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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第606回:環状線を作る単線 − 伊予鉄道 城北線 −

更新日2016/11/03


もともと想定していた路面電車の順路は、古町から乗った坊っちゃん列車によって崩れた。これからは場当たりな選択で未乗路線をたどっていく。決意を新たにしたように思ったけれども、考えてみれば私にとっては平常運転の部類である。仕事も遊びも計画通りに完遂した経験のほうが少ない。良い意味でも悪い意味でも自由すぎる。自由って素晴らしい。


伊予鉄道の主力路面電車たち

道後公園電停から路面電車に乗って上一万で降りる。併用軌道の電停だけど、歩道と乗り場を移るために地下通路が用意され、横断歩道はない。地下道を通ってみたけれども、地上に戻ると道路や軌道を渡る人のほうが多い。地上交通は段差が少ないから良いのであって、地下通路は意味がない。実際に利用もされない。「道路を渡ると危ないから地下道を作ろう」という施策も、私の旅と同じくらいに場当たり的だ。


細い地下道はあまり使われていない

2系統の電車で環状線の残り区間に乗る。大通りの交差点を左折して、そのまま進むかと思ったら、右側へ逸れて路地裏のような区間に入った。意外にもここから単線である。しかも専用軌道だ。S字カーブを過ぎると、住宅が並ぶ中を郊外線のような線路がまっすぐに伸びている。踏切もある。路面電車らしくない。


大通りから裏通りへ

鉄砲町はすれ違い可能な電停だ。こちらの電車が先に到着し、コンプレッサーの音を響かせて待つと、向かい側の電車がやってきた。松山市駅行きであった。それにしても鉄砲町とは城下町らしい名前だ。地図を見ると松山城趾の北側にあたる。江戸時代に鉄砲職人や鉄砲隊が住んだ町ということか。


鉄砲町ですれ違い

鉄砲町は緩やかな右カーブにあり、発車するとまた直線になった。並行道路もなく、マンションの壁が迫る。こんどは右へ左へと曲線が続く。曲線があれば建物が建たない隙間がある。そこの立木が見事に紅葉している。建物ばかりの景色に、ちょっとした息づかいがある。


ときどき紅葉が現れる

いくつか電停、いや、専用軌道だから駅と言うべきか。線路1本の駅があったのち、木屋町電停で交換待ち。マンションの谷間から、相手の電車が顔を出す。古い電車同士、前面が顔に見える。おっ、来たな。待たせてごめんね。そんな会話を妄想する。


木屋町電停で相手を待つ

お互いに車内は混んでいて、できることなら複線にしてあげたい。しかしマンションの壁は壊せない。無粋ながら費用対効果、という言葉がうかぶ。ただし鉄砲町と木屋町の交換設備のおかげで、環状線は両方向とも10分間隔で走っている。かなりの頻度だ。充分かもしれない。輸送力を増やすなら2両連結で走ればいい。交換設備は対応できそうだし、朝はそうしているかもしれない。


本町6丁目駅へ。手前の道路の左側に電停がある

木屋町駅を出るとすぐに次の駅がある。本町6丁目だ。その手前の踏切が大通りで、路面電車の本町6丁目電停がある。あれは環状線を横断する支線だ。ただし、こちらの線路とはつながっていない。この線路に乗るために、また引き返してくるとして、まずは先へ進んだ。建物をすり抜けて、踏切で道路を横断し……と繰り返し、前方に視野が広がる。古町駅の敷地に入った。


古町に着く。郊外線と合流

坊っちゃん列車に乗った古町駅に戻った。乗車記録上はここで引き返して本町6丁目に戻ってもいい。しかし、もうひとつ先へ行って戻る。坊っちゃん列車の客車は窓が小さく、郊外線との平面交差を観察しにくかった。もっと線路を見たい。大手町の十字交差よりも、斜め交差で分岐もある古町のほうがおもしろい。マニアらしい所作である。


斜め平面交差をしっかり見届けた

次の宮田町駅は大通りの手前にあり、専用軌道の端であった。線路は1本。ホームは両側にある。松山市方面のホームは白い屋根がある。反対側に屋根はなし。駅名標がなければ、大通りの歩道の続きであった。線路沿いに屋根と同じ白さの建物がある。けれども電車とは関係ない。


新型電車で折り返す

曇天の空から、再び雨粒が落ちてくる。屋根のないホームで待っていたら、真四角な新型電車がやってきた。前面は顔に見えない。スッキリしてカッコいいけれど愛嬌はない。これがクールビューティーってやつか。窓が大きくて、3度目の古町平面交差をしっかり見届けた。

伊予鉄道市内線は、松山市駅、JR松山駅前と道後温泉を結ぶ複線が幹線で、環状運転は専用軌道の支線への乗り入れる形で便宜的に行われる。後に調べると、この専用軌道は鉄道免許で作られた。伊予鉄道は環状運転しているけれど、区間ごとに路線名がある。古町から平和通1丁目までは城北線、古町からJR松山駅前を通って西堀端までが大手町線、西堀端から道後温泉までは城南線だ。上一万と平和通1丁目をつなぐ線路は城南線の連絡線という扱いである。

その視点に立つと、古町から道後温泉までの運行は大手町線と城南線になるわけで、これが幹線であり本線系統と納得できる。これに西堀端と本町1丁目を結ぶ本町線、南堀端と松山市を結ぶ花園線が加わり、巧みに相互直通運転を実施しているというわけだ。環状に線路があればそれが本線というわけではない。地域によって事情も運用も異なる。乗ってみるまでわからない。調べて納得。勉強になった。

-…つづく

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


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