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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第520回:高島線から根岸線へ - ぐるり貨物線大宮号3 -

更新日2014/07/10


列車は単線をゆっくり進む。運河越しに高層マンションが並ぶ。その先にオフィスビル。さらに向こう側にデパートの横浜そごうが見えた。あの建物の向こう側が横浜駅だ。ここに駅を作り、対岸と橋で結べば便利だろう。そもそも、ここには貨物駅があった。高島駅という。かつて横浜港、埋め立て拡張地域に巡らされた貨物線網の中心だった。

高島線の歴史は、日本の鉄道開業と横浜港埋め立ての歴史でもある。鉄道開業時の横浜駅は現在の桜木町駅。これは日本鉄道史の基礎知識だ。横浜港に近く、船と鉄道の連携を意識した立地だった。鉄道開通によって横浜は大いににぎわった。東海道線は西へ延び、八王子からは横浜鉄道が接続された。鉄道網が発達し、全国から人も荷物も集まった。手狭になった港は拡張を続け、貨物線と駅は増設された。


運河の向こうにマンションが並ぶ

初代横浜駅は行き止まり式だったため、東京と東海、関西を結ぶ列車は横浜駅でスイッチバックした。当時の列車はすべて客車だったから、機関車の付け替えが必要になる。これは不便だとして、1915年に横浜駅は高島町へ移転し、スイッチバックを解消した。旧横浜駅は桜木町駅となった。同時に旅客駅と貨物駅の分離が行われた。新しい横浜駅の海側に高島駅が作られ、桜木町駅の海側に東横浜駅ができた。この二つの駅を結ぶ路線が高島線のルーツである。

高島駅は東海道本線の保土ヶ谷駅と結ばれており、2年後の1917年に鶴見方面からも線路がつながった。その沿線も埋め立てと港湾拡張、市場の整備、工業誘致が行われた。高島線は戦中から戦後、そして高度成長時代とともに発展した。高島駅と北側の東高島駅を中核として貨物路線網が形成されていく。


横浜そごうが見える。その右側の高層ビルに原鉄道模型博物館がある

1964年に、長らく行き止まりだった桜木町駅から海沿いの磯子まで根岸線が開業した。沿線の工業地帯からの貨物を受け入れるため、高島駅と桜木町駅がトンネルで結ばれ、高島線は全通した。しかし、モータリゼーションの発達と工場の閉鎖などによって支線は次々に廃止され、現在の形になっている。

列車はトンネルに入った。旧高島駅と桜木町駅を結ぶトンネルだ。みなとみらい21地区の地下を通り、地中でみなとみらい線の新高島駅と交差しているらしい。地上に顔を出すと、そこはもう桜木町駅の手前だ。東急東横線の廃線跡が並んでいる。線路は撤去されており、コンクリート橋のアーチが残っている。空中公園を作るつもりかもしれない。


トンネルを出て桜木町へ、東横線の廃線跡

電車は駅の手前でいったん停車して、桜木町駅を通過した。ホームで電車を待つ人たちがこちらを注目している。その気持ちが手に取るようにわかる。見慣れぬ特急列車がやってきて、しかも車内は旅行客で満席だ。電車の窓ガラス一枚を境に、あちらは日常、こちらはレジャー。武蔵小杉駅を通過した時の優越感をまた経験する。


桜木町駅マスクが流行?

根岸駅にタンク貨車の群れがいる。駅周辺に大きな製油施設があるからだ。そういえば根岸線の乗車は2年ぶり。東日本大震災の復興のため、根岸駅から燃油の緊急輸送が行われた時だ。横浜から根岸まで乗って、このタンク貨車の群れを眺めた。その後、根岸駅前からバスに乗って横浜市電博物館を訪ねた。


根岸駅のタンク貨車たち

そのときは根岸線の感想はなかった。用事があって乗った通勤電車だった。しかし今回は特急電車である。ゆったりした気分で、進行方向に座って景色を眺めれば、通勤電車とは趣が違う。臨海工業地帯を眺め、西に向きを変えてからは緑の多い住宅街に移る。そんな車窓の変化も興味深い。

本郷台駅は留置線がある。大船駅の手前だから、大船始発の根岸線の電車が夜中に待機するのだろう。この線路たちが収束して複線になってトンネルに入り、トンネルを出たところで列車はポイントを渡った。線路が3本並び、真ん中の線路を走っている。車内放送があって、ここから先に大渡りがあって、東海道本線などの線路を一気にまたぐという。なるほど、両側の線路が根岸線で、真ん中の線路は東海道貨物線からの連絡線というわけだ。貨物線ファン向けの列車だから、要所で解説してくれる。そういえば、根岸駅でも製油基地とタンク貨車の紹介があった。


大渡りで根岸線から離脱

大渡りの紹介の通り、数本の線路を高架橋で越えた。横須賀線と、東海道本線と、東海道貨物線だ。東海道貨物線は羽沢方面からの線路である。鶴見で分かれて、ここで合流だ。そして列車は大船駅を通過する。こちらの線路は貨物線だからホームはない。しかし次の藤沢駅にはホームがある。これは湘南ライナー、通勤ラッシュ時間帯に運転する列車のホームだ。

湘南ライナーやサンライズのように、定期旅客列車にも貨物線を経由する列車がある。貨物線を走ったといっても、この区間は有り難みに欠ける。しかし、都内に住む私にとって、早朝の上り湘南ライナーに乗る機会はない。だからやっぱり貴重な経験だ。

09時56分。茅ヶ崎駅に到着。ここも湘南ライナー用のホームがある。しかし私たちは外へ出られない。今回は大宮到着まで列車の中である。東海道貨物線は小田原まで続く。私にとって、この先の貨物線は体験済みだ。上り寝台特急サンライズに乗ったとき、小田原から茅ヶ崎まで貨物線を走った。


茅ヶ崎駅構内に引退したばかりの211系がいた

乗降できない茅ヶ崎駅。しかし停車時間は長い。車掌の案内放送に従って、前後の客に挨拶しつつ座席を回転させる。貨物列車とは関係ないが、これも今となっては珍しい体験だ。運行経路の途中でスイッチバックしないかぎり、乗車中の列車で座席を回転させる機会は少ない。廃車間近の183系の座席回転は、きっと最後の経験だ。


茅ヶ崎駅に到着 東海道本線と相模線にはさまれている
相模線ホームは嵩上げの跡が見える

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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