなると列車の接続が悪くて富良野線に乗れない。


客室も往時のまま

富良野線は私にとってJR北海道最後の未乗区間である。来春には北海道新幹線が開業して未乗区間が増えるけれども、贅沢なカシオペアで北海道に来たからには、未乗区間も乗っておきたい。大地のテラスに寄り、富良野線に乗るには、レンタカーで直行するルートがベストだった。

レンタカー屋の話では、この時期は雪が降っても積もらないという。積もったとしても、国道なら除雪されるだろうし、交通量が多ければ轍が先に乾く。ちょっとした賭けだけど勝算はある。学生時代の4年間、松本でクルマを運転しているのだ。雪の少ないところとは言え、凍結路の運転は心得ている。スピンして対向車線を越えた経験もあり、それ以来、限界を超えない運転ができるようになった。

不安げなM氏を乗せて、クルマを出した。岩見沢市内の路面は乾いていた。道央自動車道を2度くぐり、県道116号線に入る。道央自動車道は安全で速度も出せそうだけど、旭川に直行して富良野を通らない。三笠市に入ると雪の山道になった。道の両側に雪が積もり路面は濡れている。三笠鉄道記念館の道案内の看板を見つけた。ああ、ここにあったな、と思う。いつか行きたいと思ったところだ。いまは冬期休館中のはず。

だんだん雪は降っていないけれど、積雪が深くなっていく。路面はときどきシャーベット状になった。もし引き返すなら早いほうがいい。しかし前方に赤い軽自動車が走っていて、チェーンは付けていない。スピードは出ている。地元の道に慣れたドライバーだろう。車間距離を長めにとって、ついて行く。ブレーキランプを灯した場所と点灯時間を観察し、真似て走る。少し気持ちがラクになった。

「なんだか、ラリーみたいですねぇ」
M氏を安心させようとして軽口を叩く。
「大丈夫なのコレ」
「ええ、前方のクルマに合わせてますから、楽勝ですね」

会話をしつつも、実はタイヤが滑っている。ときどきカウンターステアを切る。前輪駆動だから、アクセルを緩めてエンジンブレーキを使い、行きたい方向にハンドルを当てて、アクセルを少し深めに。モータースポーツに詳しいM氏なら気づいているかもしれない。それでも制限速度と同じくらいのスピードは出せた。

「スピード注意」とスマートホンが発声した。GPSを検知して、取り締まり場所を知らせるアプリだ。念のため起動しておいたけれど、スピードを出しすぎるような運転はできない。そもそも、これだけ雪が深ければ取り締まりもやっていないだろう。

スリリングな山道が終わり、市街地に入った。芦別である。右折して国道38号線。路面は乾いていた。根室本線に並行する道だ。富良野駅到着は15時20分頃。列車は15時40分発である。レンタカー屋の富良野支店は駅のそばにあった。ありがたい。返却手続きはすぐに済んだ。

ハイブリッド車は満タン返しの必要がなく、車載コンピューターがガソリン使用量を示してくれるそうだ。燃料精算額は500円。約90kmの道のりで、1kmあたり5.5円。ガソリン車ならリッター9kmとして1,200円超というところ。ハイブリッド車のメリットを実感した。


富良野駅に到着

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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