のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第348回:流行り歌に寄せて No.153「絶唱」~昭和41年(1966年)

更新日2018/03/29


前回冒頭でも触れたが、まるで昭和41年に駆け込み乗車するように、舟木さんの曲を2曲続けてご紹介したいと思う。

昭和30年代から40年代にかけて、歌い手さんが映画に登場し、その主題歌を歌うことが大いに流行っていた。但し、そのスタイルには2パターンがあった。

ひとつは、最初に歌手が歌ってヒットした曲を、同名のタイトルで映画化したもの。たいがいその歌手は、主役ないし脇役で出演し、劇中でその曲を披露するのが一般的だった。レコード発売と映画上映がほとんど同じ時期というものも少なくなかった。

もうひとつは、曲とは関係なく、あらかじめ作られた映画作品に主役ないし脇役で出演した歌手が、その主題歌を劇中で、あるいはその後にレコーディングして歌うものである。

舟木一夫で言えば、前者が前回ご紹介した『哀愁の夜』、後者が今回ご紹介の『絶唱』がそれに当たる。通常は前者の方が圧倒的に多く、御三家の他の二人、橋幸夫、西郷輝彦も自分のヒット曲の同名映画というものに数多く出演していた。蛇足だが、時代はかなり下って、山口百恵は多くの文芸作品の映画に出演していたため、後者のものが数多い。

さて『絶唱』は鳥取県出身の作家、大江賢次によって書かれた小説で、昭和33年に発表された。その年に小雪役・浅丘ルリ子、園田順吉役・小林旭で滝沢英輔監督によって日活で映画化されて以来、全部で映画化3回、テレビドラマ化が5回という、大変な人気作品である。

私たちの世代では、舟木一夫の大ヒット曲もあり、日活の和泉雅子との共演版がやはり最も印象に残っている。彼女の花嫁衣装が美しく哀しかった。もっとも、私自身がこの作品の内容を知ったのは、当時、妹の読んでいた月刊少女漫画に掲載された、今でいうコミック版『絶唱』である。和泉雅子の美しい死化粧を観たのも、上映からかなり時間が経った後に、テレビの映画劇場で放映されたものが最初だった。


「絶唱」 西條八十:作詞  市川昭介:作曲・編曲  舟木一夫:歌            

1.
愛おしい 山鳩は

山こえて どこの空

名さえはかない 淡雪の娘(こ)よ

なぜ死んだ ああ 小雪

2.
結ばれて 引き裂かれ

七年を 西東

いのち短く 待つ日は永く

泣きぬれた ああ 小雪

3.
山番の 山小舎に

春が来る 花が咲く

着せて空しい 花嫁衣装

とこしえの ああ 小雪


なぜ死んだ ああ 小雪


舟木一夫が映画『絶唱』の出演を受けた時、最初は主題歌を歌う予定はなかったそうである。しかし日活の宣伝部から「やはり彼が主題歌を歌うべきだ」と指摘を受け、舟木本人が西條八十の自宅を訪ねて作詞の依頼をしたとのことである。

この時、西條八十は74歳。その4年後の昭和45年に亡くなっている。大正7年、創刊間もない雑誌『赤い鳥』に『かなりあ』を載せて以来50年を越える詩人、作詞家生活の最晩年とも言える年の作品だった。

作編曲の市川昭介は、当時もう大変な人気作家だったが、それまでに西條八十との仕事は、私が今回調べた限りではなかった。中山晋平、古賀政男、万城目正、古関裕而、服部良一ら錚々たるメンバーの作曲家たちと仕事をしてきた西條八十とコンビを組めたことは、本当に誇らしいことだったと思う。

舟木の歌唱については、前回も書かせていただいたが、この曲にも、声質の素晴らしさを生かす、高低音をバランスよく発声できる彼の技能が表われている。日本を代表する詩人の詞に、才気あふれる作曲家が曲をつけ、若く表現力のある歌手が歌う。良い歌にならないはずがない。

当時、家族、学校の友だちなど、私の周りのほとんどの人々は、この年の第8回日本レコード大賞は『絶唱』で間違いないと信じていた。ところが受賞をしたのは、橋幸夫の『霧氷』だった。私たちはかなりショックを受けた。橋幸夫の素晴らしい歌唱は充分理解しているつもりだが、誠に失礼ながら、今でもなぜ『絶唱』ではなかったかという思いは残っている。

この曲は、やはり舟木ファンには大変に人気があり、前回ご紹介した舟木ファンを対象にした『あなたが選ぶ舟木一夫ベストソング』では、『高校三年生』『学園広場』『哀愁の夜』に次いで4位にランキングされている。

ところで、先ほど『絶唱』は三度映画化されたと書いたが、最後が山口百恵・三浦友和版であった。これは和泉雅子・舟木一夫版の9年後の昭和50年に東宝で製作されたものだが、面白いことに監督は同じ西河克己である。

百恵版が出た頃は、雅子版との時代の隔たりを、私は大きく感じたものだが、その間はわずか9年、百恵版ができてからはすでに43年が経過している。

-…つづく

 

 

第349回:流行り歌に寄せて No.154「すてきな王子様」~昭和41年(1966年)


このコラムの感想を書く

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー



第301回:流行り歌に寄せて No.106
「新妻に捧げる歌」~昭和39年(1964年)

第304回:流行り歌に寄せて No.109
「お座敷小唄」~昭和39年(1964年)

第305回:流行り歌に寄せて No.110
「愛と死をみつめて」~昭和39年(1964年)

第306回:流行り歌に寄せて No.111
「夜明けのうた」~昭和39年(1964年)

第307回:流行り歌に寄せて No.112
番外篇「東京オリンピック開会式」~昭和39年(1964年)

第308回:流行り歌に寄せて No.113
「花と竜」~昭和39年(1964年)

第309回:流行り歌に寄せて No.114
「涙を抱いた渡り鳥」~昭和39年(1964年)

第310回:流行り歌に寄せて No.115
「柔」~昭和39年(1964年)

第311回:流行り歌に寄せて No.116
「まつのき小唄」~昭和39年(1964年)

第312回:流行り歌に寄せて No.117
「女心の唄」 ~昭和39年(1964年)

第313回:流行り歌に寄せて No.118
「若い涙」 ~昭和39年(1964年)

第314回:流行り歌に寄せて No.119
「網走番外地」~昭和40年(1965年)

第315回:流行り歌に寄せて No.120
「夏の日の想い出」~昭和40年(1965年)

第316回:流行り歌に寄せて No.121
「さよならはダンスの後に」~昭和40年(1965年)

第317回:流行り歌に寄せて No.122
「愛して愛して愛しちゃったのよ」~昭和40年(1965年)

第318回:流行り歌に寄せて No.123
「新聞少年」~昭和40年(1965年)

第319回:流行り歌に寄せて No.124
「二人の世界」~ 昭和40年(1965年)

第320回:流行り歌に寄せて No.125
「東京流れ者」~昭和40年(1965年)

第321回:流行り歌に寄せて No.126
「下町育ち」~昭和40年(1965年)

第322回:流行り歌に寄せて No.127
「高原のお嬢さん」~昭和40年(1965年)

第323回:流行り歌に寄せて No.128
「赤坂の夜は更けて」「女の意地」~昭和40年(1965年)

第324回:流行り歌に寄せて No.129
「知りたくないの」~昭和40年(1965年)

第325回:流行り歌に寄せて No.130
「唐獅子牡丹」~昭和40年(1965年)

第326回:流行り歌に寄せて No.131
「涙の連絡船」~昭和40年(1965年)

第327回:流行り歌に寄せて No.132
「君といつまでも」~昭和40年(1965年)

第328回:流行り歌に寄せて No.133
「函館の女」~昭和40年(1965年)

第329回:流行り歌に寄せて No.134
「逢いたくて逢いたくて」~昭和41年(1966年)
第330回:流行り歌に寄せて No.135
「雨の中の二人」~昭和41年(1966年)

第331回:流行り歌に寄せて No.136
「骨まで愛して」~昭和41年(1966年)

第332回:流行り歌に寄せて No.137
「星影のワルツ」~昭和41年(1966年)

第333回:流行り歌に寄せて No.138
「ほんきかしら」~昭和41年(1966年)

第334回:流行り歌に寄せて No.139
「バラが咲いた」~昭和41年(1966年)

第335回:流行り歌に寄せて No.140
「若者たち」~昭和41年(1966年)

第336回:流行り歌に寄せて No.141
「銭形平次」~昭和41年(1966年)

第337回:流行り歌に寄せて No.142
「悲しい酒」~昭和41年(1966年)

第338回:流行り歌に寄せて No.143
「空に星があるように」~昭和41年(1966年)

第339回:流行り歌に寄せて No.144
「星のフラメンコ」~昭和41年(1966年)

第340回:流行り歌に寄せてNo.145
「こまっちゃうナ」~昭和41年(1966年)
第341回:流行り歌に寄せて No.146
「女のためいき」~昭和41年(1966年)

第342回:流行り歌に寄せて No.147
「夢は夜ひらく」~昭和41年(1966年)

第343回:流行り歌に寄せて No.148
「勇気あるもの」~昭和41年(1966年)

第344回:流行り歌に寄せて No.149
「夕陽が泣いている」~昭和41年(1966年)

第345回:流行り歌に寄せて No.150
「涙くんさよなら」~昭和41年(1966年)

第346回:流行り歌に寄せて No.151
「恍惚のブルース」~昭和41年(1966年)

第347回:流行り歌に寄せて No.152
「哀愁の夜」~昭和41年(1966年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

   

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2018 Norari