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第229回:流行り歌に寄せて 番外編1-1 ~昭和20年代を振り返って

更新日2013/02/28

「赤いリンゴに くちびる寄せて…」
"戦後"という時代が幕を開ける、その名刺代わりとなった昭和21年の『リンゴの唄』から始まり、前回の昭和30年まで、私が取り上げた昭和20年代の流行り歌は、ちょうど40曲を数えた。

昭和30年代に入る前に、それらの曲を振り返ってみたい思いに駆られ、今回は番外編として、2回に分けて掲載してみたいと思う。

本編とは直接関係ないのだが、始めに少し書いておきたいことがある。第1回目の『リンゴの唄』が掲載されたのが、あの震災のあった日から一週間後の、一昨年3月18日のことだった。あの頃はまだ、原子力発電所の事故がここまで大きな影響力を持つ大事故だとは認識されていなかった。

幸いなことに、あの文章の中で懸念していた私のお世話になった福島県浪江町の下宿のお母さん、お父さんは、その後まもなく無事が確認されたが、当然のことながら、未だに我が家に帰れない状況にある。

私はあの頃、いくつかの曲の紹介をするとき、戦災後と震災後をどこかでオーバーラップさせて書いていた気がするのだが、あれから状況がまったく好転していないのが、ただただ案じられるのである。

さて、私は今まで取り上げた昭和20年代の40曲について、簡単な一覧表を作ってみた。発表年、作詞家、作曲家、歌手、歌い出しの順でまとめてみたのである。

そこに挙げられたのは、あくまで私が取り上げた曲であるので、戦後歌謡曲全体の特徴をそのまま表現しているのでは決してない。当然、それを踏まえた上で、いくつか気付いたことを書いていきたい。

まず、発表年。昭和21年、2曲。22年、5曲。23年、3曲。24年、5曲。25年、5曲。26年、3曲。27年、4曲。28年、2曲。29年、4曲、そして、昭和30年、7曲であった。

最初から、できるだけ偏在しないようにと心掛けてはいたが、「この曲については書けそうだな」と思うものを選んでいくと、こんな数字になっていた。

昭和30年は、私の生まれた前の年なので、母などから聴き馴染んでいる曲が多かったのかも知れない。ただ、今回このコラムを書き進めてみて、大雑把に感じた私の思いとしては、昭和22年から25年の4年間が"戦後"歌謡が最も花開いた時代であった気がする。

作詞家。登場の最も多かったのは佐伯孝夫の4曲、後はサトウハチロー、清水みのる、菊田一夫、西条八十、藤浦洸が3曲ずつ入っていた。

佐伯は、戦前にも『燦めく星座』『鈴懸の小径』という灰田勝彦が歌った名曲の詞を作っている。今回の昭和20年代も『東京の屋根の下』『野球小僧』が灰田の歌。他は『銀座カンカン娘』『ミネソタの卵売り』と戦後のエネルギーを感じさせる作品を手がけている。

昭和30年代以降も素敵な詞を作り続けているので、この後も間違いなく何回か登場してくる作詞家である。

サトウは『リンゴの唄』『長崎の鐘』と人心を打つ詞が多いが、『胸の振子』のようなある種難解な歌詞にも魅力を感じた。清水は、取り上げた『かえり船』の他に多くの"船物"に傑作が多い。菊田は古関裕而とのコンビで素晴らしい作品を作り続けた人だ。

また、西条は戦前から軍歌も含め、多くの流行り歌でヒットを飛ばし続けているが、詩人としての才能も抜きん出ていた。今回、改めてそのリリシズムの素晴らしさを再確認したのは、『午前二時のブルース』『水色のワルツ』など、藤浦の手による作品だった。

作曲家。これはもう断トツで服部良一の8曲。次いで古関裕而の5曲、利根一郎の4曲、万城目正の3曲となっていて、この4人で全40曲中の半分の20曲を占めている。

服部は、個人的に大ファンなので思わず書きたくなってしまう大作曲家である。戦前に作られたものでも『山寺の和尚さん』『別れのブルース』『バンジョーで唄えば』『雨のブルース』『一杯のコーヒーから』『懐かしのボレロ』『夜のプラットホーム』『チャイナ・タンゴ』『蘇州夜曲』など、別の機会には取り上げてみたい曲ばかりなのだ。

古関裕而は、流行り歌の他にも早稲田の『紺碧の空』、慶應の『我ぞ覇者』、巨人の『闘魂こめて』、阪神の『六甲颪』、東京オリンピック・マーチ、NHKのスポーツ行進曲などを手がけ、“日本のマーチ王”、“日本のスーザ”と呼ばれる側面を持った人でもある。私は、彼のマーチも大好きだ。

今回このコラムを書いていて、万城目と利根の二人の作曲家の素晴らしさを知ったのは、たいへんに大きな収穫だった。

万城目は、戦前の名曲の中の名曲として知られる『旅の夜風』(映画『愛染かつら』の主題歌)を書き、戦後になってからすぐに冒頭の『リンゴの唄』を大ヒットさせた。

そして『悲しき口笛』『東京キッド』また『この世の花』と美空ひばり、島倉千代子の二人を大スターにするきっかけになった曲も手がけている。旋律は飽くまで美しく、またそれぞれの歌手にぴたりと合う曲を作る才能には、ただただ敬服してしまう。

『星の流れに』『星影の小径』など、利根の紡いでいくメロディーは、時に感傷的に、時に浪漫風に私たちの心に届けられる。ふと心寂しくなる夜にしみじみと聴きたい曲である。

気がついて驚いたことだが、私は古賀メロディーを『ゲイシャ・ワルツ』の一曲しか取り上げていない。昭和20年代にも『麗人の歌』『恋の曼珠沙華』『湯の町エレジー』『三百六十五夜』など聴いたことのある曲は多いのだが、それについて書けるか? と自問すると躊躇してしまうものばかりだった。

この後昭和30年代には、ぜひ書いてみたい曲はある。けれども、やはりこの人の才能が燦めいていたのは、戦前に作られた曲だろう。昭和ひと桁、10年代には触れたいと思う曲が少なくとも10曲以上はあって、これについては、戦後歌謡に限定したことを後悔するのである。

-…つづく

 

 

第230回:流行り歌に寄せて 番外編1-2 ~昭和20年代を振り返って その2

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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