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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第209回:流行り歌に寄せてNo.21 「ミネソタの卵売り」~昭和26年(1951年)

更新日2012/04/19

暁テル子……情熱的な名前である。これから、まさに太陽が昇り照り輝く、その予感を感じさせるような印象の強い名前である。

名は体を表す、の好例かも知れないが、ご本人の容姿も当時としては珍しいほどの抜群のプロポーションを持ち、エキゾチックで派手やかな顔立ちをされている。愛称は「テリー」。

今回、資料を読んでいると、NHKの人気テレビ番組『ジェスチャー』にもよく出演していたとあった。うっすらとではあるけれど、あの明るくスタイルのよい女性が、画面狭しと動き回っていた姿は記憶にある。

「ミネソタの卵売り」佐伯孝夫:作詞 利根一郎:作曲 暁テル子:歌
1.
ココココ コケッコ ココココ コケッコ
 
私はミネソタの卵売り

町中で一番の人気者 つやつや生み立て 買わないか

卵に黄身と 白身がなけりゃ

お代は要らない ココココ コケッコ

2.
ココココ コケッコ ココココ コケッコ

私はミネソタの卵売り

町中で一番ののど自慢 私のにわとり自慢です

卵を生んだり お歌のけいこ

ドレミファソラシド ココココ コケッコ

3.
ココココ コケッコ ココココ コケッコ

私はミネソタの卵売り
 
町中で一番の美人です 皆さん卵を喰べなさい

美人になるよ いい声出るよ

朝から晩まで ココココ コケッコ


普通に聴けば、アメリカ合衆国のミネソタ州には、とれたての卵を売り歩く、卵売りの習慣があって、その中にいる人気者の売り子のことを歌った歌だと思ってしまう。

ところが、いろいろと調べていくうちに、本当はミネソタ州には卵を売り歩く習慣などないことがわかってきた。卵売りが存在したのは、実は江戸時代からの日本であったようだ。

「生卵を飲むことにより、即効的に精力が増強する」という、そんな言い伝えは何度か私も聞いたことがあったが、その俗説を信じていた吉原など遊郭で卵売りは存在していたのだ。

では、なぜ『ミネソタの卵売り』なのか? 作詞家の佐伯孝夫の家に、ミネソタ州からの来客があったとき、たまたま卵売りがやって来たから、などという真しやかな話もあるが、俄に信じがたい。

アメリカ合衆国中西部の北、カナダに接し、自然環境に恵まれ、農業が盛んな州というイメージ、そしてその語感の良さから『ミネソタの卵売り』となったのだろう。

そして、その理由のもう一つの背景が存在する。この曲が発売されたのが、昭和26年2月。暁テル子は、その前年の昭和25年、5月には『リオのポポ売り』()、8月には『チロルのミルク売り』をそれぞれ発表している。実は、売り子シリーズの一環であったのだ。

アメリカ合衆国に行く前に、すでに南米のブラジルとヨーロッパのアルプス山脈で物売りをしていたのである。世界を股に掛けたセールスウーマンだったわけである。

しかも『ミネソタの卵売り』の発売される、わずか1ヵ月前の昭和26年1月には『ミシシッピーの恋の唄』と『ラプラタの夜話』を発表。アメリカ合衆国の南部とアルゼンチンでも恋愛をしていたのである。

戦争が終わって5年、人々の心がようやく少し落ち着いてきた頃、世界の地名を使った曲を、スタイル抜群、エキゾチックな顔立ちの女性が歌うことを、みんなが楽しく受け入れられるようになってきたのかも知れない。

『ミネソタの卵売り』を歌う暁テル子の姿は、1コーラスだけだが You Tube で閲覧することができる。当時としては、30歳を越えた「年増」女性ではあるが、明るい艶やかさを持っていて、確かに男性陣には人気のある人だと思わせるものがある。

余談ではあるが、リアルタイムで知らないこの歌を、私が初めて知ったのは、1976年(昭和56年)のコマーシャル、ハウス食品の『シャンメンたまごめん』で、この歌の替え歌が使われたときからである。

歌詞は「コケッコ 私はハウスのたまごめん(シャンメン) お味はケッコー たまごめん」。別バージョンで、「37円 なおケッコー」というのがあった。同年代の方には、こちらの方が懐かしいかも知れない。

 

「ポポ」とは、ポーポー、ポポーとも呼ばれる、バンレイシ科に属する落葉高木。果実を食用とし、かつて日本でも多く栽培されていたが、その強い芳香のため徐々に敬遠され、最近ではほとんど見かけないという。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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