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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第202回:流行り歌に寄せてNo.14 「午前二時のブルース」~昭和24年(1949年)

更新日2011/12/23

NHKラジオ第一放送の『ラジオ深夜便』、以前にも書いたことがあるが、すでに相当の人気番組である。私が時々利用する、深夜の個人タクシーの運転手さんが車内で流しているラジオ放送の約8割がこの番組だと思う。

その「深夜便」の中に、午前3時から4時までの1時間(番組では「3時台」という呼び方をする)『にっぽんの歌 こころの歌』というコーナーがあって、戦前から現在に至るまでの、日本の童謡、唱歌、ヒット曲、懐メロ、邦楽などを流している。

私が歌謡曲好きだと自覚したのも、このコーナーの影響によることが大きいようだ。7、8年前のある日のこのコーナーで、どの男性アンカーだったかは失念したが、「歌のタイトルからは1時間少し遅れでおかけすることになりますが……」と前置きして、この曲を流し出した。

『午前二時のブルース』 藤浦洸:作詞 服部良一:作曲 小川静江:歌
1.
聖寺(みてら)の あかりも 消えて寂しい 町角

笑顔も 涙も 夜霧に つつまれて

ただひとり 君を待ちわび 濡れた 窓に扉に

午前二時の 時計が かなしくひびく 夜空よ

ああ かなしく

2.
どこかで 鳴いてた 渡り鳥さえ ねぐらで

きのうの 思いに 心を とじている

うすあおい 夢のともしび 消えた胸に こころに

午前二時の 時計が あしたの歌を しらせる

ああ かすかに


私はこの曲を聴いた瞬間、ペギー・リーの『ブラック・コーヒー』を思い浮かべた。曲調がよく似ているのだ。服部良一も、かの曲から何らかの影響を受けたのではないか、そう思った。

その後も、この二つの曲のいずれかを聴くと、もう一方のことを思い出していたのだが、今回調べてみることにした。

ペギー・リーの『ブラック・コーヒー』の吹き込みは1953年5月。『午前二時のブルース』の吹き込みの3年半後になる。やはり私の思い過ごしかと思ったが、作詞、作曲家を少し追ってみると……。

「作詞はポール・フランシス・ウェブスター、作曲はソニー・バークで『ブラック・コーヒー』は1948年に作られた作品…」とあった。『午前二時のブルース』の1年前にはできていた。もしかすると、と楽しい妄想が、また始まったりするのだ。

さて、作詞の藤浦洸。このコラムではご紹介できない、戦前の『別れのブルース』『一杯のコーヒーから』『懐かしのボレロ』などの名曲を服部良一とのコンビで作り上げ、これからのコラムでいくつかご紹介する戦後のヒット曲を多く手がけた大作詞家である。

私が藤浦洸で一番印象に残っているのが、今から50年近く前に放映されていたロイ・ジェームス司会の『象印歌のタイトルマッチ』の審査員をしていたとき。肘をきっちりと折り曲げ、深々とお辞儀する姿が今でも脳裏に焼き付いている。

この番組のその他の審査員が、徳川夢声、服部良一、淡谷のり子など、あの頃は、実に錚々たる顔触れで・・・また話が脱線しそうなので、このぐらいにして。

歌い手の小川静江については、あまり最近では知っている人が少ないようだが、倍賞千恵子の歌で知られる名曲『さくら貝の歌』を最初に歌った人である。

NHKの『ラジオ歌謡』で昭和24年の7月に披露されたのだが、それは『午前二時のブルース』の発売される4ヵ月前のことだったようだ。ほぼ同じ時期に、ずいぶん曲調の異なる歌を吹き込んだものである。

彼女は服部良一に大変気に入られており、戦後作られた女性ジャズ・ヴォーカル・グループ「コロムビア服部シスターズ」のリード歌手に抜擢され、その期待に充分応えている。現在は90歳を越えているが、まだ歌を歌い続けている様子で、その姿勢には敬服するばかりである。

そもそもは、放送作家大林清による、NHKの同名のラジオ放送劇の主題歌であったこの曲。そのタイトルができるときの面白いエピソードがある。

作家の大林、作曲家の服部の待つ打合せ場所に遅刻して入ってきた作詞家の藤浦が、「『町角のブルース』でどうだろうか」と提案してきた。服部が、「一寸平凡じゃないか」と言うと、藤浦が「それでも、昨夜は午前二時までかかって考えたんだよ」と答えた。

服部が「それなら君、『午前二時のブルース』というのはどうかね?」と逆に提案したところ、その場のみんなが賛同してタイトルが決まったと言うことである。

ところで、歌詞の冒頭の「聖寺(みてら)」という言葉の意味がわからず、広辞苑を引っ張り出してきてみたり、いろいろ調べてみたが、どこにも載っていなかった。文脈から見て、カトリック教会の聖堂を表しているような気がするのだが、さて、どうだろうか。

-…つづく

 

 

第203回:流行り歌に寄せてNo.15 「長崎の鐘」~昭和24年(1949年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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