第545回:遅延便からの贈り物 - SFJ 056便 福岡空港~羽田空港 -
博多駅で風ちゃんと別れた後、地下鉄で福岡空港に向かった。10日前からICカード乗車券の全国提携が始まったから、さっそくPASMOを使ってみる。慣れない地域で、切符売り場に並ばず、運賃表を見上げて目的地のきっぷの値段を調べる手間がいらない。便利になったものだ。
博多から地下鉄で福岡空港へ
予約していた飛行機はスターフライヤー058便。同社の最終便で福岡空港21時15分発、羽田空港22時55分着だ。今回の旅は、行きにソラシドエア、帰りはスターフライヤー。どちらも初めて利用する会社だ。帰りの飛行機も楽しみだった。
ところが、福岡空港に着いてみると、なにやら出発ロビーが騒がしい。夜間飛行の出発ロビーはもっと静かなはずだ。異変の理由は出発便の大幅な遅れであった。福岡は晴れていたけれど、羽田空港は日中に豪雨のため滑走路が閉鎖されていたという。夕刻になって運航再開したようだけど、機材が間に合わない。私が乗る予定の飛行機は、まだ羽田空港にいた。アナウンスによると、予定より1時間ほど遅れる見通しだ。
21時09分現在。飛行機は約1時間の遅れ
この調子だと羽田空港着は23時55分である。京急の時刻表を検索してみると、そこから自宅までの列車がない。タクシーに乗ると約4,000円かかる。それも仕方ないし、もっと遅れるようなら空港で始発電車まで待てばいい。缶コーヒーを飲みながら、展望デッキで夜明けを待つという過ごし方も悪くない。なにしろ帰路である。気楽だ。
とっくに出発していたはずの56便が駐機
出張帰りとみられる背広姿の人々が、携帯電話で話している。諦めや苛立ちの声が聞こえる。私は携帯端末のバッテリーを気にするだけだった。暇つぶし用に欠かせない機械である。バッテリーが切れたら読書だ。鞄はすべて持ち込みである。時間の使い方はいくらでもある。
そんなふうにのんびり構えていたら、ひとつ前の便に繰り上げ可能というアナウンスがあった。空席があるという。その便も遅れており、ひとつ後の便の発着時刻と同じになる。つまり、これに乗れば予定通りに羽田に着くわけだ。ただし、窓際など座席の希望には添えないという。それはそうだろう。私は少し考えて、結局、繰り上げ便の振り替えを選択した。
スターフライヤーは革張りシートが特徴
最終便にこだわって、どのくらい遅れるか見物したい気持ちもある。しかし、最終便の客がすべて前の便に乗ってくれたら、スターフライヤーは最終便を飛ばさずに済むかもしれない。実際はどういう規定かわからないけれど、ひとつ前の便に乗れますよというアナウンスは、お願いだから乗ってもらえませんか、という要請のようにも思えた。
各座席にモニターを装備
予約した席番とは違った。それでも早めに振り替えに応じたせいか、窓際席を割り当ててくれた。私は初めて乗るスターフライヤーを楽しんだ。黒い革張りのシートは高級車に乗った気分だったし、すべての座席に小型モニターが用意されていた。非常設備の案内が忍者のアニメで、これなら子どもも最後まで見てくれるだろう。
機内エンターテイメントとして動画の番組もあったけれど、画面を注視するには疲れすぎていた。シートの居心地がよかったらしく、離陸してすぐに眠くなってきた。音楽にチャンネルを合わせ、画面は地図表示にしておいた。どこを飛んでいるかがわかる。目が覚めるたびに、地図と窓の下の夜景を見比べた。
窓際の席だった
羽田空港に着陸し、スポットまでのタキシングの間に、遅延を詫びる放送があった。そして、キャンペーンにより1フライトが無料で提供されると案内された。この当時、スターフライヤーは福岡羽田線の増便を記念して、定時制確保キャンペーンを実施していた。45分以上の遅延や欠航があった場合に、同じ区間の無料航空券を提供するという内容だ。
コーポレートカラーの黒にこだわる
実施期間は2013年3月31日から同年9月30日まで。スターフライヤーは前年度の定時運行率が94パーセントだったから、かなり自信を持って実施したキャンペーンだった。しかし対象期間の4日目ではやくも対象事例が発生した。私も予約時にこの施策は知っていたけれど、まさか対象になるとは思わなかった。たしか悪天候は対象外だったはずだ。もしかしたら、滑走路閉鎖解除後の、機材調整で遅れた便だけが対象かもしれなかった。
エンタメも充実
それにしても、私は無料航空権の対象だろうか。予約した便は遅れたけれど、結局ひとつ前の便に乗ったから、予定より5分ほど遅れただけだ。無料航空券の対象から外すために、遅延便の客に繰り上げ搭乗を促したかもしれない。しかし実際はそのような選別は行われなかった。到着ロビーの入り口に係員が並び、すべての客にA4サイズ1枚の書類が配布された。特典航空券の予約の手順が記載されていた。
さて、この権利を得たとして、行使すべきか。片道がタダでも、帰ってくるためには片道の旅費が必要だ。3月に三重、瀬戸内、日帰りの貨物線の旅をして、いま南九州を巡ったばかり。出かけすぎかもしれない。旅の資金も心許ない。まずは溜まった仕事を片づけて、それから次の旅を考えよう。
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