第327回:流行り歌に寄せて No.132 「君といつまでも」~昭和40年(1965年)
京南大学のかっこいい若大将。小学校の多くの友だちは憧れていたが、私はなぜか関心がなかった。自分の生活とはあまりにもかけ離れていた存在だったからかもしれない。明るく華やかで躍動感溢れる、都会での学生生活が絵空事のようで、正直、鬱陶しかった。半世紀経った今でも、その感は拭えないようだ。
こんなことを書き出すと、私の店にも何人かはいらっしゃる加山雄三ファンを、完全に敵に回してしまいそうだが、 性に合わないのだからご勘弁いただくしかない。但し、その若大将シリーズと同じ時期に作られた、黒澤明監督の『椿三十郎』や『赤ひげ』、成瀬巳喜男監督の『乱れる』や『乱れ雲』に出演している時の加山雄三には良い印象がある。
殊に成瀬巳喜男の遺作となった『乱れ雲』では司葉子との共演で、難しい役柄を好演していて、実力のあるところを見せていた。私は7、8年ほど前に日本映画専門チャンネルでこの映画を観る機会を得たが、「うまい役者さんなんだなあ」と感じたものである。
その『乱れ雲』からは今年で50年が経過していて、当時30歳で若き商社マンを演じていた加山雄三も、今年は傘寿80歳を迎えたが、ご存知の通り相変わらずの若さを保っている。
「君といつまでも」 岩谷時子:作詞 弾厚作:作曲 加山雄三:歌
ふたりを夕やみが つつむ この窓辺に
あしたも すばらしい しあわせがくるだろう
君のひとみは 星とかがやき
恋する この胸は 炎と燃えている
大空そめてゆく 夕陽いろあせても
ふたりの心は 変わらない いつまでも
(台詞)
「幸せだなァ 僕は君といる時が 一番幸せなんだ
僕は死ぬまで君を離さないぞ、いいだろう」
君はそよかぜに 髪を梳かせて
やさしく この僕の しとねにしておくれ
今宵も日がくれて 時は去りゆくとも
ふたりの想いは 変わらない いつまでも
有名な台詞は、実はこの曲のレコーディングの際、編曲の素晴らしさに加山自身が「いやあ、幸せだなあ」とつぶやいたことから端を発し、曲中の間奏に入れられたという話は、かなり有名である。確かに、情感たっぷりのイントロとエンディングを今改めて聞いてみると、作り手が「幸せ」という概念をしっかり表現していると言えるかもしれない。
この台詞を話す時の右の人差し指で鼻の脇をこするような仕草は、当時子どもの間でも大流行りになった。それをし過ぎて、鼻の脇が真っ赤になってしまったおバカな友だちも出現するほどの人気ぶりだった。
ところで、岩谷時子の手によるこの曲の歌詞の中で少し分かりにくいと言うか、難解な部分が一箇所ある。
「君はそよかぜに 髪を梳かせて やさしく この僕の しとねにしておくれ」
しとね? 最初に聴いた小学生の頃は「世の中には分からないことがいっぱいある」と簡単に開き直って深く知ろうとはしなかった。ただ年を重ねると、ある程度まで意味が理解できないと何かとても不安なのである。ところが、いくつかの資料を見てみたが、胸に落ちる解釈は得られなかった。
「しとね」とは、褥、あるいは茵と書き、敷物、座布団、敷布団のことをいうようである。拙い経験則も踏まえて、自分なりに解釈を試みてみると、
「君のそよ風によって梳かれたその長い髪を、(二人で横になったときに)優しく僕の頭の下に敷いてくれ」
と言った意味ではないだろうか。無理やりに解釈をしてしまうのは無粋だとは思うが、歌詞である以上、しっかりした意図を持って書かれているはずである。
さて、『君といつまでも』は大きなヒットとなり、翌昭和41年の日本レコード大賞特別賞を受賞するが、ザ・ベンチャーズがインストルメンタル曲としてカヴァーしたものも並行してヒットしている。まさにエレキブーム大全盛期らしいエピソードである。
この曲は映画『エレキの若大将』と『アルプスの若大将』で主題曲として使われている。その後多くの人たちによりカヴァーされているが、私個人では憂歌団のカヴァーが素晴らしいと思っている。あの木村君独特の唸り声が、なんとも良いのである。憂歌団の存在を知ったのは、実はこの『君といつまでも』だったという記憶がある。
-…つづく
第328回:流行り歌に寄せて
No.133「函館の女」?昭和40年(1965年)
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