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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第615回:もうひとりの龍馬 − MY遊バス・南風16号 −

更新日2017/02/02


桂浜から龍馬像に戻るこのあたりは森の散歩道。遊歩道が整備されている。バス停へ降りていくと土産物店街だ。土佐犬センターという建物がもっとも大きい。そういえば土佐犬っていたな。犬を飼っているくせに、すっかり忘れていた。公園でよく見かけるハク君は土佐犬と何かの混血だったような。

シーズンオフのせいか土佐犬の本物は見かけない。土産物店内は、土佐犬のおもちゃなどがたくさん並んでいる。こぶし大のぬいぐるみがある。自分の犬と、友人の犬にひとつずつ買った。土佐犬だけに丈夫そうだ。帰ったらこれで遊んでやろう。歯を立てても壊れにくいだろうし。


MY遊バス

11時30分発のMY遊バスが来た。幕末の志士の顔がラッピングされている。正面は龍馬。側面は龍馬のほかに3人。左側に中岡慎太郎。彼の像は室戸岬にあって、2006年のバースディきっぷの旅で拝んだ。龍馬と共に近江屋で絶命した人物である。あとの二人はわからない。近くへ寄ったら人物名もあった。岩崎弥太郎。なるほど。

もう一人、ジョン万次郎。日本人として初めて渡米した万次郎は、帰国後に土佐藩士に取り立てられ、坂本龍馬たちに影響を与えた人物である。蒸気機関車に乗った最初の日本人。アメリカの鉄道に乗った経験を「レイロー」なる乗り物だったと記している。レイルロードだ。


海峡を渡る橋から

バスは山道を上り、海峡の橋を渡った。海を見渡し、また山道を行く。変化のある、楽しい車窓である。いったん海側に降りて、人口島に入り、中央卸売市場付近を通過。そして山道。五台山展望台を通った。降りる時間はないけれど、車窓から高みの見物だ。山を下りて、もう一度海側を走る。今度は市場側ではなく、五台山の下を行く。期せずして、湾内周遊の旅となった。


浦戸湾を一周した

12時半ごろに高知駅に着いた。降りたところに土産屋と博物館のような建物があった。入り口の案内板に「龍馬伝」幕末志士社中とあった。NHKの大河ドラマ『龍馬伝』のセットを展示している。放送は2010年だから4年前。福山雅治が坂本龍馬を演じ、武田鉄矢が勝海舟を演じた。よく覚えている。あと40分ほどで列車の時刻だ。この建物の大きさなら、30分くらいで済むだろうと思った。その通りだった。

まず広末涼子さんのサイン入りメッセージボードがある。彼女は龍馬の幼なじみの平井加尾役だった。そういえば高知出身だ。高知だけではなく、都内のよさこい祭りにも参加して話題になっていた。2008年の映画『おくりびと』がよかった。


「龍馬伝」幕末志士社中
広末涼子さんの笑顔に迎えられる

中に進む。龍馬の生家セットがある。撮影された場所に説明書きがある。テレビドラマスタッフの紹介、龍馬伝への思いなど、展示も視覚的で、文字ばかりの坂本龍馬記念館とは対照的だ。おもしろかった。真面目に坂本龍馬を尊敬する人は記念館、龍馬ファンはドラマセット。そんな切り分けだとしたら、私はドラマ派だ。


ドラマで観た風景

南風16号の発車10分前。昼飯に龍馬弁という駅弁を買った。アンパンマン弁当は予約のみ、という張り紙があった。アンパンマン弁当は、元々JR四国グループの高松駅弁が販売していた。現在は岡山駅弁の三好野本店が作っている。だから要予約、数量限定かもしれない。子ども向けで、アンパンマン弁当のくせにあんパンが入っていないという妙な弁当である。子どもはガッカリしないか気になる。


龍馬の部屋

南風16号は3両編成の気動車だ。最後部が展望に配慮したグリーン座席付きの非貫通型。最前部が増結に対応した貫通型。私はもちろんグリーン車だ。ただし展望運転台は後ろ向きになってしまう。座席は前向きのほうが落ち着く。もっとも、阿波池田までの乗車済み区間しか乗らないし、約1時間は駅弁の食事タイムである。気にしない。


南風16号。3両でもグリーン席がある

エンジン音を心地よく響かせながら、南風は発車した。さらば高知。次はいつだろう。訪れる機会はあるだろうか。街並みを見届けて、さっそく駅弁の包みを開く。海の幸が多そうだけど、火が通っているから食べられそうだ。商品ラベルの原材料名を確認する。柚子酢飯、鯖はバッテラ風だ。大丈夫。鰹は煮付け、野菜の煮物、赤い色に警戒したけれどミョウガだった。エビとホタテを避ければ大丈夫。


龍馬弁

後免駅を過ぎると、8年ぶりの土讃本線である。あの時は4月、今は11月。秋の景色だ。緑の景色に紅葉が目立つ。昨日までに観た紅葉より赤みが強く、くっきりしている。植生の違いか、あるいは昨夜の冷え込みで色が強くなったか。紅葉の景色は一晩で変わることもある。

南風16号は後免を出ると、土佐山田に停まる。隣の新改駅は通過するけれど、スイッチバックの駅である。立ち寄ってみたい気がする。乗りつぶしの義務感なしに、鈍行列車で訪れてみたくなる。次の停車駅は大杉だ。中学の頃に参加したアマチュアレスリングクラブの合宿で、杉山という姓が二人いた。小さい方が小杉、大きい私が大杉であった。

日本一の大杉、という碑があって、なんだか頼もしい。美空ひばりの歌碑もあるようだ。調べてみたら、駅の南側800メートルの場所にあって、天然記念物に指定されている。大杉駅の到着前に通り過ぎてしまったようだけど、大きいとは言え線路から離れているから、車窓から見えなかったかもしれない。周りも緑の大木なら見分けが付かない。


穴内川

大杉から先は川沿いで、水面がよく見える。地図には穴内川とある。土佐穴内駅を通過するとトンネルに入り、次に見える川は吉野川になっている。目隠ししているあいだに合流したらしい。次の停車駅は大歩危。景勝地で知られる。線路は崖の上だけど、木々が景色を塞いでしまうし、特急列車の通過は早い。

中央本線木曽川の寝覚ノ床より、大歩危小歩危は車窓に映る。紅葉混じりの景色もよい。しかし横着しないで歩くべきだろう。こうして、次回訪問の宿題ばかり増えていく。ゆとりを持って日程を組み、降りてしまえばいい。それはわかっているつもりだけど、なかなかできない。


吉野川

-…つづく

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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■著書
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