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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第247回:流行り歌に寄せて No.57 「おーい中村君」~昭和33年(1958年)

更新日2013/11/28

このコラムの神楽坂はんこ『ゲイシャ・ワルツ』の回の時に、少しご紹介させていただいた神楽坂浮子さんが、11月20日、心不全でお亡くなりになった。

『十九の春』が代表曲で、この歌の歌い方を始め、艶っぽいという言葉がとても似合う女性だった。日本歌手協会所属の最後の芸者さんであり、亡くなる直前まで歌い続けた。奇しくも、島倉千代子さんと同じく、昭和13年の早生まれで、今年の11月、75歳での逝去となった。心からご冥福をお祈りしたいと思う。

さて、今回の『おーい中村君』に話を移していきたい。私は店を始めてちょうど14年になり、これが私にとって最も長く続いた仕事となった。その前のサラリーマン生活の期間は、13年半あまりだった。

その間、私も含めて、同僚や後輩たちの多くは結婚していったのだが、結婚後間もなくの、いわゆる我々との付き合いというと、これは完全に2パターンに分かれた。

ひとつは、この歌の中村君のように、もう終業後はさっさと帰ってしまう奴。「おい、男として少しはテレはないのか」と思えるほどの速攻である。

もうひとつは、こちらが、「おい、たまには早く帰ってあげなきゃ、○○ちゃんに俺たちが恨まれるぞ」と言いたくなるほど、付き合いのいい奴。下手をすれば、結婚前より頻繁に付き合ってしまうような奴もいた。我々に、「大丈夫かな…」と思わせてしまうのだ。

不思議と、付き合いもほどほど、家庭サービスもほどほどという、バランスのとれた男は存在しなかった気がする。

「おーい中村君」 矢野亮:作詞 中野忠晴:作曲 若原一郎:歌
1.
おーい 中村君 ちょいと 待ちたまえ

いかに新婚 ほやほやだとて 伝書鳩でも あるまいものを

昔なじみの 二人じゃないか

たまにゃ付き合え いいじゃないか 中村君

2.
おーい 中村君 そりゃ つれなかろう

入社当時は いつでも一緒 くぐりなれてた 横丁ののれん

可愛いえくぼの 看板娘

噂してるぜ いいじゃないか 中村君

3.
おーい 中村君 心配するな

どうせなれてる 貧乏くじにゃ みんなこっちが 悪者ですと

詫びの言葉は まかせておきな

送ってゆくから いいじゃないか 中村君


若原一郎は、この曲の発表されるちょうど10年前の昭和23年、まだ始まって3年目ながら、大変な人気ラジオ番組だった『NHKのど自慢』(テレビ放映は昭和28年から)に出て入賞した。

翌年の昭和24年、18歳でキングレコードから『船に灯がつきゃ』でデビューするものの、長い間ヒットせず、苦しい生活が続く。ようやく、サラリーマンの悲哀をコミカルに歌った『吹けば飛ぶよな』がヒットしたのが昭和31年の25歳の時。7年間の長きにわたり、辛抱の下積み生活に耐えたのだ。

18歳から25歳と言えば、最も遊びたい盛り。もちろんいろいろな経験をしながらこの時期を過ごしてきたのだろうが、やはり昭和一桁世代の持つ根性を感じてしまう。そして、その翌々年に中村君が50万枚のヒットをもたらせてくれたのである。

その中村君、実はアンサーソングを歌っているのである。作詞、作曲、歌とも同じメンバーによる『アイヨ 何だい三郎君』という曲。一郎君ではなく、三郎君なのが何だか不思議だが、若山が歌っているのだから致し方ないかと思いつつ、面白いからここにご紹介したい。

1.
"オーイ 中村君" アイヨ何だい 三郎君

僕と君との 仲だもの 逃げる公算(つもり)は ないけれど

家で女房が 今頃は さぞや帰りを 待つだろう

思や 思や心も ああうわのそら

2.
"オーイ 中村君" アイヨ何だい 三郎君

たとえ貧しい 夕飯(ゆうげ)でも こころづくしの 手料理で

可愛い女房が 酌ぐ酒を 飲んでほんのり 酔う気持

一人 一人者には ああ判るまい

3.
"オーイ 中村君" アイヨ何だい 三郎君

どうだ一緒に 行かないか 見せてあげよう 甘いとこ

きっと女房が 欲しいなと 君も宗旨を 変えるだろ

僕に 僕に仲人 ああまかせなよ


「はい、はい、ご馳走様でした」としか言いようのない内容。ある種のノリでこんな曲を作ってしまうというのは、当時のレコード界が今よりもはるかに、牧歌的だったのかも知れない。

若原は、私以降の世代には『欽ちゃんのどこまでやるの!?』で演じた学ラン姿の中年学生の役から連想される"万年青年"のイメージが強い。また、養女若原瞳への親バカとも思われるほどの、愛情深い姿も印象に残っているだろう。

その万年青年が58歳の若さで亡くなってから、もう23年になる。瞳さんも、養父の年齢を超え、今年還暦を迎えたらしい。

-…つづく

 

 

第248回:流行り歌に寄せて No.58 「無法松の一生」~昭和33年(1958年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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