第234回:流行り歌に寄せて
No.44 「しあわせはどこに」~昭和31年(1956年)
コロムビア・ローズの登場である。この人は、戦後歌謡史を語る上で決して忘れてはならない人である。
この名前は、戦前のコロムビアレコードのスター、松原操がデビュー当時覆面歌手「ミス・コロムビア」と名乗っていたのに倣って付けられたものだそうだ。松原操は夫になった霧島昇とのデュエットで、『旅の夜風』(映画「愛染かつら主題歌」)、『一杯のコーヒーから』『目ン無い千鳥』などの大ヒットを、戦前に次々と飛ばした歌手である。
文字通り、コロムビアレコードの期待を担ったコロムビア・ローズこと松本光世(旧名:斎藤まつ枝)は、それに充分応えて、昭和27年4月のデビュー曲『娘十九はまだ純情よ』を始め『哀愁日記』『渡り鳥いつ帰る』など、堅実にヒット曲を出していた。
今回の『しあわせはどこに』も、満を持す西条八十、万城目正の鉄壁コンビによる作品で、大ヒットとなった曲である。
「しあわせはどこに」 西条八十:作詞 万城目正:作曲 コロムビア・ローズ:歌
1.
街には楽しい 人の波
空にはあかるい バラの雲
つばめもおどるよ 青い風
それなのに わたしは一人 ただ一人
しあわせは あゝ しあわせはどこに
2.
わたしは都の 片隅の
名もない野の花 乙女花
咲く日も散る日も 君知らず
さみしさよ わたしは一人 ただ一人
しあわせは あゝ しあわせはどこに
3.
くもらぬこころの 真珠だま
のぞけば悲しい 恋の傷
この傷消えるは いつの日ぞ
いとしさよ わたしは一人 ただ一人
しあわせは あゝ しあわせはどこに
この歌は、1956年7月19日に封切られた、同名の西河克己監督の日活映画『しあわせはどこに』の主題歌であった。この映画は葉山良二、芦川いづみ共演の、いわゆるメロドラマである。
ヒロイン・橋爪淳子を演じる芦川いづみが、何とも清楚なのである。彼女は、そのわずか12日後に封切られた川島雄三作品の日活映画『洲崎パラダイス赤信号』では、脇役としてそば屋で働く娘、玉子役を演じている。こちらはとても可憐な感じがする。
彼女、最初は葉山良二とのロマンスが囁かれていたが、33歳の時、なぜか6歳も年下の藤竜也と結婚している。
話がだいぶ横道にそれてしまったが、映画が娯楽の主流だった昭和10年代から30年代の中頃までは、映画の主題歌がそのまま歌謡曲として大ヒットするということが、ごく当たり前の世界だったようだ。
さて、松本光世のコロムビア・ローズは、その後も同名の歌手が現れたため、「初代コロムビア・ローズ」と呼ばれるようになったのはご存知の通りである。
彼女が、その後『どうせ拾った恋だもの』『東京のバスガール』などのヒット曲を出していたが、結婚を機に昭和36年に一旦引退をする。懐メロブームが起こった後にテレビに登場するが、その際は決まって「初代」という言葉が頭に付くようになった。
二代目コロムビア・ローズは、本名を宗紀子と言い、二代目募集オーディションで3,500人の応募の中から選ばれた人だ。
『白ばら紅ばら』で昭和37年にデビューし、『智恵子抄』『たけくらべ』『二十四の瞳』などの、いわゆる文芸路線の曲を歌って人気を博す。東京オリンピックのあった昭和39年大晦日、『智恵子抄』を歌い、念願のNHK紅白歌合戦出場を果たしている。
実は子どもの頃、私にとってコロムビア・ローズとはこの人のことであり、初代のことはあまり知らなかった。私は「二代目」のやわらかく清廉な声が当時から好きで、彼女の代表曲『長い一本道』はよく口ずさんでいたものである。
二代目は、現在ロサンゼルスで歌手活動をしているようで、時々日本での歌謡祭にも顔を出しているとのこと。初代とは長年親交があるそうだ。
今回、その存在を初めて知ったのが、三代目コロムビア・ローズ。失礼ながら「三代目」がいることはまったく知らなかった。
本名、野村美菜(先日、デビュー10周年で未奈と改名)。昭和57年生まれで、平成16年、『出航五分前』でデビュー。今や不振の演歌界にあって、コロムビアレコードが期待を込めて、先代の二人にあやかるようネーミングしたのだろう。
来月19日、新曲『かがり火恋歌』をリリースする。・・・存在はしっかり覚えた。がんばれ、三代目!!
-…つづく
第235回:流行り歌に寄せて
No.45 「13,800円」~昭和32年(1957年)
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