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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第349回:流行り歌に寄せて No.154「すてきな王子様」~昭和41年(1966年)

更新日2018/04/12



どうして長野県時代に聴いた曲にそんなに未練があるのか、自分でも理解できないが、悪足掻きをして、昭和41年の曲をもう一度だけ紹介させていただく。

あの当時、しきりに耳にしたのだが、誰が歌っていたのかさえ覚えていない曲であった。それでも、時々旋律を思い出し、誰だったのかなぁと思う気持ちはよぎるが、踏み込んで調べようとはしなかった。しかし、今回は最後の機会のような気がして、チャレンジしてみた。

歌っているのはフランス・ギャル。フランスの女の子という意味ではなく、そういう名前の歌手である。綴りはFrance Gall、“girl”が転じて70年代に作られたアメリカ英語の方は“gal”であるから、綴りそのものも違い、彼女が登場した60年代にはできていなかった言葉らしい。

当時、小学校5年生の私は、この歌手の名前を知っていたのだろうか。それも記憶にないが、かわいらしい声で歌われた曲だけはずっと頭に残っている。本名はイザベル・ジュヌヴィエーヴ・マリ・アンヌ・ギャル(Isabell Geneviève Marie Anne Gall)。

昭和40年3月に最初のヒット曲『夢みるシャンソン人形』を本国フランスで発売し、同年9月には原語版が、10月には日本語で吹き込んだバージョンが日本で発売されている。この時、彼女は17歳、今、当時の写真を見ても実に可愛らしく、殊に日本人に好かれるタイプの顔立ちだった。

そして、翌昭和41年5月に『すてきな王子様』の原語版を日本で発売した後、6月には東京、大阪、名古屋、京都で日本公演も行なわれた。おそらくその際、日本語バージョンのこの歌が披露されたのだろう。レコード発売は8月で、あの歴史的なイベントであるビートルズ日本公演の直前の出来事である。


「すてきな王子様」(Un Prince Charmant) 
Maurice Vidalin:作詞  Jacques Datin:作曲  France Gall:歌  安井かずみ:訳詞
  
           

夢に見た王子様 白い馬に乗って

宮殿の森を抜け 迎えに来たの

うれしさと驚きに 胸がいっぱいなの

急がなきゃ遅れるわ おしゃれしなくちゃ

ああ 15の時の 夢だったけど

今も私は待ってる 誰か素敵な人

 

夢に見た王子様 白い馬に乗って

美しく逞しく そして優しく

まだ愛の言葉さえ 知らぬ私だけど

感じるの判るのよ 胸が震える

ああ 15の時の 夢だったけど

今も私は待ってる 誰か素敵な人

 

夢に見た王子様 白い馬に乗って

宮殿の森を抜け 迎えに来たの

 

その胸に抱かれて 踊る舞踏会の

その甘い口づけも 忘れないわ



ビートルズには及ばないまでも、フランス・ギャルには当時のティーンエイジャーをはじめ多くのファンがいた。残念ながら、その頃10歳だった私には全くと言っていいほど記憶にないが、5、6歳年上のお兄さん、お姉さんたちに雑誌などで彼女のグラビアを見せてもらっていたら、かなり虜(トリコ)になっていたかもしれない。

さて “Charmant”とは「素敵な」「魅力的な」という意味で、原語通りの日本語タイトルである。訳者の安井かずみが、伊東ゆかりの『恋のしずく』、沢田研二の『危険な二人』、郷ひろみの『よろしく哀愁』、西城秀樹の『ちぎれた愛』、小柳ルミ子の『わたしの城下町』、天地真理の『小さな恋』、浅田美代子の『赤い風船』、アグネス・チャンの『草原の輝き』、竹内まりやの『不思議なピーチパイ』をはじめ、実に多くのヒット曲を書いた作詞家であることは、誰もが知っている。

訳詞でも『ドナ・ドナ』『オー・シャンゼリゼ』『雪が降る』『ヘイ・ポーラ』『アイドルを探せ』など、名曲を数多く手がけている。フランス・ギャルの他に日本で大変人気のあったシルヴィ・ヴァルタン、ダニエル・ビダルという二人のフランス女性ポップス・シンガーのヒット曲を両方とも担当しているのである。英語だけでなくフランス語の訳ができること、またその日本語訳がおそろいしいほど見事に原曲のメロディーに溶け込んでいるのは、この人の魅力だろう。

フランス・ギャルの話に戻る。どういうきっかけなのか、60年後半からの彼女はドイツ語、イタリア語、フランス語、日本語など、母国語以外のバージョン曲が多い。一時は、ドイツのレコード会社と契約してドイツ語のオリジナル曲も歌っていたらしい。

その後、レコード会社の移籍を何度も繰り返していたが、彼女の同じ年である作曲家のミッシェル・ベルジェと出会い、28歳の時に結婚した。二児をもうけ順調な生活をしていたが45歳の若さで夫を亡くし、その5年後には娘のうちの一人を病気で亡くしてしまった。

自身も50歳の頃に乳がんが発見され、実質的に歌手生活を引退していた。その後は人道支援プロジェクトに参加して、多くの人々のために活動を続けてきたが、今年の1月7日、パリ郊外の病院で、長く患っていた乳がんにより息を引き取った。70歳だった。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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