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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第504回:軒先、刑務所、そして屋島 - 高松琴平電鉄志度線1 -

更新日2014/03/06


高松に来たら讃岐うどん……ではない。琴電である。高松琴平電気鉄道だ。高松駅付近の海側、高松築港駅を起点とし、東の志度、南の長尾、西の琴電琴平へと、三方向へ路線を延ばしている。今回の旅はまず琴電を踏破する。7年前に四国を旅した時に、高松でちょっと時間があって、琴電琴平まで往復した。しかし他の路線は乗れなかった。金比羅様にもお参りしていないし、今日はこれから琴電の日としたい。


JR四国の高松駅 ガラスドームの堂々たる構え

広い駅前広場を横切り、迷わずに高松築港駅に着く。一度訪れたし、わかりやすい道順である。駅の敷地は高松城の敷地に組み込まれ、線路はお堀を埋め立てたような位置に敷いてある。史跡の保存についていまほど厳しくなかったようで、これがいまでは琴電らしさでもある。駅舎も城とは関連しないデザインの平屋だ。かつてはホテルを併設した立派な駅ビルがあったらしい。それを線路の立体交差事業のために取り壊し、現在の駅舎は仮のものとして建てた。それからずっとこのままで、立体交差の計画は立ち消えになった。


琴電の高松築港駅 これはこれで趣がある

近代の電鉄であり、切符の自動販売機もある。しかし私は今日、琴電を全線乗り尽くすつもりだから、窓口に向かい1日乗車券を買い求めた。出てきたきっぷに頬が緩む。イルカのキャラクター、ことちゃんが、段ボールの電車に乗り込んではしゃいでいる絵柄。「かわわいなあ」と思わず声に出したら、私と同年配くらいの駅員もうれしそうな笑顔を返した。きっぷのデザインがきっかけで笑顔が生まれる。鉄道と言えば堅い職場、というイメージは過去のものになっている。


1日乗車券にことちゃんが描かれた

高松築港駅は行き止まり式で線路は2本。お城側が琴平線で、もうひとつは長尾線用だ。線路としては琴平線だけど、長尾線が瓦町駅からここまで乗り入れている。志度線は瓦町駅で乗り換えだ。私はまず志度線に乗ろうと思った。瓦町はどの電車も通る。私は直近の長尾線の電車に乗った。車体の色は上半分がクリーム色、下半分が青緑。これが長尾線の色なのだろう。そしてこの電車は、元は京急電鉄の旧1000形である。自宅のそばを走り続け引退した電車に、遠い四国の地で再会する。それも7年ぶりだ。友よ、元気だったか。そんな気分である。

長尾線の電車は高松築港駅を発車し、複線の線路の右側をしばらく走る。右側通行ではなく、ホームと渡り線がかなり離れているせいだ。ホームの先からすぐにカーブでお城を回り込む。渡り線を作りづらかったようである。渡り線をもっとホームに近づければ、もっと運行頻度を上げられそうだと思う。もっとも、わざわざ工事をして運行間隔を増やすほどの乗客数ではないかもしれない。


元京急電鉄の電車

それでも高松、瓦町間の運行頻度は高い。片原町駅では対向車線を電車が続行していた。琴平線と長尾線のふたつの路線が合流しているだけのことはある。車窓も都会の風景である。雑居ビルやアパートが多い。立体交差が計画されるだけあって踏切も多い。広い道路では、電車の通過を待つ車列が長かった。

瓦町駅は駅ビルの腹の中である。琴電の3路線が発着する。いわば琴電の重心だ。長尾線の電車は駅に進入する前に側線に入る。琴平線の複線、長尾線の単線、という構成であった。志度線のホームは離れているようだ。案内標識に従って進んでいく。長い動く歩道を2本も乗り継いで、さらに階段を降りたところにホームがあった。こちらは駅ビルの別館に相当するようだ。


瓦町駅は駅ビルの中

時刻は9時前である。この時間帯は1時間あたり3本の運転だ。8時台は4本、7時台は6本ある。でも9時台以降の日中は1時間3本であった。通勤時間帯は途中の大町までの列車を増やしている。大町の手前に八栗駅があって、その付近のケーブルカーに乗りたい。サンライズが定時で走ってくれたら、都合の良い時間になったはず。しかしこの時間帯は本数が少ないから、まずは志度行きで志度へ直行する。

09時06分発の電車に乗る。ポンポンポン……というコンプレッサーの音が響く。日程としては1時間20分遅れである。今度の電車は上半分がクリーム色で、下半分が赤みの強いピンク色。車体が長尾線や琴平線より細身である。運転席の窓は大きいけれど、前面扉とその隣の窓が細い。前面扉が中央ではなく、やや偏っている。名古屋の地下鉄の中古品だという。こんな顔だっけ、と思う。


志度線は元名古屋市営地下鉄の車両。細身

電車が動き出す。いきなり急カーブで民家の軒先をかすめていく。志度線は瓦町止まりではなく、さらに琴平線と平面交差して市内電車と乗り入れていたそうだ。つまり、もともと単行電車を走らせるような線路規格だったといえる。次の今橋駅には車庫がある。その数本の線路が収束すると、電車はまた住宅地を通り抜ける。その景色が一瞬変わるところがある。車窓左手に長い壁があり、角に物見櫓が建つ。高松刑務所である。その先の踏切からまた左を向くと、刑務所の通用門のような施設が見えた。駅があり、列車交換をする。松島二丁目駅であった。

住宅密集地を脱して、電車はスピードを上げた。家のそばではゆっくり走っていたのかもしれない。あるいは右手に国道が並行しており、車の速度を意識しているか。いずれにしても、線路際に建物がなくなって視界が広くなった。周囲の建物も大きめでゆったりとした配置。植栽も増えている。だんだんローカル線らしくなっていく。運河を渡り、水路沿いを快走する。その向こうに平べったい山が現れる。屋島だ。香川県が誇る景勝地のひとつ。電車はその屋島の麓へ進んでいく。


かつてケーブルカーがあった屋島

琴電屋島駅着。列車交換がある。屋島観光の入り口だけあって、ホームはやや広め。しゃれたデザインの駅舎もある。2004年までは駅からほど近い場所に屋島山頂へ向かうケーブルカーが走っていた。乗ってみたかったけどタイミングを逃した。残念である。いまはケーブルカーを使わなくても、山頂まで道路が通じバスもあるらしい。便利だろうけれど、そうなると却って興味がなくなる。展望観光地は、ケーブルカーというアプローチに意味があると思う。

屋島ケーブルは逃してしまったけれど、志度線にはもうひとつ、八栗ケーブルがある。帰り道のお楽しみである。

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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