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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第529回:鹿児島湾横断航路 - 垂水フェリー 垂水港 ~ 鴨池港 -

更新日2014/11/06


垂水港。バスが5分早く着いて助かった。予定ではバスの到着が15時40分。フェリーの出発が15時45分。小さな港だろうから5分で充分と判断した。船に乗り遅れても次は40分後。今日は路面電車に乗って鹿児島のホテルに泊まるだけだ。でも、日没が近づいているから早いほうが良い。冬よりはましだけど、春の旅は日照時間との競争だ。

バス乗り場で桜島の写真を撮ってからフェリーターミナルに入ると、すでに乗船口に行列ができていた。慌てて乗船券を買って列の後ろに並ぶ。折れ曲がったブリッジを渡る時、自動車の積み込み風景が見えた。垂水港から鹿児島湾の対岸の鴨池港までは約35分。鹿児島湾を迂回するバスがライバルだろうと思ったら、鹿屋と鹿児島を結ぶバスはそのままフェリーに乗ってしまうという。


鹿児島湾をフェリーで横断

垂水港から鹿児島空港行きの路線バスがあって、所要時間は約1時間半だった。鹿児島空港は鹿児島湾の奧で、鹿児島中央駅までの半分の道のりだ。そう考えるとフェリーがもっとも早い。鹿児島湾の大きさを感じる。鹿児島湾の面積は1,130平方キロメートル。海岸線は330km。ちなみに東京湾は浦賀水道も含めて1,380平方キロメートル。海岸線は1,650km。水面比より海岸線比が大きい。東京湾は間口が広く、鹿児島湾は細長いからだろうか。

フェリーが港を離脱した。私たちはデッキ後部に立ち、遠ざかる垂水港を眺めた。トンビかどこからともなく現れて、私たちの前で周回する。そしてターミナルビルに引き返す。私たちが餌を投げてくれないと察したようである。


トンビの見送り

進行方向の右側に桜島がある。地図を見ると、細長い鹿児島湾の中央に、のどチンコかポリープのように鎮座している。おっと、こんな尊厳のない形容は不謹慎か。桜島殿に伝わって、噴火が大きくなっては困る。今日も白い噴煙を上げており、実際は威厳のある姿であった。フェリーは桜島の南側を通って対岸を目指している。

乗船客の多くは用務客なのだろう。船室に入ってくつろいでいるようだ。私たちは外を眺めたいから、ふたたび後部デッキに出た。波は穏やか。風も冷たくはなかった。デッキの手前に屋台のような設備があったけれど営業はしていない。“南海うどん”が名物らしく、日中の船は営業しているはずだが、どうしたことか。


常に桜島を眺められる

桜島を眺め、風に流されという船旅。ゆったりした時間である。実は桜島は文字通り島の名前で、噴火している山の名前は御岳という。桜島が噴火と言うし、私も桜島の噴煙と書くけれど、これは厳密には間違いらしい。ポリープのようだとも書いたけれど、桜島はもともと海上に独立した島だった。御岳の噴火によって陸続きとなり、ポリープのような姿になっている。


夕暮れが迫る海

桜島の海岸線に沿って国道があり、人も住んでいる。船からは民家が集まる場所が見えて、ときどき光を照り返している。噴火山の麓に住んで怖くないのか、何ごとにも動じない人しか住めないと思う。桜島は国際火山学会が定めた、活動が顕著な火山16のリストで6番目に入っている。日本からは雲仙もエントリーしている。どちらも九州だ。薩摩隼人、九州男児の度胸の根源はきっと火山だ。


鴨池港に到着

対岸が近づいてくる。フェリーは鴨池港に進入し、岸に対して直角に接岸した。16時25分。予想より5分遅かった。ただしバスは16時35分発である。問題ない。錆の目立つブリッジが機械仕掛けで降りてデッキに載った。もとからデッキにいた私たちが真っ先に降りる。ブリッジを進んでターミナルビルに入り、すぐに外へ出る。バスの場所はすぐにわかった。タクシーで南鹿児島駅に出て、そこから鹿児島市電の旅を始めようと思ったけれど、まずはバスで鹿児島中央駅へ出てホテルにチェックイン。荷物を置いて身軽になる。


JR九州ホテル鹿児島
客室からのトレインビュー

今日の宿は鹿児島中央駅に隣接するJR九州鹿児島ホテル。今日は南館、明日は北館である。荷物を置き、窓を開けると九州新幹線のホームが見えた。このまま眺めていたいけれど、路面電車に乗りに行く。ロビーで風ちゃんと待ち合わせた。ホテルのフロントで鹿児島市電の1日乗車券を売ってくれた。これは助かる。

鹿児島市電は鹿児島市を南北に走る路線がある。北は鹿児島駅前電停、南は谷山電停。途中の高見馬場電停で、二股に分かれ、群元電停で合流する。鹿児島中央駅は二股のうち西側を通る路線上にあって、この線路を走る電車は群元と鹿児島駅前を結んでいる。


鹿児島駅前電停にて

私たちはまず鹿児島駅行きの電車に乗った。鹿児島駅前から折り返す形で1号系統に乗ると、南端の谷山電停へ行ける。また折り返して群元で降り、1号系統に乗り換えて鹿児島中央駅前電停に着けば完乗となる。日没が迫り、辺りが暗くなってきた。残念ながら、谷山電停に着く頃は真っ暗になった。


最南端の電停、谷川

谷山電停は日本最南端の電停として鹿児島市が広報しており、記念碑もある。その写真を撮ってみたところで、私は明日の朝に早起きして、もう一度路面電車に乗り直すと決めた。夜の路面電車も風情があるけれど、やはり明るい景色を見たい。

ホテルに戻り、またロビーで待ち合わせて路面電車に乗る。こんどは食事のためである。風ちゃんが目当てを付けた店は天文館通にあり、1号系統を鹿児島駅前行きの電車に乗って四つめの電停であった。鹿児島名物料理のフルコースで5,000円なり。私の場合、フルコースは刺身など苦手な物が含まれるからためらった。しかし、他をあたっても気分がのらない。結局、当初の予定の店に戻りコース料理を頼む。


天文館通をぶらり

キビナゴの刺身が出た。きれいだが苦手だというと、から揚げにしてくれた。薩摩揚げもあり、甘辛く煮た豚骨もあり、メインは豚しゃぶであった。枕崎産の焼酎を頂きつつ、珍しく観光客のような振る舞いをしていると思った。こういう店は一人では入りづらい。連れがいて良かった。風ちゃんのおかげである。今夜はよく眠れそうだ。


黒豚、うまし


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。
<<杉山淳一の著書>>

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発行:マイナビ

■著書
『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』
~日本全国列車旅、
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