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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第523回:南国の空へ - ソラシドエア51便 羽田~宮崎 -

更新日2014/08/21


2013年4月1日早朝。羽田空港第2ターミナルビル北端で同行の友人を待つ。今日から3日間、九州を旅する。先月中旬に2泊3日で香川・岡山・広島を巡り、帰った翌日に関東の貨物線に乗るツアーに参加した。その旅の整理も終わらないうちに、こんどは九州である。さすがに行き過ぎだ。本当はちょっと間をあけてノンビリしたい。そして、どちらかと言えば九州よりも三陸に行きたかった。震災後の三陸鉄道が一部で運行を再開したし、JR東日本が運行を始めたBRTも興味深い。


早朝の羽田空港ロビー。同行者も到着

しかし、そんな気持ちをひっくり返すきっぷが発表された。"HAPPY BIRTHDAY KYUSHU PASS"。誕生月の連続3日間、JR九州の全線が乗り放題。しかもグリーン車を含む指定席を6回まで利用できる。料金は2万円。すばらしい。オトクすぎる。実はJR四国も似た企画の“バースディきっぷ”を通年販売している。こちらはJR四国の全路線に乗り放題で料金は1万円、グリーン車の利用制限なしという大盤振る舞いである。対する九州は倍の価格で制限付き。しかし、九州の方が広く、新幹線も乗れるから妥当だと思われる。

"HAPPY BIRTHDAY KYUSHU PASS"の発売期間は2013年3月1日から2014年2月28日まで。どうやら1年限定らしい。ならば今年のうちに使わなくてはいけない。私の誕生月は4月である。いますぐ乗らねばならぬ。4月の2週目から大学で週に一度の講座が始まるから、1週目しか長旅のチャンスはない。後にこのきっぷは翌年の販売も決まり、どうやら毎年買えそうな雰囲気になったけど、この時の私は焦った。

1月に"HAPPY BIRTHDAY KYUSHU PASS"が発表された時、「乗らねば!」とTwitterにコメントした。「俺も行きたい!」とリプライがあった。「風ちゃん」こと風小僧である。ふとっちょで『となりのトトロ』のトトロを連想する。そうだ、彼も4月生まれ。「前から杉チャンの旅につきあってみたかったんだよね」という。彼は10年来の友である。しかし彼と私はバイク仲間で、彼は鉄道好きというわけでもなさそうだから、このリプライは意外だった。


ソラシドエアの窓口はターミナルビル北端

それから約1ヶ月、時刻表3月号の発売を待って日程を作り始めた。日本の鉄道は毎年3月にダイヤ改正を実施するから、それ以前に詳細な日程を作っても意味がない。今回の目的地は南九州だ。JR九州の未乗区間が多く、鹿児島市電にも乗りたい。ちょうど良いタイミングでインターネットの宿泊予約サービスが安売りセールを始めたから、鹿児島のホテルを連泊で押さえた。

すぐに風ちゃんに日程のメールを送り、宿泊先を伝えた。宿泊予約サイトの安売りセールも伝えた。彼が本気で行くつもりなら宿を取るだろう。彼が宿を取らなければいつもの一人旅である。友達同士の旅で、このやり方は不自然かもしれない。しかし私はもともとシングルルームに泊まるつもりだった。仲良しの二人旅とはいえ、プライベートな時間は必要だ。夜は一人になりたい。


SNA51便はボーイング737

行きの飛行機は私が二人分を予約した。今回は宮崎空港線も乗りたいから、行きは06時20分発のソラシドエア51便で宮崎へ向かう。2日後の帰りは九州新幹線で博多に出て、福岡発羽田行きのスターフライヤーだ。いつもANAやJALではつまらないし、私の利用頻度では1社にまとめてもマイルが貯まらない。それなら、なるべく異なる航空会社に乗ってみたい。

特にソラシドエアに乗ってみたかった。スカイネットアジア航空が「ソラシドエア」というブランドでイメージチェンジした時の発表会を取材している。新ブランドはドレミファソラシドの高音部分と、空、シード(種)をかけている。「空から笑顔の種をまく。」というコピーが良かった。スカイネット時代の機体は南国の花をあしらった奇抜なデザインで、どこか暑苦しかった。ソラシドエアの塗装は黄緑色でスッキリしている。


離陸直後は雲の上

朝の静かな出発ロビーは気持ちがいい。搭乗口は51番。第2ターミナルビル北端のボーディングブリッジであった。バス連絡にならないだけマシだ。風ちゃんとそろって荷物検査を受ける。ソラシドエアには悪いけど、マイナーな航空会社だから空いている気がする。おかげで搭乗手続きはなめらかに進んだ。


富士山頂も雲の上

飛行機の姿が見えてきた。飛行機はブリッジの向こう側に停まっていて、残念ながら機体の全景は見えない。しかしこの風景になんとなく既視感がある。そうか。ここは7年前に高知行きの全日空機に乗ったときと同じ搭乗口だ。ここから出発する飛行機は、クランク状の長いプッシュバックをやる。今回の飛行機はボーイング737、私たちの座席は23番。かなり後ろだった。座席は前方からここまで埋まっていて、私たちの後ろは空いていた。

「風ちゃん、空いてるからさ、俺とは反対側の窓際に行きなよ」
「なんで」
「二人ともこっちに来たら、飛行機が傾いちゃうだろ」
「ひどいこと言うなぁ」
そんな軽口をたたいてみる。楽しい旅になりそうである。

快晴の空、順調なフライト。風ちゃんも私も、シートベルトのサインが消えると左右に動いて、機窓から眼下の景色を楽しんだ。内陸部を飛ぶコースで、地上の街の様子がよくわかる。機内誌の地図と見比べて、そろそろ厚木だな、相模湾だな、と語るうちに、とうとう富士山が現れた。機内アナウンスも「右側に富士山がよく見えます」と案内した。


南紀白浜空港

左側の座席の人々が立ち上がり、何人かが右側にやってくる。やっぱり機体が傾くのではないかと思う。ああそうか。あの機内放送は、私たちだけではなく、パイロットにも合図を送っているに違いない。「これからお客さんが富士山側に移動しますよ、機体が傾きますよ」と。パイロットはそれを心得て、機体をや左に傾けてバランスを取る。

そういうことだよね、と風ちゃんに言うと、
「杉ちゃん、それくらいは自動で調整できるんじゃないかなあ」
それもそうだな。


室戸岬

このあと、南アルプスを遠くに望み、中部国際空港を長め、紀伊半島を横断。室戸岬から始まる四国を見下ろして下降した。宮崎空港の着陸は定刻より15分も早かった。ずっと快晴。気持ちの良いフライトであった。
さあ、鉄道の旅の始まりだ。第一歩として、宮崎空港駅できっぷを買わなくてはいけない。私たちは免許証を出した。"HAPPY BIRTHDAY KYUSHU PASS"を買うには、誕生日がわかる書類が必要だ。バイク仲間との鉄道旅では、やっぱり運転免許証が必要。これまた妙な話である。


宮崎空港。到着機をガラス越しに見る


反対側に宮崎空港駅が見えた


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。
<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
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デジタル時事放談
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■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

■著書
『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』
~日本全国列車旅、
達人のとっておき33選~


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