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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第515回:府中行き満員電車 - 福塩線 福山~府中 -

更新日2014/06/05


福塩線の105系電車は黄色に青帯。新幹線の試験車両、通称ドクターイエローと同じカラーである。2両編成で車内はロングシート。満席で立っている客も多い。普段着も多いけれど、それより学生服が多い。3月19日。終業式だろうか。学校が早い時間に終わったようだ。彼らはどこまで行くのだろう。学校が早く終わって、街へ出て、まだ明るい。


あらためて福塩線。黄色い電車は府中止まり

私の学生時代なら、家に帰らずに街に残って遊ぶ状況である。遊ぶと行っても、一人で本屋や図書館を巡るか、友達を誘ってゲームセンターとファストフード店に居座るかという、地味な時間つぶしだったけれど。今の子たちは早く家に帰りたいらしい。いや、もしかしたら、農業の手伝いに……そんな想像をしてみる。その辺の子に聞いてみれば話は早い。しかし、うっかり話しかけると不審者扱いとなるご時世であった。

満席なら運転台の真後ろで前方を展望したい。ところが最前部はぎっしり満員だ。今日は日差しが強いから、窓にロールスクリーンが降りていた。まさしくブラインド。これでは景色が見えない。つまらない。私は後部車両に乗り、ドアの横に立った。ドアにはスクリーンがない。この電車はワンマン運転で、乗降は前の車両だけ。つまり後ろの車両のドアは開閉せず、荷物をおいて塞いでも他人様に迷惑を掛けない。


神辺駅の手前で見かけたソーラーパネル。電気の畑だ

この電車は13時27分発の府中行きだ。福塩線は福山と塩町を結ぶ路線で、距離は78.0km。ただし電化区間は府中までの23.6kmまでとなっている。この区間は福塩線の前身、両備軽便鉄道が電化路線として開業した。国有化されて塩町まで延伸しても、延伸区間は電化されなかった。つまり、もともと府中までが福山都市圏だったと予想する。時刻表を見ても、福山と府中は朝夕20分間隔。府中から先は1日7往復である。1本の路線でも、府中を境として、北と南は路線の性格が異なっている。全区間を通して走る列車はない。

神辺まで、さっき通ったルートを逆戻りである。山陽本線と別れ、芦田川に沿う。さっき通りかかった踏切の警報機がなぜか気になって、今度は写真を撮ってみた。液晶モニターで確認したら、警報機のランプがLEDだった。しかもランプの全周が光るタイプだ。気になった理由がわかった。警報機の赤い光が車内から見えたからだ。警報機のランプは踏切の外側へ向けるから、車内から見えない。でも全周タイプなら踏み切りの両側へ発光する。つまり片側から見たランプの数は倍になるわけで、注意喚起の効果が増す。消費電力は電球より少ないし、球切れ交換もない。うまい仕掛けだと感心する。


井原鉄道と分かれて未乗区間へ

そういえばさっきは休耕田のような場所にソーラーパネルが敷き詰められていた。まるで電気の畑である。休耕田や跡取り不足で使われていない畑は電気畑にすればいい。危ない発電所を減らせる。もっとも、ソーラー発電はまだコストメリットが小さいらしい。設置費用を回収するまで何年もかかり、回収したところで寿命になるとも言われている。長期間の使用例がないからなんともいえない。ローカル線沿線は休耕している田畑をよく見かけるから、そのうちに全国の車窓がギラギラするかもしれぬ。地味なローカル線だと思われた福塩線から、エネルギー問題を示唆される。

橋上駅舎の神辺駅を過ぎて井原鉄道が分かれていく。ここからが未乗区間である。よく景色を見ておこうと思うけれど、あまり代わり映えのしない市街地である。市街地と行っても東京大阪とは違う。建物の間に隙間が多く、田畑も多い。この田畑にソーラーパネルを敷いたら、このあたりの電力は自給自足にならないかと思う。そうしたら電車の運行本数も増やして、もっと便利になって、さらに市街地が発展するかもしれない。

線路は西に向かっている。国が軽便鉄道を買収して延伸した理由は、山陰と山陽を結ぶ意図があったはずだ。山陰と山陽の主要都市同士をつなぐ。そんなルートがいくつもできて、中国地方の路線網はアミダクジのようになっている。山陽の福山と対向する山陰の都市は、北上すれば出雲、あるいは大田か浜田あたり。しかし地形が険しく、山陰側はふたつの都市の間で浜田寄りの江津から作られた。三江線である。福塩線と三江線の結節点は、福山からは北西にそれた三次であった。しかし、つながっても陰陽連絡の直通列車は走らなかった。福塩線は昭和13年に開通したけれど、三江線の建設に難儀している間に自動車の時代がきてしまった。


万能倉駅で上り列車とすれ違う。踏切警報器は最新型のLEDタイプ

万能倉で上り列車と交換する。あちらも黄色い電車である。ここまでの各駅で、お客は少しずつ減っていった。学生さんたちはまとまってどこかへ行く目的ではなく、帰宅しているようだ。駅家という駅でかなり降りた。駅家駅。右から読んでも左から読んでも駅家駅。おもしろい。ちなみに駅という字から始まる鉄道駅は日本でもここだけ。ほかに、豊橋鉄道の路面電車の停留場として“駅前停留場”“駅前大通停留場”のふたつがある。


府中駅に到着。電車の車庫があった

立ち客はみな席に着いた。私だけが立っている。ロールスクリーンが降りている。景色を見られないから座れない。そうかといって、着席している客の肩越しにスクリーンをあげるわけにも行かない。私は前方車両に移動した。ようやく運転席付近に隙間ができていた。


反対側のホームに三好行きが停車している

14時10分。府中駅着。電車の終点である。乗り継ぐ列車は15時05分発。待ち時間は55分。実は、福山で次の電車に乗っても15時01分着で、三好行きの列車に間に合った。小一時間あれば、街の散歩にはちょうどいい。福山で過ごすか、府中で過ごすかという選択で、私は府中を選んだ。府中に惹かれたというわけではなく、もう二度と来ない場所だと思ったからであった。駅前に出てみると、ビジネスホテルがあり、銀行と農協の支店があり、マンションも建っている。建物の高さは低いけれども、府中は予想より大きな町だった。


いま乗り込んでも発車まで55分待ち

もともと府中という名前は律令時代の国府に由来しているから、歴史のある町である。一級河川の芦田川の恩恵を受けた地域。西暦646年の大化の改新の時、ここに備後国の国府が置かれた。現在は人口約4万2,000人。桐材を使った府中家具で知られるという。近代は機械工業も盛んで、ダイカストという金型を使った鋳造生産も日本一の規模だそうだ。ダイカストはエンジン本体の製造で知られているそうけれど。私の世代ではロボット人形の超合金シリーズでなじみがある。箱にアルミダイキャスト製と書かれていたと記憶している。


府中駅前。国府が会った場所にしては小さな駅舎だ

表通りを左へ進み、線路と平行に歩く。頃合いを見て踏切で線路を渡った。駅の周囲を巡るコースだ。こちらは民家が多く落ち着いている。満点市場というガレージのような商店があった。野菜や果物など食品の店だ。お菓子の棚に駄菓子の箱売りがあって、10円玉の形のチョコレートを買った。友人の子供への土産のつもりだ。しかし、旅の途中で食糧不足になったときの用心でもある。


頃合いを見て踏切を渡る

さらに歩いていくと、天満屋というスーパーマーケットがあった。パンコーナーでご当地モノのランチパックを買う。国府にきたからには、それなりの観光地もありそうなものだけど、結局、地元の人と同じような行動をしている。発車の時刻が迫っていた。早足で残りのルートを回り、駅に戻った。汗をかいている。セーターとスポーツジャケットを脱ぐと、春の空気が肌に当たって心地よかった。


問屋のような市場を見つけた。駄菓子を箱買いする

…つづく

 

第515回の行程地図

 

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
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『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

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