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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第650回:三大車窓のちょっと下 - ワイドビューしなの9号 4 -

更新日2017/10/19



ワイドビューしなの9号は塩尻から篠ノ井線に入り、長野へ向かって真北に進む。松本盆地に入って景色が広がり、線路はほぼ一直線である。つまり振り子式の活躍は終わって、私も気持ちが落ち着いてきた。バッテラ氏は相変わらず何かに文句を言っているけれど、もう相手にしない。返事をするのも疲れてきた。

バッテラ氏との会話を切り上げるために、あえて通路側の男性に話しかける。金沢から乗りに来たという。サンダーバードで大阪に来て、ワイドビューしなので長野に出て、北陸新幹線で帰る。ぐるっと一周するルートになる。

01
昼ご飯は大阪で買った駅弁「神戸のすきやきとステーキ弁当」

広丘駅を通過。エプソンの工場が見える。私が学生時代にアルバイトをしていた工場なんですよ。その先、南松本郵便局でもアルバイトをしてましてね。などと、どうでも良い話だ。あれ、私は今、バッテラ氏並みにウザい相手かもしれない。金沢から来た青年は、かつて原付バイクで国道19号を旅したという。私も学生時代に原付で長野、飯田、上田などを巡った。お互いに通った道、抜け道などの話題で盛り上がる。

篠ノ井線の塩尻から松本までは、学生時代に何度も乗った路線だ。建物が替わり、風景もそれなりに興味深い。しかし凝視するほど興味はなく、気を抜いたついでに駅弁をいただく。神戸、淡路屋のステーキ弁当だ。松本盆地の景色を見ながら、大阪駅で買った弁当を食べる。そういう経験も、"大阪しなの"だからできることかもしれない。

02
松本駅を発車

松本駅で、立っていた女性運転士が降りていく。途中駅からの交代要員ではなく、便乗だった。運転席の女性がそのまま乗務する。
「この運転士はうまいです」
私の食事の終わりを待っていたか、バッテラ氏が話しかけてきた。
「あ、そう」
二つ返事でかわす。

発車後の車内放送で、まず少し遅れているらしい。しかし列車のスピードは遅め。いや、これでも遅延回復運転をしているかもしれない。振り子機構の曲線通過はスピード感があった。直線では速度感が鈍る。女性運転士を応援したくなる。前方の風景と眺めれば、ときどき彼女の肩が視界に入る。精一杯、頑張っているはずだ。

北松本駅を通過する。踏切を通った。篠ノ井線の松本市内は立体交差が進んでいて、ここは数少ない踏切の一つ。私はこの土地で自動車運転免許の教習を受けたから、あの唯一の踏切をよく覚えている。数少ない踏切通過を練習するために、路上教習のコースでは必ず設定される踏切だ。もう30年も前の話。

03
坂北駅で普通列車と交換

線路は少しずつ高度を上げる。車窓左側、犀川を見下ろし、遠くに穂高を望む。2Bの席も悪くない。1C、1Dなら前方を楽しめただろうけれど、左側は見えにくい。右側は山が迫る。明科駅を通過して単線となり右カーブ。トンネルに入れば松本盆地の終わりである。この長いトンネルを出ると山間の道筋になる。線路は緩くカーブして、振り子機構の活躍が再開された。乗り心地は悪くない。

04
聖高原駅で上りワイドビューしなの14号と交換

谷間を走り続けて、また長いトンネルに入った。抜け出すと長野盆地、千曲川流域である。こんどは車窓右側が開け、高いところから長野盆地を眺める。正面に姨捨駅が現れる。スイッチバック式の駅で、プラットホームから望む長野盆地は鉄道三大車窓と呼ばれている。特急は姨捨駅に停まらないから、スイッチバックの線路の分岐合流を通り過ぎ、その様子を前面展望で眺めた。嬉しい。

05
正面に姨捨駅、分岐線路に架線柱が林立

本線は姨捨駅より低い位置にある。それでも長野盆地の俯瞰風景は素晴らしい。進行方向右側、1Dの席は空いたままだ。指定席を取るときに、名古屋駅で分割し、1Dを申し込めば座れた。少し悔しい。今後は良い席を見定めても取れなかった場合、区間別に購入してみよう。

06
日本三大車窓……のちょっと下

列車は長野盆地へ降りていく。篠ノ井駅の到着は3分遅れて13時48分。ここでバッテラ氏が慌てて降りていく。もともと、長野に着いたら、大阪行きのワイドヒューしなの16号で折り返すつもりだったらしい。定時ならこの列車の長野到着が13時53分、ワイドビューしなの16号の長野発が14時04分。11分の待ち時間があれば余裕で折り返せる。

07
篠ノ井駅に停車
学生時代、ここで降りて運転免許試験を受けた

しかしこちらが3分遅れているため、待ち時間は7分。バッテラ氏は姨捨を過ぎる頃からソワソワしており、篠ノ井で降車を決断した。私なら間に合うと踏むけれど、安全策をとったバッテラ氏も勇気がある。篠ノ井から長野までは約8分。ほんのわずかだけど休息の時間となった。

08
北陸新幹線の高架線路が寄り添う

私の方は、長野駅15時03分発のはくたか566号に乗って帰る。駅の案内放送で「はくたか号にお乗りの方は急いで……」と言うから慌てたけれど、それはひとつ前のはくたか564号だった。こちらの到着を待っていたようだ。定刻なら6分間の短い乗り継ぎで、もともと接続を取っていたとは驚きでもある。

時間があるから、ワイドビューしなの9号、381系の様子を眺める。写真を撮っている少年が多いけれど、この駅からしなのが消えるわけではない。大阪行の表示を撮りたいらしい。大阪から来たしなのと、大阪行きのしなのが並ぶ様子も珍しい。もっとも、正面に大阪行きの表示がないから、説明してもらわないと意味のわからない写真になってしまう。

09
長野駅に到着、約5時間の旅が終わる

しばらく383系の並びを眺めた後、北陸新幹線のホームに上がった。長野新幹線から北陸新幹線という正式名に変わって初めてだ。そういえば土産を買ってない。少なくとも、母には何か渡さなくてはいけない。飼い犬の面倒を見てもらったからだ。そして近所でいつもいろいろくださる方に。

売店を覗いてみたけれど、ふと我に返った。今回の旅の目的地は鳥取だった。長野の銘菓を買って、土産として筋が通るだろうか。悩みつつ、栗の菓子をいくつか買った。私が好きだから、という理由だ。

10
かがやき566号。帰りは1時間半で東京へ

はくたか。北陸新幹線の最速列車だ。長野を15時03分に発車すると、16時02分着の大宮までノンストップ。1時間で大宮、1時間半で東京だ。早くて便利。はくたか566号は、すでにほぼ満席だった。北陸新幹線は大成功のようだ。金沢へ、いつ行こうか。

第649回の行程地図


2016年03月21-24日の新規乗車線区
JR: 82.4Km
私鉄: 0.0Km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):21,136.9Km (93.47%)
私鉄: 6,272.5km (90.90%)


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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

<<杉山淳一の著書>>

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『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
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