■拳銃稼業〜西海岸修行編

中井クニヒコ
(なかい・くにひこ)


1966年大阪府生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊中部方面隊第三師団入隊、レインジャー隊員陸士長で'90年除隊、その後米国に渡る。在米12年、射撃・銃器インストラクター。米国法人(株)デザート・シューティング・ツアー代表取締役。


第1回:日本脱出……南無八幡大菩薩

第2回:夢を紡ぎ出すマシーン

更新日2002/03/04 


ハリウッドで降りたのはいいが、宿すら手配していない。まずはホテルを探すことが第一だった。しかし、道を訊こうにも「Excuse me」の一言も出てこない。この先が思いやられる。3時間かけてようやく1泊10ドルのユース・ホステルに滑り込んだ。資金、5000ドル也。これが自分で決めていた3カ月間の滞在費である。それまでに仕事を探して自給自足を始めなければならない。

言葉の問題、これからの行動計画のことで頭は一杯だった。明日から早速、職探しでも始めようか。そうこうしているうちに、アメリカ大陸第一日目は終り、深い眠りについた。

翌朝、ホテルのスタッフに仕事を探していることを告げると、「ダウンタウンへ行けば見つかる」との話。早速歩いて出かけて行った。地図は縮尺が書かれていないので、歩いて30分くらいだと概算で考えてみるが、歩けど歩けど地図上の自分の位置は一向に変わらない。結局、予想の6倍である3時間かかってようやく到着する。

ロスは、とにかくとてつもなく広い。いや、このアメリカ大陸全体がでかいのだ。早く何とかしなければ……。

バスも移動手段ではあるが、自由気ままな行動を支えてくれるのは、やはりバイクしかない。ダウンタウンまで歩く間に何度もガソリン・ステーションを見かけたが、当時の米国でのガソリンの値段は、1ガロン(3.7リットル)で約1ドル。日本では1リットル150円だった。これだけで自分の中に電流が走った。

私は大のバイク好きで、自衛隊時代も機甲偵察隊のオートバイ小隊で任務に付いていたのだ。個人でも高校時代より日本全国をツーリングで廻っており、誰が言ったか忘れたが、私にとってバイクはまさに「夢製造機」だった。

ダウンタウンは、私の米国のイメージからは遠くかけ離れていた。流れる音楽、行き交う言葉は、ほとんどがスペイン語。小銭やタバコをねだる浮浪者、喧嘩を売る黒人たち、汚れてつぎはぎだらけの路面。これが西海岸の主要都市とはとても思えなかった。

後になって、ダウンダウンに住むのは低所得層の人たちで、人口の3パーセントにあたり、国民総収入の80パーセントを支配する裕福な白人層は街の郊外にコミュニティを形成して生活していることがわかった。日本のような総中流層など微塵もない、まさに勝者と敗者の国だった。

ふらふらと日本語の看板につられて立ち寄った場所は、リトル・トーキョー。その一角だけは日本同様の物が豊富に手に入る。特にヤオハン・デパートは、日本のスーパー顔負けだった。その1階の生鮮売り場の入り口で、日本語でかかれた大きな求人広告の掲示板を見つけ、否応なく胸は高鳴った。日本語を使える仕事なら何とかなるかもしれない。観光ツアーガイド、ドライバー、レストランから事務仕事に至るまでたくさんある!

「よっしゃ! これで大丈夫」

人間というのは、私を含めてかなり思い込みが激しい動物だ。仕事をする前からまるで人生の成功を収めたかのような錯覚をおこし、つい舞い上がってしまう。

しかし、求人広告の連絡先に電話をするつど、私の声のトーンは下がっていった。
「労働ビザか永住権はありますか?」
「英語は日常会話程度が最低条件です」
「米国歴のレジメ?(履歴書)を」
「何にも無くてもいいけど、うちは時給5ドルスタートだよ」……
とにかく相手方は、怪訝な声で対応する。日本から着いたばかりで何も知らない、垢抜けない様子を見抜かれているらしかった。

ロスに着いてまだ2日目。仕方ない。少しは、アメリカ滞在の経験でも積まなければならないだろう。翌日からは、就職活動を一時中断した。

 

 

第3回:ストリート・ファイトの一夜

 
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