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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第232回:流行り歌に寄せて No.42 「若いお巡りさん」~昭和31年(1956年)

更新日2013/04/18

"ペッパー警部 邪魔をしないで ペッパー警部 私たちこれからいいところ(中略)その時なの もしもし君たち帰りなさいと 二人をひきさく声がしたのよアアア・・・"

昭和51年の8月にリリースされた、今や歴史に残ると言っても過言ではない、記念すべきピンク・レディーのデビュー・シングルである。阿久悠:作詞、都倉俊一:作曲の黄金コンビによる『ペッパー警部』。

今から37年前、私がこの曲を聴いたとき咄嗟に思い起こされたのが、この『若いお巡りさん』だった。今回調べてみると、多くの人が同じことを思ったようで、当然作詞家の阿久悠もそれを意識していたとのことである。

ただ、公園でささやき合う「アベック」をやさしく諭すのが、町の駐在さん(巡査)であったのが、20年後に「カップル」に注意する人物の階級は警部になっている。巡査→巡査部長→警部補→警部と3階級の昇進である。

わざわざ警部がそんなことをするか? と連想させるのも、また大ヒット曲『ペッパー警部』の面白いところでもあるのだろう。

「若いお巡りさん」 井田誠一:作詞 利根一郎:作曲 曽根史郎:歌 
1.
もしもし ベンチでささやく お二人さん 

早くお帰り 日が暮れる

野暮な説教 するんじゃないが

ここらは近頃 物騒だ
 
話の続きは 明日にしたら

そろそろ広場の 灯も消える

2.
もしもし 家出をしたのか 娘さん

君の気持ちも 分かるけど
 
故郷(くに)じゃ父さん 母さん達が

死ぬほど心配 してるだろう
  
送ってあげよう 任せておきな

今なら間に合う 終列車

3.
もしもし 景気はどうだい 納豆屋さん

今朝も一本 もらおうか

君の元気な 呼び声きけば

夜勤の疲れも 忘れるぜ
 
卒業するまで へばらずやんな

まもなく夜明けだ 日も昇る

4.
もしもし タバコをください お嬢さん

今日は非番の 日曜日
 
職務尋問 警棒忘れ

あなたとゆっくり 遊びたい
 
鎌倉あたりは どうでしょうか

浜辺のロマンス パトロ-ル


歌詞の構成が面白い。1番では若いアベックを、2番では田舎からの家出娘をやさしく諭し、3番では勤労学生である納豆屋に声を掛け、励まし、納豆を一本購入している。

実に実直勤勉な職務姿勢である。駐在さんの鑑のような人である。ところが、4番になるとグッと軟派になるところが良い。

真面目だけではない、若者らしい色気を持った青年であることがわかり、少しほっとするが、同時に「ちょっと調子に乗りすぎなんじゃないの?」と軽く揶揄したい気持ちにもなる。何せ「浜辺のロマンス・パトロール」などという言葉が飛び出してくるのだから。

ところで歌手の曽根史郎は、この『若いお巡りさん』を発表した前後の年に『若い・・・・』というタイトルの曲を出している。それは、昭和30年の『若い職長さん』と昭和32年の『若いサラリーマン』で、いわゆるシリーズ化されたものだと思われる。

「職長さん」は「お巡りさん」と同様、井田誠一:作詞、利根一郎:作曲。一方「サラリーマン」の方は、吉川静夫:作詞、利根一郎:作曲である。

やはり作詞家が違うと歌のテイストも変わってくるのだろう。「サラリーマン」だけは、他の2曲とは雰囲気が異なるので、ここでは『若い職長さん』の詞を紹介してみたい。

1.
くされかかったどぶ板踏めば

夜明けの街が ちょいとわびしい菜っ葉服

おいらの生きる喜びを

※知っているのは あの煙突だけさ

2.
おれは旋盤あの娘(こ)はタイプ

うれしじゃないか 昼の休みにまた逢おぜ

二人の明日のでかい夢 

※くり返し

3.
不平不満もないではないが

とにかく今日も 力一杯働いた

おいらの夢もかなしみも

※くり返し

4.
ポオと六時のサイレン響きゃ

あの娘に逢いに 空のべんと箱抱えてね

二人の夜のささやきを

※くり返し


最初読んだときに「あの娘はタイプ」を、好みのタイプのことかと勘違いしたが、ここはタイピストだと気がついた。同じ町工場で働く、若い旋盤工とタイピストを歌ったものだろう。

職長とは作業員の指揮監督をする者のことで、当然作業員の信頼を受けている。ここでも「若いお巡りさん」同様、仕事の姿勢は真摯であり、しかも恋愛の方もがんばっている、そんな若者を描いているようだ。

昭和20年代の終わりから30年代の前半は「若い○○さん」という職業名のタイトルの曲が多い。「看護婦さん」「木こりさん」「船頭さん」「お相撲さん」……。

時代が、まっすぐに若者に期待していたのだろう。そして、若者の方もその期待に沿えるべく賢明に努力していたに違いない、そんな気がする。

-…つづく

 

 

第233回:流行り歌に寄せて No.43 「愛ちゃんはお嫁に」~昭和31年(1956年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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