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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第450回:高山市街ぶらり旅 - 高山駅 -

更新日2012/12/13



観光案内所でパンフレットを貰う。窓口の女性に4時間程度のおすすめコースを相談し、まずは駅前通りを宮川方向へ。橋を渡る手前の本町通りを左折。しばらく歩いて宮前橋を渡り、桜山八幡に寄ってから南へ転進、古い町並みを歩いて、高山陣屋で締めくくるというコースにした。要するにパンフレットに書いてあるとおりである。

本町通りを少し歩くと、高山本町美術館で「山下清展」をやっている。立ち寄ってしばらく眺める。テレビなどで紹介された作品が飾られている。しかしこんな小さな町に原本があるわけでもないだろう。複製画だろうと思う。臨時展のような体裁だが、ここではずっと開催されているらしく、後に調べたらもう10年近く開催されており、さらに山下清の公式サイトには「贋作に注意」と書かれている。どうやら私はコロッと騙されたようだ。酷い話だ。


宮川朝市。快晴の散歩は心地よい

交差点で橋のほうを見やると、なにやら川沿いが賑やかだ。私はルートを変更して鍛冶橋を渡った。パンフレットには宮川朝市とある。川沿いの道の川側に豆などを売る露天があり、建物側は土産物屋や菓子屋が並ぶ。飛騨牛の肉まんをひとつ。飛騨牛の串焼きを1本。おわら玉天という菓子、飴、いろいろあって楽しい。カロリー制限の身で、つまみ食いが過ぎると昼食に差し支えそうだ。しかし、ここは割り切った。旅のカロリーはかき捨て、である。


飛騨牛入り肉まん


こちらは飛騨牛5等級の串焼き。1本450円!

もう一度川を渡り、飛騨総社を拝む。平安時代に創建された飛騨国神社群の頂点である。しかし室町時代に衰退。江戸時代にニ度の再興が試みられた。いまは住宅地に囲まれ、敷地を遮る森もなく、地域に密着する社のようだ。


静謐な飛騨総社

またまた宮川を渡り、櫻山八幡宮に参る。こちらのほうが歴史が古く、仁徳天皇の頃の創建。戦国時代に金森長近が秀吉から飛騨国を与えられ、江戸時代に藩主となるとこちらを氏神とした。大正時代には県社となった。屋台が練り歩く高山祭は、この櫻山神社の例祭である。境内に高山祭屋台会館がある。白人の観光客グループが中に入っていく。


櫻山八幡宮の人気は金森氏人気が続いているからかも

私はもうすこし町を歩きたい。町並み保存区域を歩き、平田記念館という商家を見物。古い雛飾りや小地図、明治大正の頃の玩具などがあった。女の道を守るべき事、などという家訓があったりする。男は外へ、女は内で。「男より賢く、心のともしびを明るく照らし、朗らかに万事滞り無く治めよ」と書いてある。高山は戦争の被害が少なかったようで、商家には昔のものがたくさん眠っている。


こんな町並みが残っている


豪商平田家の建物が博物館になっている
びんつけ油やろうそくの製造販売で財を成したという

飛騨高山まちの博物館に寄った。戦後にできた高山市郷土館を昨年にリニューアルしたという。門の白い漆喰が眩しい。高山だけではなく、飛騨国地域の古代からの展示品が並ぶ。高山祭の屋台の映像があり、時期を外して訪れただけに興味深く拝見した。人形が変身するからくりが面白い。

パンフレットによると、すべてをじっくり見ると2時間もかかるという。関心の高いところだけしっかり見ても1時間ほどだった。飛騨国を治めた金森氏は庶民の信も厚く、6代にわたって100年以上も続いた。しかし、飛騨国の資源に目をつけた徳川家によって飛騨国は天領とされ、金森家は出羽国上山藩に転封、さらに美濃国郡上藩に移され、そこで百姓一揆や神社の主導権争いを抑えきれず、大名の身分を剥奪された。謀略による左遷が続いて荒んでいったというか、気の毒な一族である。


飛騨高山まちの博物館
たっぷり時間を過ごせて無料

飛騨高山まちの博物館は、これだけの見物ができて、なんと無料である。途中で腹が重くなりトイレに入ったら温水便座であった。すっきりすると、なんだか申し訳ないくらいの気持ちになる。募金箱があったら千円くらい入れたい。せめてこの街で土産物を買おうと思う。

ここでたっぷりと時間を過ごしてしまい、最期に訪れた陣屋跡では40分ほどしか使えない。さっさと巡って退散しようと思ったら、無料の観光案内を勧められる。ひとりでは申し訳ないし、1時間というけれど40分しかないというと、「それで回れるように頼んでみましょう」とひとりつけてくれた。本当は予約が必要だが、この時間は空いていたらしい。


高山陣屋は必見の史跡

高山陣屋はあの金森氏の下屋敷だったという。徳川幕府直轄領となってから陣屋として代官や郡代が常駐し、行政機関として機能した。家来や女中の部屋、役務をする場所などを見学する。ひとりで見て回るより、説明があったほうが面白い。ここは明治時代に高山県庁舎としても使われたそうで、そのまま使われた場所、改造された場所の痕跡もある。

説明されなければ見過ごすところだった。もっと時間をとっておけばよかったと名残惜しい。ついてくれた説明員さんに感謝して、早足で駅に戻る。列車の発車時刻の10分前。結局、飛騨牛をゆっくり賞味する時間はなく、駅弁と土産物を買って列車に乗った。大満足の4時間だった。

-…つづく

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)


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