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第218回:流行り歌に寄せてNo.30 「高原列車は行く」~昭和29年(1954年)

更新日2012/09/13

この歌は、私の父が昔からよく口ずさんでいて、今でも時々歌っているのを聴く。

「懐かしのメロディー」などでは常連であるこの岡本敦郎、私は顔もよく見ているはずだが、今回のコラムを書くまでお名前とお顔が一致していなかった。当然、この歌を初め、『白い花の咲く頃』や『あこがれの郵便馬車』など、もう何回も耳にしているのに拘わらず、である。

失礼な話かも知れないが、流行歌手としては大変地味な顔つきの方だと思う。無遅刻・無欠勤でサラリーマンを勤め上げられたような、勤勉で温厚な雰囲気を持っている。

今回、改めて岡本敦郎歌唱と認識して何曲か聴かせていただいたが、実に伸びのある声で素晴らしかった。高齢の方々が、競ってカラオケで歌いたがるのもよく理解できる。

岡本敦郎ご本人は、先月放映されたテレビ東京の『懐かしの昭和メロディー』に雪村いづみとともにゲスト出演されて、お元気な姿を見せていた。今年の12月には米寿を迎えられるのに、その歌唱はまさに健在そのものである。

「高原列車は行く」 丘灯至夫:作詞 古関裕而:作曲 岡本敦郎:歌
1.
汽車の窓から ハンケチ振れば  牧場の乙女が 花束なげる

明るい青空 白樺林  山越え谷越え はるばると

ララ・・ ララ・・・・・・・?  高原列車は ララ・・・ 行くよ

2.
みどりの谷間に  山百合ゆれて  歌声ひびくよ 観光バスよ

君らの泊まりも  いで湯の宿か  山越え谷越え はるばると

ララ・・ ララ・・・・・・・?  高原列車は ララ・・・ 行くよ

3.
峠を越えれば 夢みるような  五色のみずうみ とび交う小鳥
  
汽笛も二人の 幸せうたう  山越え谷越え はるばると
  
ララ・・ ララ・・・・・・・?  高原列車は ララ・・・ 行くよ


さて、私は最初この「高原」とは、私の郷里の長野県富士見高原なのではないかと勝手な期待を寄せていたが、今回調べていて全く見当違いであることがわかった。

詞を作った丘灯至夫は、福島県郡山市に隣接した田村郡小野新町の出身。彼は幼年時代から身体が弱く、最寄りの川桁駅から沼尻鉄道(磐梯急行電鉄)に乗って、中ノ沢温泉まで家族に連れられ、よく湯治に出掛けていた。

その時の経験で、後年この詞が作られたのだという。詞に登場する「いで湯」とは中ノ沢温泉のこと、「五色のみずうみ」とは即ち五色沼のことらしい。

少年が湯治に行かなくてはならないというイメージは、もっと陰鬱なような気がするが、詞を見る限り、実に清々しく抜けるような明るさがある。あるいは憧れの気持ちで書かれた、実体験との裏返しのイメージか。

その丘灯至夫、この詞を書いてから約10年後の1963年、舟木一夫のデビュー曲即大ヒット曲『高校三年生』を書いて、日本レコード大賞作詞賞を受賞している。実はこの歌、最初、岡本敦郎が歌うという想定で詞を書いたらしい。

しかし、当時、本当に高校三年生、18歳の舟木一夫が歌うのと、それよりもちょうど20歳年上、38歳の岡本敦郎が歌うのとでは、趣が違いすぎる。いくら岡本が抜群に歌がうまいとは言え、勝負にならない気がする。

この歌に関してだけ言えば、舟木一夫が歌って大正解だと言えると思う。

丘灯至夫という人は面白い人である。まずは、岡本の 『あこがれの郵便列車』 『高原列車は行く』 やコロムビア・ローズの 『東京のバスガール』、スリー・グレイセスの 『山のロザリア』、舟木の 『高校三年生』『修学旅行』 などの、いわゆる青春歌謡路線を多く手がけている。

そうかと思えば、一方で『ハクション大魔王の歌』 『みなしごハッチ』『ガッチャマンファイター』 など、我々の世代にはおなじみのアニメ主題歌も作ってしまっている。

最後に作詞したのが、91歳の時、小林亜星とのコンビで、『あの世はパラダイス』『霊柩車は行くよ』 というコミカルな曲で、エノケソという77歳の歌手が歌っている。

その翌年の2009年11月24日、腎不全で亡くなっているが、そのお人柄で多くの人たちに慕われ続けていたという。

-…つづく

 

 

第219回:流行り歌に寄せてNo.31 「お富さん」~昭和29年(1954年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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