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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第622回:新技術の残骸と未来の電車 − 苗穂駅・札幌市電 −

更新日2017/03/23


札幌駅でSさんと別れ、Sさんの勧めに従って苗穂駅に来た。上りのトワイライトエクスプレスは札幌発14時05分。あと30分ほどで通過予定だ。ホームから見渡すと、札幌側の線路上に歩道橋が見えた。あそこが鉄道好きの展望台か。


苗穂駅。駅名の印象は農村だけど……

駅舎を出て右に曲がり歩道を歩く。雪がくるぶしの高さほど積もっていて、ひとり歩くぶんだけ路面が見えた。そこだけ除雪したか、獣道のように踏まれてできた自然の通路か。誰かとすれ違うときは私が避けた。相手は用事があって、私は物見遊山である。理由はそれだけではない。相手のほうが速く歩くから圧倒される。雪道に慣れた人は足が速い。

大きなマンションの前を通り過ぎたところに階段があった。上っていくと、札幌方向は残念な景色。架線柱の桟に視界を遮られてしまう。そのかわり苗穂駅側は見晴らしがいい。駅も良いけれど、苗穂の車両基地の様子も見える。この車両基地は苗穂運転所。隣接して苗穂工場。ここで歴代リゾート車両の改造やDMVの研究が行われた。


歩道橋からの眺め。複々線区間を行く快速列車

線路や留置車両に雪が積もってわかりにくいけれど、興味深い車両がいくつか見える。銀色の車体に細面の先頭車。鼻筋が青い車両はキハ285系という。特急用の新型試験車両だ。動力にモーターアシスト型ハイブリッドシステム、振り子と空気ばねを併用した車体傾斜システムなど、最新技術を搭載している。


右奥がキハ285系。悲運の特急型気動車

筒のような車体の中に青い貨物コンテナを積んだ車両は、トレインオントレインの試験車両だ。青函トンネルで貨物列車を高速で走らせるために、新幹線規格の貨車に在来線規格の貨車をまるごと載せる方式。車両の奥には搭載実験施設もある。

JR北海道の不祥事が続き、安全や新幹線の投資を優先させるため、新しい車両や技術について開発が中止された。未来のJR北海道、未来の日本の鉄道に活かしたい技術もある。その未来は幻影だったか。悔しい。


貨物列車、トレインオントレインの試作車両

現役車両の墓場もある。展望室と天井まで回り込んだ窓を備えた先頭車はフラノエクスプレスとして活躍した気動車だ。ここからでもわかるほど錆が目立つ。改造前はキハ80という古株の気動車で、二度目の人生も終焉の齢である。背中合わせにもう一台の先頭車が連結されている。ブルーシートで覆われて、しかも一部が破れている。行き倒れの遺体のようで切ない。


解体を待つフラノエクスプレス

その様子を眺めている間も、歩道橋の下では列車が行き交う。このあたりは函館本線と千歳線の線路で複々線となっている。乗車しているときは気づかなかった。たまには外から列車を眺めたほうがいいと思った。

苗穂運転所では青色と黄色のディーゼル機関車が行ったり来たり。車両の入れ替えに忙しい。その様子を横目に、私は撮影のベストポジションを探している。複々線の架線が車体の手前に入ってしまうから、すこし斜めの角度がいい。歩道橋の上がいいか、階段を少し下りたほうがいいか。特急列車が通過するときに試し撮りをして、北側の階段を少し下りた場所に決めた。


トワイライトエクスプレス、定時通過……

14時17分。汽笛が聞こえた。青いディーゼル機関車の重連、後ろに連なる濃緑の車体。トワイライトエクスプレスだ。連写。機関車をフレームの端に。客車全部を画面に入れるつもりで。カメラのモニターで確認。うまくいったようだ。直前まで練習してよかった。歩道橋を駆け上がり、去りゆく後ろ姿も狙った。残念だけど、こちらは架線の位置が良くない。これから大阪まで20時間を超える旅だ。どうかご安全に。小さくなっていく列車を見送った。


さよならトワイライトエクスプレス。乗車時の思い出がよぎる

次は藻岩山のケーブルカーだ。札幌駅に戻り、地下鉄に乗って一駅移動。大通駅で降りて、西4丁目電停から市電に乗る。札幌市電は今年中に環状線になる。約450m離れたすすきのまでを結ぶ予定だ。高校時代に乗っているから、次は環状線ができた時でもよかったけれど、いい機会だ。変化する前の西4丁目電停を撮っておこう。


終点時代の西4丁目電停

市電に乗り込み奥まで進み、最後部の運転台横に立った。道路の中央に軌道があり、広々とした街路になっている。何度も電車とすれ違う。札幌市電の基本色はつややかな緑色。ほかに白やピンクのラッピング車両もある。形もさまざまで、丸みがあったり、平面を組み合わせたり。雪がちらつき、そして激しく降り注く。新型の連接車ポラリスとすれ違った。ホワイトボディにブラックフェイス。街が未来になった気がする。


路線図の右端の二駅がつながる予定

九つ目の電停、ロープウェイ入口で降りた。雪はやみ、青空も見える。雪が降ったり、やんだり。これが雪国だ。切り替わりに雨がない。ここから藻岩山ロープウェイの駅まで約500メートル。のんびり歩いて10分だろうか。しかし、ロープウェイの公式サイトによると、ここから無料シャトルバスが15分おきに出ている。


新型車両ポラリスとすれ違う。乗車はいつの日か

歩いてもいいけれど、無料なら乗ってみるか。10分待ってバスに乗り、景色を眺める。なかなか急な坂道である。歩道は雪が残り、氷もあるだろう。歩こうと思った自分を反省した。ご厚意はありがたく受け止めるものだ。平日のせいか乗客は私ひとりだけだった。


シャトルバスで藻岩山へ

それでもゼロよりはいい。乗客がいなければ運転士さんもやりがいがなかろう。実績がなければシャトルバスを企画した札幌市の配慮も無駄になる。私はバスを必要とし、バスもきっと私を必要としている。乗って残そう。タダだけど。

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

<<杉山淳一の著書>>

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


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