第45回:楽しい射撃ツアーのお客さんたち
更新日2003/01/23
私の仕事は、日本からの観光客の方々に射撃を教えることである。射撃というと危険でアウトロー的なことと思えるかも知れないが、米国ではバッティング・センターや、ゴルフの打ちっ放しの感覚と大差ないスポーツだ。
実際日本では、戦後GHQにより国内の銃器が完全に撤去されてしまい、拳銃=悪という方式が、国民にマインド・コントロールされてしまったのかも知れない。つい50年前までは、欧米列強と同じく銃器の所持は認められていたのに…。
それでも、海外で射撃を体験したいと思っている日本人は多い。つまり、日本を飛び出せば、そこには開放された非日常の世界が待っている。さらに、GUNは、男なら誰もが生まれ持っている攻撃本能の象徴なのだから仕方ない。
実際、射撃のツアーに参加する日本人は、ほとんどが善良な市民でかつ一般的な観光客である。しかも、新婚旅行や社員旅行で西海岸にきたついでに、3時間くらいの空き時間を利用してツアーに参加するケースがほとんどである。
しかし、時には一風変わったお客様もツアーに参加することがある。堅気離れした堂々とした風貌のK氏とその友人は、東京で出版会社の社長をしている方で、毎年、ラスベガスで豪遊した帰りにシスコに寄ってこの射撃ツアーに参加される。射撃は極めて実戦的で、至近距離での練習が多い。そして、かなりの数をこなす。
もしかすると、日本で危険なお仕事に付いている方では? と思ったりもしたが、食事でご一緒した時、彼が言うには、射撃訓練に深い意味はなく、純粋にGUNが好きな人であった。海外でのカジノ、酒、女、そしてGUNは、男の究極の夢であるのかも知れない。
男の夢といえば、私の勤めている会社が、日本から直接参加者を募集しているGUNマニア・ツアーも究極かも知れない。つまり、射撃をするだけのツアーである。彼らは、2日間、郊外の射撃場を借り切って撃ちまくるのである。会社には、世界中のGUNが、50種類100丁以上のGUNがコレクションされていて、それをどれでも好きに撃つことができるのだ。
この時は、射撃の操作方法などをいちいち説明しなくてもよいので楽であるが、このツアーのお客様には、少しオタクっぽい方? が多いのが難点だった。自分の撃った弾の一撃で直径30cmのスイカが、四散するシーンを見てしまったら、日本でのストレスも同時に四散するのかも知れない。
「射撃ツアーには、ヤクザが練習にきませんか?」
と言う質問も多い。確かに、ヒットマンが実弾の練習をするには、良い環境である。しかし実際は、東南アジア方面での練習が多いようで、西海岸ではまずお目にかかれない。が、バブル期の80年代後半から90年代の初頭までは、総会屋系の方はごく稀に参加することがあった。
彼は、射撃場に直接リムジンを横付けし、旅行者とは思えないパリッとした背広を着て降りてきた。そして、
「兄ちゃん、チャカ、弾かせろや。」
といきなり私に凄んできた。
「俺は、日本でも撃っとる。だから一番強力な銃を撃たせろ。」
私も、参加するお客様には差別することなく接しているが、事故は起こして欲しくはない。いくら日本でプロと呼ばれていても絶対的な信用はできない。私は、本当のGUNの怖さを教えてやろうと、少し意地悪になりGUNロッカーから1丁のGUNを取り出した。
「これが、うちで一番強力な拳銃です。使い方は、分りますか?」
と聞いてみると、
「当たり前だ。」
と言いながら、私の手から世界最強の拳銃、イスラエル製デザートイーグル(50口径)を強引に抜き取った。このGUNの反動は強烈で、体のゴツイ米国人でも敬遠したくなる代物だったが、彼のリクエストであるのだから仕方ない。
それでも、GUNとそれに使用する巨大な実弾を見ても、彼は平静を装い余裕を崩さなかった。しかし、操作の仕方が分らず、まごついているのは、後ろから見ても明白だった。
「大丈夫ですか?」
と声を掛けると。
「これは、壊れているぞ!」
と私に対する怒りを露わにしてきた。つまり、弾を入れずにスライドを閉めてしまい、まるで強力なエキスパンダーのバネが効いたなデザート・イーグルのスライドを開けることができなくなったのだ。仕方なく、私は手伝うことにして弾を入れてやった。もちろん、彼は、礼も言わずにおもむろに自我流のヘッピリ腰でGUNをかまえた。
次の瞬間、デザート・イーグルが吼えた。
「ドゴーンッ!」
真昼なのに目の前に閃光が、光った。彼の左手のグリップが、甘かったので反動で跳ね飛ばされ銃口は、頭上まで跳ね上がった。しかも、彼はわざとイヤプロテクター(耳栓)の装着をしていなかったので衝撃波が、まともに射手を襲った様子である。
GUNを射台に置いて、
「もういいわ、これ。」
と一言告げると、早々とリムジンに戻って行った。たった1発だけの最短射撃ツアーになってしまった。
日本で会うと怖い人種の方たちも、実際のGUNを見れば、怖気付いてしまう光景を見るのは滑稽なものだった。やはり、未知に対する恐怖は人間みな同じもののようだ。少しでも多くの人にGUNシューティングを楽しんでいって欲しいのは、仕事をやっていていつも思うのだが…。
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