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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第603回:ダイヤモンド・クロッシング − 伊予鉄道 高浜線 −

更新日2016/10/13


横河原から松山市駅に戻る。神社参拝で散歩を切り上げたから、予定より1本早い列車になった。08時28分発。通勤通学のピークは過ぎて、車内はガラガラ。電車は途中の駅で数人ずつ客を乗せていく。大洲に豪雨警報が出たらしい、という会話が聞こえる。昨日、伊予灘ものがたりで訪れた駅。その先の大洲城の景色を思い出した。縁ができたせいか、少し心配になる。こちらの雨は小降りになっている。


松山市駅を発車。車庫へ向かう分岐が見える

この電車は高浜線に直通するから、松山市駅に着いても乗ったまま。発車は09時00分。少し眠くなってきたから運転席の後ろに立った。ここから複線区間だ。発車すると、まずは分岐で左へ別れていく線路が見えた。行き先は郡中線の車窓で見かけた車庫だ。そして踏切。その先に両渡り分岐器。電鉄の終点らしい線路だ。高浜線は複線、横河原線は単線だから、運行本数に差がある。高浜線から横河原線に直通しないで折り返す電車もある。そのための分岐器だ。


大手町駅の先で平面交差

そして、高浜線の線路のお楽しみは大手町駅の先にある。大きな踏切で、路面電車とも交差する。線路同士の交差は、路面電車の交差点によくある。しかし、普通鉄道の踏切として、路面電車と交差する場所は日本でここだけだ。珍しいからしっかり見届ける。左右を確認すると、右手に路面電車が見えた。停留所があって、停車したついでに踏切が開くまで時間を潰しているように見える。路面軌道の両側に道路があって、そこだけ遮断機がついている。


複線の線路と軌道が直角に交わる

複線の線路は建物に囲まれ、電車は速度を上げていく。東京や大阪の私鉄と変わらない。いや、そうでもないか。大都市は立体交差化が進んでいるから、私には少し懐かしい車窓だ。この電車は元は京王電鉄の5000系といって、運転席横の窓が曲面ガラスになっている。視界が広くてよろしい。この電車が京王線を走っていた頃のような景色である。


路面電車が待機中

雨が上がったようだ。窓の水滴が減っていく。左手から線路が近づいて、複線と並んだ。3本目の線路は路面電車の線路だ。こちらの片渡り分岐の先で、左から分岐した線路が斜めに渡っていく。その先に古町駅があり、路面電車の駅は右側に並ぶ。つまり、ここも郊外線と路面電車の交差点である。さっきから線路ばかり見ている。沿線は都会と変わらないし、遠景は雨上がりで見通せない。線路がおもしろくて良かった。


再び路面電車と斜めに交差する

古町駅も伊予鉄道の車両基地がある。郊外線と路面電車の両方の電車が並んでいた。路面電車の基地と駅が郊外線の両側に別れている。なんだか不便な気がするけれど、どちらも軌間は1067ミリメートルだから、融通が利くかもしれない。あとで路面電車にも乗るから、またこの駅で、今度は路面電車の視点で交差を眺められる。楽しみだ。

郊外線の電車は古町駅を発車した。まず、右手に路面電車の線路が別れていく。こちらはゆるい左カーブで高架区間へ上がった。ますます都市の鉄道の雰囲気だ。松山市は道後温泉や坊ちゃん列車のイメージが強く、のどかなイメージだった。先入観はおそろしい。実際は人口50万人超の立派な都市である。私が暮らした松本市の2倍。新幹線が停まる長野市より多い。大手私鉄並みの伊予鉄道が成立するわけだ。

車窓から松山の街を俯瞰する。高架区間は県道と国道の踏切解消のために作られたようだ。川はなかった。下り勾配の終わりに衣山駅。ここから地平を走っていく。予讃線のガーター橋の下を通り抜けた。垂れ込めていた雨雲が消えていき、山の稜線が現れる。スマートホンで見る地図に山の名前はない。地名は太山寺町。52番札所の太山寺がある。古来より八十八霊場を巡る人々は、あそこまで登るのか。そもそも霊場は山の中が多いから、八十八箇所霊場巡りはたいへんな旅になりそうだ。


四国鉄道発祥の地、三津駅

線路は山に向かってまっすぐ伸びて、三津駅に着いた。幅広の島式ホームと、左側にもホームがある。下り線は両側をホームに挟まれている。イベントのお客さんに対応する設備だ。津の名が付くとおり、近くに入江があり、港がある。このあたりから松山港エリアだ。三津と山口県の柳井と結ぶ便がある。そしてこの三津駅から松山市駅が四国で最初に開業した鉄道路線である。そうなると、松山は四国で最も文明開化が早く、栄えた街だろうか。私の中で松山市の格付けがぐんぐん上がっていく。


短い海岸区間

車窓の左手に海が広がり、梅津寺駅に着く。この駅に用がある。しかしひとまず終点の高浜まで乗って、伊予鉄道の郊外電車を完乗する。線路は単線になった。右側に公園、正面に教会がある。単線になっても沿線に民家が多い。樹木は増えて秋の色に変わりつつある。


梅津寺駅から単線になった

高浜駅はホーム1本、線路が2本。ホームのない側の線路に保線用のモーターカーが停まっていた。港の駅だし、かつては荷役があったかもしれない。そしてホームと駅舎の立派なこと。改札口を出て、なだらかなスロープを降りていくと、正面にフェリー桟橋がある。小さなフェリーは向こうに見える興居島への連絡船だ。興居島は「こごしま」と読む。松山港エリアに立ちはだかり、大波から港を守っているかのようだ。千人ほどが住み、ミカンの栽培で知られているという。晴れた日は、あの山に黄色い粒がちりばめられる、かな。


高浜駅に到着

桟橋あたりを見物して、少しあたりを散歩すると郵便局があった。コートが邪魔だから、ここで自宅へ送ってしまおう。秋の寒さを見越してコートを持ってきたけれど、存外に暖かく邪魔なだけだった。大きめの箱を買って、使わずに済みそうな長袖と汚れた下着も入れた。伊予灘ものがたりの車中で買った菓子も入れる。下着と同梱だ。さて、この菓子は誰のお土産にしようか。


フェリー桟橋の柱が神社の鳥居のような赤色

-…つづく

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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