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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第213回:流行り歌に寄せてNo.25 「ゲイシャ・ワルツ」~昭和27年(1952年)

更新日2012/06/28

弊店で、男性のお客さんばかり3、4人と私でお話しをしていると、不思議なことに、何回かに1回は『お座敷遊び』の話題になる。そして、どんなメンバーの時にも必ず、「是非一度はしてみたい」という御仁が一人はいらっしゃる。

「艶やかな芸者衆の中に身を置きたいというのは男子共通の願望だろう」と彼「ら」は宣うが、趣味嗜好、流派の違いなのか、私にはその思いがまったくと言ってよいほどない。

因みに「芸者」と言う言葉を手元にある広辞苑で引き、調べてみると、

「①多芸な人。遊芸に巧みな人。芸達者。②能狂言役者・歌舞伎役者・音曲師・俳諧師など、芸能を職業とする者。芸能人。③たいこもち。幇間。男芸者。④歌舞や三味線などで酒席に興を添えるのを業とする女性。芸妓。芸子」

とあって、おや? いわゆる芸者さんが最後に説明されている。今日、を「芸者」と呼ぶ人なんているのだろうか、甚だ疑問である。

「ゲイシャ・ワルツ」 西條八十:作詞  古賀政男:作曲  神楽坂はんこ:歌
1.
あなたのリードで 島田もゆれる チークダンスの なやましさ

みだれる裾も はずかしうれし ゲイシャ・ワルツは 思い出ワルツ

2.
空には三日月 お座敷帰り 恋に重たい 舞扇

逢わなきゃよかった 今夜のあなた これが苦労の はじめでしょうか

3.
あなたのお顔を 見たうれしさに 呑んだら酔ったわ 踊ったわ

今夜はせめて 介抱してね どうせ一緒にゃ くらせぬ身体

4.
気強くあきらめ 帰した夜は 更けて涙の 通り雨

遠く泣いてる 新内流し 恋の辛さが 身にしみるのよ


今、一番の歌手を写していて突然フラッシュバックした。なぜか、いつもこの歌を聴くと何か後ろめたい、そして火照るような気持ちになったのが、瞬時に理解できた。

私がこの歌を最初に聴いたのが、中学の終わりの頃の『なつかしのメロディー』。その頃、親の目を盗んで見ていたエロ本に、芸者姿のモデルの胸と足もとがはだけて写っていて、その横にこの一番の歌詞が書かれていたのだ。それは、それは艶めかしい光景だった。

突然自分の拙い思い出話をしてしまい、面目ない思いである。閑話休題。

西條八十、古賀政男のゴールデン・コンビである。神楽坂はんこには、この年(昭和27年)の春にデビュー曲として、『こんな私じゃなかったに』を同じ二人が提供している。

彼女を二人に紹介したのは、作曲家の万城目正らしいが、それにしても、まだ20歳か21歳の一芸者さんにこの二人が曲を作るというのは、当時としても異例な話だろう。よほど彼女が気に入られたに違いない。

『芸者ワルツ』ではなく『ゲイシャ・ワルツ』としたのは、この年の年初に大ヒットした江利チエミの『テネシー・ワルツ』に対抗して作られたからということらしい。

けれども、ワルツというリズムが共通するだけで、趣は180度と言ってもよいほど違う曲である。殊に、1番から2番への間奏のオーケストラ演奏は、まさに日本人の心の内にある郷愁を呼び起こすような、切なく懐かしいメロディーなのだ。

さて、芸者であり歌手である、という人は戦前から何人かいらして、その人々を俗に「うぐいす芸者歌手」と呼ぶそうである。いかにも……のネーミングだが。

1950年代生まれまでの人なら、一度は聞いたことのある彼女たちの名前。市丸、小唄勝太郎、赤坂小梅、美ち奴、新橋喜代三、新橋みどり、豆千代、浅草〆香、日本橋きみ栄、榎本美佐江、神楽坂はんこ、神楽坂浮子……。

源氏名だけの人、そして苗字を持っていても、それが職場のある地名の人ばかりである。例外は芸者を止めてから芸能界入りした榎本美佐江くらいか。彼女と大投手・金田正一とのロマンスはあまりにも有名な話である。

多くの「うぐいす」たちの中で、個人的には、私は神楽坂浮子の方のファンである。この人は何と言っても艶っぽく、美しい。この人の全盛期であって、もし1,000億分の1の可能性でそれが実現したのなら、前言を簡単に撤回して『お座敷遊び』をしてみたいと思う。

神楽坂はんこに憧れて芸者になり、昭和29年に歌手デビュー。代表曲は『十九の春』。74歳の今でも現役の芸者であり、若手の育成を精力的に務めているらしい。現在では、日本歌手協会に所属する唯一の芸者だという。

今でもシャキシャキッとしたご性格で、笑顔を絶やさぬ姿を、時折テレビなどで拝見することができる。晩年は酒に溺れ、最後は肝臓癌で寂しくこの世を去った神楽坂はんことは、この人は違う生き方をしているようである。

-…つづく

 

 

第214回:流行り歌に寄せてNo.26 「テネシー・ワルツ」~昭和27年(1952年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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