のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第336回:流行り歌に寄せて No.141 「銭形平次」~昭和41年(1966年)

更新日2017/09/28


いかにも時代劇の主題歌らしい、この曲のイントロを覚えていらっしゃる方も多いと思う。ダイナミックでスリリングな曲調である。ところが、もう30年以上前になるのだろうか、あるテレビ番組でこのイントロに歌詞をつけた人がいた。これはドラマの冒頭を彷彿させ、思わずニヤリとしてしまうものなので、最初にご紹介しておく。ぜひあのイントロを思い浮かべて、そこに歌詞を載せていただきたい。

「親分てぇへんだ」

「おっ八どうした」

「親分てぇへんだ 土左衛門が 大川に浮かんだ」

「そいつぁ捕物だ」

小銭を確認しながら出かける♪♪


その小銭を縄紐に通して捕物に出かけ、現場では「ビュン、ビュン」と飛ばしている。子どもの頃は、「お金を粗末に投げるなんてとんでもない」と教えられてきたので、最初は見ていて抵抗があった。しかし、そのうちに何か痛快な思いがして、真似て五円玉を投げているところを親に見つかり、しっかりと叱られた。

捕物で使ったあのお金はいったいその後誰が拾うのだろうかと友だち同士で語り合ったことがある。さすがに、平次親分が雑草の影とか水たまりの中に落ちた小銭を拾うことは格好が悪くてできないだろう。いつも「親分てぇへんだ!」と飛び込んでくる下っ引の八五郎の仕事ではないかというところで話は落ち着いた。

そう言えば、かなり派手に投げているが「寛永通寳」の一文とは、今で言えばどのくらいの価値があるかと今回調べてみた。長い江戸時代の時期によって異なるが、公定レートや蕎麦代などから換算して25円から40円というところのようである。もしどこかに隠れてしまって見つからなかったとしても、草野球でどこかに紛れ込んだ軟球を見つけきれなかった喪失感よりは、かなり軽いものだろうと思う。

「銭形平次」 関沢新一:作詞 安藤実親:作曲 編曲者(後述) 舟木一夫:歌
 
1.
男だったら 一つにかける

かけてもつれた 謎をとく

誰がよんだか 誰がよんだか 銭形平次

花のお江戸は 八百八町

今日も決めての 今日も決めての 銭がとぶ

2.
やぼな十手は みせたくないが

みせてききたい こともある

悪い奴らにゃ 悪い奴らにゃ 先手をとるが

恋のいろはは 見当つかぬ

とんだことさと とんだことさと にが笑い

3.
道はときには 曲がりもするが

曲げちゃならない 人の道

どこへゆくのか どこへゆくのか 銭形平次

なんだ神田の 明神下で

胸に思案の 胸に思案の 月をみる



さて、いきなりですが、ここで問題です。この曲が主題歌だった大川橋蔵版の『銭形平次』で平次親分の女房、お静を最初に演じた女優は誰でしょう?

正解は八千草薫。私の店でこの問題を出した時、60歳代以上のお客さんでも正解者は意外と少ない。「えっ、初めから香山美子さんではないの?」と言う声が上がる。八千草さんは、最近の話題作『やすらぎの郷』でも清廉な老女役を演じていたが、平次親分の奥さん役だったイメージは、みなさんの中には薄いのだろうか。

それでは二代目は?と尋ねると「それは、さすがに香山さんでしょう」との答えが返ってくるが、これも不正解。答えは鈴木紀子という人。彼女は昭和43年度、44年度のミス日本グランプリ受賞者で、実に美しい人だったが、しばらく芸能界にいたものの、すぐに結婚して引退をした。私も「そういえば、とてもきれいな人が奥さん役だったなあ」という実におぼろげな記憶があるだけで、はっきり思い出せない。

三代目がお待ちかね香山美子。この人の印象が強いのは、出演回数が他の二人を圧倒していることによるものだろう。209話から最終888話まで、実に680話のお静を演じているのである。ちなみに八千草薫は157話、鈴木紀子は50話。

下っ引の八五郎は林家珍平、三の輪の万七親分は遠藤太津朗のイメージが定着しているが、彼らも実は二代目。初代は、それぞれ佐々十郎、藤尾純が演じた。もっとも、二人とも初代は52話だけで、あとの836話は二代目というのだから、初代を覚えている人はよほどの時代劇通ということになる。

さて、この曲の編曲も時期によって異なる人の手により行なわれた。阿部皓哉→山路進一→阿部皓哉→津島利章→ 阿部皓哉と変遷している。

阿部皓哉は『柳生武芸帳』『新諸国物語 黄金孔雀城』『伊賀の影丸』など多くの時代劇映画の音楽を手がけた人である。山路進一は舟木一夫作品を多く手がけたことで知られている。『北国の街』は舟木の代表曲の一つで、私も大好きな曲である。津島利章は時代劇に限らず、『仁義なき戦い」などのヤクザ映画、ポルノ映画にいたるまで、420曲もの映画音楽を作った人だった。編曲者だけとっても、豪華なラインアップである。

作詞家の関沢新一については、このコラムで何回か書かせていただいている。話が逸れてしまうが、以前ご紹介した関沢作品の『柔』、そして今回の『銭形平次』、他の人の手によるものだが『人生劇場』『兄弟仁義』など、いわゆる硬派と呼ばれる作品には、なぜか二番に『恋』に関する詞を挟む。一つの手法だと思うが、多くの人がそれをしたがる理由が、私にはよくからない。

話を戻して、作曲家の安藤実親。この人はこのコラムでは初めての人だと思う。村田英雄の『姿三四郎』、北島三郎の『歩』、水前寺清子の『いっぽんどっこの唄』など、やはり硬派と呼ばれる曲を得意としている。都はるみのデビュー曲『困るのことョ』の編曲家としても知られている。

そして舟木一夫。自身38枚目のシングル・レコードである。デビュー以来ずっと青春歌謡を歌い続けてきた人にとっては異色の作品と言えよう。それにしても、「恋のいろはは見当つかぬ とんだことさと とんだことさと にが笑い」している平次親分の心情を歌うのが、まだ21歳の舟木である。早熟と言おうか、何と言おうか。

-…つづく

 

 

第337回:流行り歌に寄せて No.142 「悲しい酒」~昭和41年(1966年)

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 





金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー



第301回:流行り歌に寄せて No.106
「新妻に捧げる歌」~昭和39年(1964年)

第304回:流行り歌に寄せて No.109
「お座敷小唄」~昭和39年(1964年)

第305回:流行り歌に寄せて No.110
「愛と死をみつめて」~昭和39年(1964年)

第306回:流行り歌に寄せて No.111
「夜明けのうた」~昭和39年(1964年)

第307回:流行り歌に寄せて No.112
番外篇「東京オリンピック開会式」~昭和39年(1964年)

第308回:流行り歌に寄せて No.113
「花と竜」~昭和39年(1964年)

第309回:流行り歌に寄せて No.114
「涙を抱いた渡り鳥」~昭和39年(1964年)

第310回:流行り歌に寄せて No.115
「柔」~昭和39年(1964年)

第311回:流行り歌に寄せて No.116
「まつのき小唄」~昭和39年(1964年)

第312回:流行り歌に寄せて No.117
「女心の唄」 ~昭和39年(1964年)

第313回:流行り歌に寄せて No.118
「若い涙」 ~昭和39年(1964年)

第314回:流行り歌に寄せて No.119
「網走番外地」~昭和40年(1965年)

第315回:流行り歌に寄せて No.120
「夏の日の想い出」~昭和40年(1965年)

第316回:流行り歌に寄せて No.121
「さよならはダンスの後に」~昭和40年(1965年)

第317回:流行り歌に寄せて No.122
「愛して愛して愛しちゃったのよ」~昭和40年(1965年)

第318回:流行り歌に寄せて No.123
「新聞少年」~昭和40年(1965年)

第319回:流行り歌に寄せて No.124
「二人の世界」~ 昭和40年(1965年)

第320回:流行り歌に寄せて No.125
「東京流れ者」~昭和40年(1965年)

第321回:流行り歌に寄せて No.126
「下町育ち」~昭和40年(1965年)

第322回:流行り歌に寄せて No.127
「高原のお嬢さん」~昭和40年(1965年)

第323回:流行り歌に寄せて No.128
「赤坂の夜は更けて」「女の意地」~昭和40年(1965年)

第324回:流行り歌に寄せて No.129
「知りたくないの」~昭和40年(1965年)

第325回:流行り歌に寄せて No.130
「唐獅子牡丹」~昭和40年(1965年)

第326回:流行り歌に寄せて No.131
「涙の連絡船」~昭和40年(1965年)

第327回:流行り歌に寄せて No.132
「君といつまでも」~昭和40年(1965年)

第328回:流行り歌に寄せて No.133
「函館の女」~昭和40年(1965年)

第329回:流行り歌に寄せて No.134
「逢いたくて逢いたくて」~昭和41年(1966年)
第330回:流行り歌に寄せて No.135
「雨の中の二人」~昭和41年(1966年)

第331回:流行り歌に寄せて No.136
「骨まで愛して」~昭和41年(1966年)

第332回:流行り歌に寄せて No.137
「星影のワルツ」~昭和41年(1966年)

第333回:流行り歌に寄せて No.138
「ほんきかしら」~昭和41年(1966年)

第334回:流行り歌に寄せて No.139
「バラが咲いた」~昭和41年(1966年)

第335回:流行り歌に寄せて No.140
「若者たち」~昭和41年(1966年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari