第522回:永遠の99パーセント - 途中下車 -
2013年3月20日。貨物線ツアーの最終目的地として、大宮の鉄道博物館を訪れた。今日で2度目である。1度目は2ヵ月前。2013年の1月23日だった。鉄道博物館の開館は2007年10月14日。それから5年以上も経っていた。開館当時は大混雑と聞き、落ち着いてから行こうなどと思っているうちに、それだけの月日が経ってしまった。
最初の訪問はイベントの取材だった。記者の特権で無料入館できた。しかも冬の平日で比較的空いていた。だからじっくり見物して帰りたかったけれど、できなかった。Webニュースの取材記者は、その日のうちに取材した内容を書き、撮影した写真を整理する必要がある。それでもせっかく来たのだからと、小一時間だけ早足で巡った。
鉄道博物館、定番のショット
眺めるだけ、説明書きも読む暇がない。鉄道模型のジオラマ運転は時間が合わず、あきらめた。マスコミは役得が多い職業だけど、現場の記者には活かせる機会がない。そういえば、丸の内から都心を巡回するオープンバスの発表会でペアチケットを戴いたけれど、結局使う時間がなかった。もったいない。母か弟に譲ればよかったか。
2度目の今回はプライベートである。おまけとは言っても、自分で買ったチケットだ。午後から半日の見物とはいえ、ゆっくりと楽しめた。ひとつ一つの展示品を眺め、添え書きを読む。名物の運転シミュレーターは予約でいっぱい。もっとも、私はゲームライターだったくせに運転ゲームは苦手だ。私はやっぱり、ぼけっと景色を眺めている方が性に合っている。そんな私にぴったりの施設が地上階広場のミニ電車だった。子供たちに混じって並び、小さな電車に乗り込んで、ぐるりと一周する。信号機も分岐も本格的で、これは楽しい。
ジオラマコーナーを楽しむ
館内をひとめぐりして、ジオラマの運転を眺め、屋上に行く。屋上はベンチがあるだけだけど、ここから新幹線と新交通システムニューシャトルの高架線路を見下ろせる。博物館側も心得ていて、新幹線列車の通過時刻表を掲げていた。晴天の空の下、夕景を走る新幹線の写真をいくつか撮った。何かの記事で使えるかもしれない、という浅ましさであった。
春の風に吹かれながら、今日の旅を振り返る。ふだん乗れない貨物線の旅。高島線は鶴見―桜木町で8.5Km。東海道貨物支線は東戸塚―横浜羽沢―鶴見で16.0Km。武蔵野貨物線は鶴見―府中本町で28.8Km。合わせて53.3Kmの新規乗車区間である。トンネルばかりでちっとも景色を楽しめなかった武蔵野線がもっとも長い。これはちょっと皮肉な結果だ。
こどもたちもカメラを構える
私のこどもの頃には無かった楽しみ方
それはともかく、この53.3Kmの記録をどうしようかと思案している。私は乗車記録を表計算ソフトで乗車区間ごとに記入している。区間距離と合計が出るだけの単純な表で、“国鉄とJR”、“民鉄と公営交通”の二つに分けている。そして、ここに乗せる区間は「定期列車の営業路線に限る」と決めていた。
なぜかというと、進捗率を百分率で計算するときに困るからだ。営業路線距離の合計は時刻表に記載されている。愛用しているデータベースファイル「Railway
Database For MS-Access」も営業路線が基準だ。だからここに貨物線を組み入れてはいけない。貨物線まで対象を広げれば乗りたい路線が増えて結構だ。しかし、そこに旅客列車が走らなければ、いつまで経っても乗れない。永遠に100パーセントにならない。それはそれで張り合いがない。いつかは100パーセントを達成してけじめを付けたい。
夜景の中を寝台特急が走る……
しかし、私の旅は100パーセントになるだろうか。
99パーセントで人生を終えるような気がする。
この調子でのんびりやっていると、新路線ができていく。乗っても乗っても新路線ができる。これは嬉しいことだ。その一方で、休止中の鉄道路線もある。JR東日本大震災で被災し、不通のまま、あるいはBRTに転換された路線たちだ。私はBRTを鉄道路線とは認めたくない。JR東日本も仮復旧と称しているから、あれは仮の姿である。ただし、JR東日本の仮復旧とは方便で、永遠に仮復旧かもしれない。いつか鉄道路線に戻って乗らなければ100パーセントにならない。
仮に、これらの路線が乗客減によって廃止となれば、乗車対象リストから外れる。帳簿上はスッキリする。しかし後悔はずっと残る。岩泉線は私にとって未乗区間のまま被災し廃止、バス転換となった。悔しい。帳簿には載せないけれど、バスに乗って行こうと思う。もっとも、廃線訪問まで対象を広げると収拾がつかない。対象を過去へ広げるくらいなら、地域を広げたい。海外の現役路線に乗りたい。
屋上からE5系はやぶさ
海外路線の乗りつぶしをどう定義するかも考えなくてはいけない。世界の全線は無理だ。銀河鉄道スリーナインのように、先に銀河鉄道を開通させて、機械の身体を手に入れなくてはいけない。永遠の命がほしい。それは無理な話で、そもそもあの漫画は、限りある命を生きる価値がテーマだった。
話題の脱線を復旧しよう。貨物線の乗車距離をどうするか。私は思案の末、表計算ソフトにもうひとつの表を作った。“参考記録”だ。もともと鉄道に似たロープウェイの乗車記録を付けていた。これと同じ表を作る。ただし貨物線が旅客化された場合は、あらためて定期旅客列車゛乗り直し、“国鉄とJR”に転記して、参考記録の距離を減算する。これでなんとなく気持ちが落ち着いた。そういうことなら、BRT区間も“参考記録”に組み入れておけばいい。
地図はどうしよう。昭文社の“全国旅行”も旅客路線しか記載されていない。こちらは略図だから、貨物線の線を新たに書いておこうか。もともと記録の本体はこちらだ。日本の線路図を塗りつぶす旅である。
そして思い出した。なぜすべての鉄道路線に乗りたいか。それは、“見知らぬ車窓を見に行きたい”であった。記録のための旅だけではない。好奇心を満たす旅だった。また貨物線ツアーがあったら乗りに行こう。
乗るための理屈をひねり出すとは滑稽である。
気の向くまま、乗りたければ乗る。それが私の旅だった。
屋上から2階建てE4系
2013年03月20日の新規乗車線区
JR: 0.0Km
JR:53.3Km
私鉄: 0.0Km
累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):20,148.5Km (89.76%)
私鉄: 6,013.4Km (84.91%)
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