のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第242回:流行り歌に寄せて No.52 「月光仮面は誰でしょう」~昭和33年(1958年)

更新日2013/09/12

私が生まれて初めて両親から買い与えられたレコードは、A面『月光仮面は誰でしょう』、B面『月光仮面の歌』の、いわゆるSP盤レコードだった。

SP盤とは、LP盤レコード登場があった後に作られた言葉で、LPが出るまでは単にレコードと言っていた。LPとは、long playingの略。と、ここまでは知っていたが、お恥ずかしい話、私は今回まで、SPとは、short playingの略だと思い込んでいた。正しくは、standard playingの略であるらしい。

レコード盤の中央には、二丁拳銃を構えた月光仮面が描かれているのだが、蓄音機のトーンアームを上げると驚く速さで回転し始め、月光仮面の姿を必死に追おうとした幼少の私は、すぐに目を回してしまった。

LPが、1分間に33・1/3回転なのに対し、SPは78回転。LPの2.34倍の速度で回っているのだから、それは今見れば、一瞬笑ってしまえるほどの速さだ。

「月光仮面は誰でしょう」 川内康範:作詞 小川寛興:作曲 近藤よし子、キング子鳩会:歌
1.
どこの誰かは知らないけれど 誰もがみんな知っている

月光仮面のおじさんは 正義の味方よよい人よ

?疾風(はやて)のように現れて 疾風のように去ってゆく

月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう

2.
どこかで不幸に泣く人あれば かならずともにやって来て

真心(まごころ)こもる愛の歌 しっかりしろよとなぐさめる

誰でも好きになれる人 夢をいだいた月の人

月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう

3.
どこで生まれて育ってきたか 誰もが知らないなぞの人

電光石火(でんこうせっか)の早わざで 今日も走らすオートバイ

この世の悪にかんぜんと 戦いいどんで去ってゆく

月光仮面は誰でしょう 月光仮面は誰でしょう


作詞の川内康範(こうはん)は、日本初のフィルム制作による国産連続テレビ映画『月光仮面』の原作及び脚本を手掛けている。その後も、『七色仮面』『愛の戦士 レインボーマン』などのヒーロー物の他に、映画、小林旭主演『南国土佐を後にして』、渡哲也主演『東京流れ者』などの原作者である。

作詞した曲は、和田弘とマヒナスターズ『誰よりも君を愛す』、青江三奈『恍惚のブルース』『伊勢佐木町ブルース』、城卓矢『骨まで愛して』、水原弘『君こそわが命』、内山田洋とクールファイブ『逢わずに愛して』、布施明『愛は不死鳥』、森進一『銀座の女』『おふくろさん』など、大きなヒット曲が正にきら星の如くある。

人の心から沸々と湧いてくるような「情念」を書かせたら、この人は実にうまい。カラオケで私自身はこの人の歌を歌うことはめったにないが、他の人が歌っている時に画面に映る歌詞を見ていて、いつもただ感心しているのだ。

大正9年(1920年)2月生まれ、平成20年(2008年)4月没。享年88歳。

作曲の小川寛興(ひろおき)は、最初オペラ歌手を目指すが挫折し、服部良一の内弟子となり、作曲及び管弦楽法の教えを受ける。

川内との『七色仮面』を皮切りに、『鉄腕アトム」『怪傑ハリマオ』『隠密剣士』『仮面の忍者赤影』などの、こちらもヒーロー物の他に『おはなはん』『細うで繁盛記』『ありがとう』などテレビドラマのテーマ曲も多い。

歌謡曲では、倍賞智恵子の『さよならはダンスの後に』、中村晃子の『虹色の湖』など、大人の雰囲気を持つ曲も手掛けている。

大正14年(1925年)3月生まれ。日本作曲家協会監事の経歴を持つ。

歌を歌っている「近藤よし子、キング子鳩会」は、キングレコード専属の、少女童謡歌手と合唱隊なのだろう。レコード盤には上記の表記があるが、テレビドラマのクレジットには「近藤よし子、小鳩くるみ会」と表記されている。

ところで、テレビドラマの冒頭、ワンフレーズだけかかる『月光仮面の歌』(こちらもレコード表記は「歌」だが、テレビのクレジットは「唄」とある)、同じく川内、小川による作品である。作品の中にもメロディーは度々登場してくる。

「唄」っているのは三船浩と言う人で、当時はフランク永井、神戸一郎らとともに低音の魅力で人気があり、NHK紅白歌合戦にも3回出場している。

私は、実は子どもの頃から、どちらかと言えばこの哀愁を帯びたバラードの方が好きで、よくかけてもらっていた。

その『月光仮面の歌(唄)』の歌詞もご紹介したい。

1.
月の光を背に受けて 仮面にかくしたこのこころ

風が吹くなら吹くがよい 雨が降るなら降るがよい

愛と正義のためならば 何で惜しかろこの命

わが名は月光 月光仮面

2. 
つらいだろうが今しばし 待てばしあわせやってくる

貧しい人よ呼ぶがよい 悲しい人よ呼ぶがよい

心正しき者のため 月よりの使者ここにあり

わが名は月光 月光仮面


さて最後に、月光仮面も七色仮面も、この頃のヒーローは「おじさん」と呼ばれているものが多かった。今回いろいろ調べていて一番驚いたことがある。

それは月光仮面の正体と目される(ドラマの上では、あくまで断定されていない)私立探偵、祝十郎役の大瀬康一。練馬区大泉にある東映東京撮影所の大部屋俳優だった大瀬が、この役に抜擢されたのは、彼が二十歳の時だったのである。若い、若いおじさんである。

 

-…つづく

 

 

第243回:流行り歌に寄せて No.53 「嵐を呼ぶ男」~昭和33年(1958年)

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー



第201回:流行り歌に寄せてNo.13
「星影の小径」~昭和24年(1949年)

第202回:流行り歌に寄せてNo.14
「午前2時のブルース」~昭和24年(1949年)

第203回:流行り歌に寄せてNo.15
「長崎の鐘」~昭和24年(1949年)

第204回:流行り歌に寄せてNo.16
「水色のワルツ」~昭和25年(1950年)

第205回:流行り歌に寄せてNo.17
「熊祭(イヨマンテ)の夜」~昭和25年(1950年)

第206回:流行り歌に寄せてNo.18
「買い物ブギー」~昭和25年(1950年)

第207回:流行り歌に寄せてNo.19
「サム・サンデー・モーニング」~昭和25年(1950年)

第208回:流行り歌に寄せてNo.20
「東京キッド」~昭和25年(1950年)

第209回:流行り歌に寄せてNo.21
「ミネソタの卵売り」~昭和26年(1951年)

第210回:流行り歌に寄せてNo.22
「野球小僧」~昭和26年(1951年)

第211回:流行り歌に寄せてNo.23
「上海帰りのリル」~昭和26年(1951年)

第212回:流行り歌に寄せてNo.24
「リンゴ追分」~昭和27年(1952年)

第213回:流行り歌に寄せてNo.25
「ゲイシャ・ワルツ」~昭和27年(1952年)

第214回:流行り歌に寄せてNo.26
「テネシー・ワルツ」~昭和27年(1952年)

第215回:流行り歌に寄せてNo.27
「街のサンドイッチマン」~昭和28年(1953年)

第216回:流行り歌に寄せてNo.28
「想い出のワルツ」~昭和28年(1953年)

第217回:流行り歌に寄せてNo.29
「君の名は」~昭和28年(1953年)

第218回:流行り歌に寄せてNo.30
「高原列車は行く」~昭和29年(1954年)

第219回:流行り歌に寄せてNo.31
「お富さん」~昭和29年(1954年)

第220回:流行り歌に寄せてNo.32
「岸壁の母」~昭和29年(1954年)

第221回:流行り歌に寄せてNo.33
「野球拳」~昭和29年(1954年)

第222回:流行り歌に寄せてNo.34
「この世の花」~昭和30年(1955年)

第223回:流行り歌に寄せてNo.35
「月がとっても青いから」~昭和30年(1955年)

第224回:流行り歌に寄せてNo.36
「カスバの女」~昭和30年(1955年)

第225回:流行り歌に寄せてNo.37
「ガード下の靴みがき」~昭和30年(1955年)

第226回:流行り歌に寄せてNo.38
「銀座の雀」~昭和30年(1955年)

第227回:流行り歌に寄せてNo.39
「ジャンケン娘」~昭和30年(1955年)

第228回:流行り歌に寄せてNo.40
「別れの一本杉」~昭和30年(1955年)

第229回:流行り歌に寄せて 番外編1-1
~昭和20年代を振り返って

第230回:流行り歌に寄せて 番外編1-2
~昭和20年代を振り返って その2

第231回:流行り歌に寄せて No.41
「ここに幸あり」~昭和31年(1956年)

第232回:流行り歌に寄せて No.42
「若いお巡りさん」~昭和31年(1956年)

第233回:流行り歌に寄せて No.43
「愛ちゃんはお嫁に」~昭和31年(1956年)

第234回:流行り歌に寄せて No.44
「しあわせはどこに」~昭和31年(1956年)

第235回:流行り歌に寄せて No.45
「13,800円」~昭和32年(1957年)

第236回:流行り歌に寄せて No.46
「逢いたいなァあの人に」~昭和32年(1957年)

第237回:流行り歌に寄せて No.47
「港町十三番地」~昭和32年(1957年)

第238回:流行り歌に寄せて No.48
「チャンチキおけさ」~昭和32年(1957年)

第239回:流行り歌に寄せて No.49
「東京のバスガール」~昭和32年(1957年)

第240回:流行り歌に寄せて No.50
「喜びも悲しみも幾歳月」~昭和32年(1957年)

第241回:流行り歌に寄せて No.51
「有楽町で逢いましょう」~昭和32年(1957年)


■更新予定日:隔週木曜日