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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第609回:四国山地を迂回して − しおかぜ30号・南風25号 −

更新日2016/12/08


観覧車を降りて、エレベーターで1階に降りた。あっ、エスカレーターにすれば店内の様子を見物できたか。いや、デパートこそ全国どこでも似たようなものだろう。観覧車から見る松山市は都会だ。良い意味でも悪い意味でも地方色はなさそうである。

16時になろうとしていた。あと2時間半も使える。そういえば、どこかで年末ジャンボ宝くじの幟を見た気がする。こんな時だから、こんな場所だから当たるかもしれない。案内所で売り場を訊ねると、地下街にあるという。ここはデパートの案内所で、地下街はデパートの外だ。申し訳ないと思いつつ、その店に行ってみた。○億円当たりました、という景気の良いポスターがいくつもあった。


坊っちゃん列車第2編成。客車が大きい

大手町の平面交差を見に行こう。路面電車の松山市駅。坊っちゃん列車が停まっている。私が乗った客車とは違って、大型の客車が1両だった。つい車軸を確認する。車体は大きいけれどボギー車ではなく2軸だった。大きい客車は内部が広く、窓も多くて景色を眺めやすそうだ。きっとこちらが改良型だ。いや、どちらも当時走っていた車両を再現しただけかもしれない。


大手町の平面交差を見物

飽きずに坊っちゃん列車の方向転換を眺めて、別の電車に乗って大手町で降りた。線路の交差も興味深いけれど、電車同士だから架線の交差も興味深い。これは車内からだとよく見えない。パンタグラフが当たるトロリー線同士は、空飛ぶ円盤のような器具で十字に接続されている。双方のトロリー線がこの器具につながっており、線は直通しない。


坊っちゃん列車の第1編成が来た。真横から撮る

この器具によってトロリー線が絶縁されているとすれば、ここで電車を停めると立ち往生する。でもこの器具が電気を通すかもしれない。どちらも電圧は600ボルトだ。郊外線は高浜線が600ボルト、郡中線と横河原線が750ボルトである。このダイヤモンドクロスが原因で、高浜線は路面電車と電圧を合わせていると言えそうだ。いや、すべての路線を600ボルトに統一しても良さそうなものだけど。


郊外線の通過を待つ路面電車

郊外電車の通過を待つ路面電車、という構図の写真を撮りたくて、しばらく佇む。路面電車の大通りは、片方に松山城のお堀が見えて、反対方向に松山駅が見える。どちらも500メートルほど。徒歩で行けそうだ。何本か電車を見送ったけれど、なかなか良いタイミングが訪れない。17時頃で暗くなり、寒くなってきた。潮時であった。


夕暮れの松山駅

松山駅まで歩き、土産屋でいくつか買い物をして自宅へ発送してもらう。小腹も減って身体も冷えた。そのタイミングで目の前に立ち食いうどんの店がある。カルボナーラうどん、というメニューが面白そうで話のネタになりそうで、注文してみた。ゆでたてのうどんに粉チーズを振りかけ、ベーコンと生卵を載せた代物。釜玉の亜流であった。塩味が足りない。隣のおじさんがゴボウ天うどんを食べている。出汁の香りが涙を誘う。


カルボナーラうどん……微妙

いまのうどんはおやつ。晩飯は駅弁。しかし18時過ぎの駅弁屋は暗い。店じまいの最中だった。奥に人の気配があり、声をかけると、まだ駅弁はあるという。醤油めし。おばちゃんの晩ご飯だったら申し訳ない、というとそんなことないよ、と笑顔を見せた。完売かもしれない。

弁当の次はお茶だ。当たり付きの自販機で買ったら1本当たり。珍しいこともあるもんだ。欲を出してもうひとつ買った。外れた。それでも得をした気がして、浮ついた気分で歩き出すと若い女性から声がかかる。女子高生だ。かわいい。何事かと思ったら、釣り銭が残っていた。1,000円札で買っていた。礼を言って別れたけれど、お茶を1本あげれば良かった。手提げにペットボトル3本。重い。


しおかぜ30号で松山とお別れ

松山駅18時41分発、特急しおかぜ30号に乗る。流線型の8000系電車。発車前の車内放送で「自由席は混むから譲り合ってください」と言っていた。岡山―松山間はJR四国のドル箱路線に当たる。しまなみ海道が整備されて、ライバルのバス便も増えていると思うけれど、長距離になるほどバスは窮屈だ。だから列車も人気ということか。

自由席の混雑はお気の毒だけど、私はグリーン車を使えるきっぷだから、もちろんグリーン車である。こちらの乗客は私だけだ。格安フリーきっぷだから偉そうなことは言えないけれど、優越感はある。日が暮れる鉄路。松山の長い一日を振り返り、疲れ、本を読む気分でもない。目を閉じて列車の揺れに身を任せ、駅弁を食べて少し眠る。


快適なグリーン車

胸ポケットのスマートホンが震える。多度津駅到着15分前だ。ドアが開くと冷たい空気に頬をなでられる。暖かい列車内に未練を残しつつ、重い鞄を引いていく。乗り換えの高知行きは隣のホームだ。階段を降りて、地下道を通り、また階段を上がる。これでは乗り換えなしのバスには勝てないな、と思う。もっとも、乗り換えた客は私だけで、直通列車を走らせる需要はないらしい。

松山と高知は特急乗り継ぎだと多度津経由で、地図を見ると遠回りに見える。しかしそれは高速バスも同じで、四国山地を迂回するようなルートだ。松山自動車道を東へ走り、多度津よりは手前で高知自動車道に入って南進する。バスの所要時間は2時間半。料金は3,600円。これが特急乗り換えだと4時間かかり、料金は9,000円以上。こんな乗り継ぎはフリーきっぷ持ちか鉄道好きに限られる。バスの勝ち。話にならない。


残り物には福がある。醤油めし弁当

多度津駅20時59分発、南風25号のグリーン車に乗るつもりだった。松山駅で座席指定済みだ。ところが、やってきた列車は3両編成でグリーン車がない。時刻表にはアンパンマン列車5両編成とある。そのうち2両は高松発のしまんと9号で、この駅で連結されるはずだ。号車番号は6、7、8。6、7号車は、しまんと9号に割り当てられているはず。8号車とは何か。

ダイヤが乱れているか、あるいは別の列車か。ホームに立つ駅員に確認すると、これは南風25号だ。詳しくは車掌に聞いてくれという。取り急ぎ列車に乗り、デッキで車掌にきっぷを見せる。車両故障のため、普段とは違う車両を使っているとのこと。
「指定席の好きなところに座ってください、たぶんもうお客さんは乗ってこないので」
運休にならないだけマシだけど、もう客は来ないという予想は寂しい。
しばらくして車内放送があり、しまんと号は車両故障で運休だという。それはいつ判明したのだろう。車両故障はオンラインで瞬時に反映されるから、松山駅で発券される時までは、グリーン車を連結する予定だったわけだ。


グリーン車なしの南風25号

JR四国の特急は、同じ愛称でもグリーン車があったりなかったりする。私はグリーン車を乗り継げるから、しおかぜ30号と南風25号を乗り継ぐ日程にした。南風にグリーン車がなかったら、1本早い列車でも良かった。そうすればホテルの滞在時間が1時間増えて、睡眠時間を長く取れた。今さら言っても仕方ないことだし、大陸のルーズな列車旅のようで、貴重な体験をできたと前向きに考えよう。

高知駅着22時49分。ホテルは駅前広場を横断した突き当たりにあった。シャワーを浴びて寝るだけだ。明日の朝も早い。

-…つづく

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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■著書
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