のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第330回:流行り歌に寄せて No.135 「雨の中の二人」~昭和41年(1966年)

更新日2017/06/29


今年は、昨年に引き続き空梅雨の傾向にあると聞く。自転車通勤で、雨が降ると合羽を着たり、滑る車道を走ったりすることが、ここ数年はかなり億劫に感じられる。けれども本当に降らずに水不足になるのは、取水制限など深刻な事態になるので、適量は降ってもらわないとやはり困るのである。
さて、“雨”がタイトルにつく曲は、歌謡曲の中にも実に多くあるが…、
「やさしくて、きれいな曲だなあ」と10歳になったばかりの男子は思ったものである。「歌の前の演奏が素敵だなあ」イントロなどという言葉さえ知らなかったが、そう感じ入ったのである。最近になって、その編曲が一ノ瀬義孝だということを知った。クラシック出身者らしく、美しいバイオリンの音色で雨の情景を描き出している。
その流麗な前奏の後、“雨が小粒の真珠なら 恋はピンクのバラの花”という言葉により歌い始められる世界は、何ともロマンチックである。いきなり、そのうちの一人になって、雨の中に立っているような思いにさせる。
前々から思ってはいたが、編曲がいかにその曲の印象を決定付けてしまうのか、この仕事の重要性を今さらながら深く認識するようになった。だから135回目にして時すでに遅しではあるが、今回から編曲家のお名前も入れていくことにした。

「雨の中の二人」 宮川哲夫:作詞 利根一郎:作曲 一ノ瀬義孝:編曲 橋幸夫:歌

1.
雨が小粒の真珠なら

恋はピンクのバラの花

肩を寄せ合う小さな傘が

若いこころを燃えさせる

別れたくないふたりなら

濡れてゆこうよ 何処までも

2.
好きとはじめて打ちあけた

あれも小雨のこんな夜

頬に浮かべた可愛いえくぼ

匂ううなじもぼくのもの

帰したくない君だから

歩きつづけていたいのさ

3.
夜はこれからひとりだけ

君を帰すにゃ早すぎる

口に出さぬが思いは同じ

そっとうなずくいじらしさ

別れたくないふたりなら

濡れてゆこうよ何処までも

何処までも 何処までも...


それまでのほとんどの曲が、佐伯孝夫、吉田正の黄金コンビニより作られていた橋幸夫だったが、この曲の少し前あたりから他の人の作詞・作曲によるものもぽつりぽつりと出始めてきたようである。
宮川哲夫とはそれまでに仕事をしたことがあったが、利根一郎とは初仕事だった。利根と言えば、『星の流れに』『星影の小径』『ミネソタの卵売り』『ガード下の靴みがき』『若いお巡りさん』『13,800円』と、このコラムでも6曲ご紹介している。
それがスローであっても、アップ・テンポであっても、ともに叙情的で、せつないメロディーを作り出すことのできる偉大な作曲家である。宮川とは『ガード下の靴みがき』でもコンビを組んでいるが、この二人に一ノ瀬義孝が加わり、トリオを組んだのは初めてのことだった。
このトリオによる作品で橋が歌って、その年『汐風の中の二人』と『霧氷』という曲が生まれる。殊に『霧氷』は、この年昭和41年の第8回レコード大賞受賞曲となった。橋にとっては吉永小百合との『いつでも夢を』に次ぐ2回目の受賞で、当時は初のことである。但し、当時はなぜ『霧氷』がレコード大賞を獲得したのか、私の家族を始め多くの庶民には理解できないことだった。
最終候補に上がったのは橋幸夫の『霧氷』、加山雄三の『君といつまでも』、舟木一夫の『絶唱』、園まりの『逢いたくて逢いたくて』、西郷輝彦の『星のフラメンコ』、そしてマイク真木の『バラが咲いた』である。正直、他の5曲に比べて『霧氷』はまったく目立たない地味な曲だと、多くの庶民は感じていた。この曲だけはないなと。
むしろ『雨の中の二人』がエントリーされれば、ほとんどの人々は納得したのだと思う。それほどこの曲は多くの人々に愛されたのである。橋幸夫自身も『雨の中の二人』を幻のレコード大賞であると思う」と、その著書の中で語っているほどである。
ところでこの曲は、同年、梅雨の時期に入った6月封切りの同タイトルの松竹映画になっている。主演は、当時22歳の田村正和と17歳の中村晃子。YouTubeでその姿を見ることができるが、やはり若くてみずみずしく、思わず微笑んでしまう。この頃の橋幸夫にしてはめずらしく主演することなく、本人役としてステージでタイトル曲を披露している。
今日も先ほどまで雨が降り続いていたが、今は上がって少し明るくなってきた。今年、関東では子どもたちの夏休みが始まる7月21日頃梅雨が明けるようである、それまで、この歌を歌いながら自転車を漕ぐことにするから、生活水が確保できるほどの雨は降ってもらいたいものである。

-…つづく

 

 

第331回:流行り歌に寄せて No.136「骨まで愛して」~昭和41年(1966年)

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー



第301回:流行り歌に寄せて No.106
「新妻に捧げる歌」~昭和39年(1964年)

第304回:流行り歌に寄せて No.109
「お座敷小唄」~昭和39年(1964年)

第305回:流行り歌に寄せて No.110
「愛と死をみつめて」~昭和39年(1964年)

第306回:流行り歌に寄せて No.111
「夜明けのうた」~昭和39年(1964年)

第307回:流行り歌に寄せて No.112
番外篇「東京オリンピック開会式」~昭和39年(1964年)

第308回:流行り歌に寄せて No.113
「花と竜」~昭和39年(1964年)

第309回:流行り歌に寄せて No.114
「涙を抱いた渡り鳥」~昭和39年(1964年)

第310回:流行り歌に寄せて No.115
「柔」~昭和39年(1964年)

第311回:流行り歌に寄せて No.116
「まつのき小唄」~昭和39年(1964年)

第312回:流行り歌に寄せて No.117
「女心の唄」 ~昭和39年(1964年)

第313回:流行り歌に寄せて No.118
「若い涙」 ~昭和39年(1964年)

第314回:流行り歌に寄せて No.119
「網走番外地」~昭和40年(1965年)

第315回:流行り歌に寄せて No.120
「夏の日の想い出」~昭和40年(1965年)

第316回:流行り歌に寄せて No.121
「さよならはダンスの後に」~昭和40年(1965年)

第317回:流行り歌に寄せて No.122
「愛して愛して愛しちゃったのよ」~昭和40年(1965年)

第318回:流行り歌に寄せて No.123
「新聞少年」~昭和40年(1965年)

第319回:流行り歌に寄せて No.124
「二人の世界」~ 昭和40年(1965年)

第320回:流行り歌に寄せて No.125
「東京流れ者」~昭和40年(1965年)

第321回:流行り歌に寄せて No.126
「下町育ち」~昭和40年(1965年)

第322回:流行り歌に寄せて No.127
「高原のお嬢さん」~昭和40年(1965年)

第323回:流行り歌に寄せて No.128
「赤坂の夜は更けて」「女の意地」~昭和40年(1965年)

第324回:流行り歌に寄せて No.129
「知りたくないの」~昭和40年(1965年)

第325回:流行り歌に寄せて No.130
「唐獅子牡丹」~昭和40年(1965年)

第326回:流行り歌に寄せて No.131
「涙の連絡船」~昭和40年(1965年)

第327回:流行り歌に寄せて No.132
「君といつまでも」~昭和40年(1965年)

第328回:流行り歌に寄せて No.133
「函館の女」~昭和40年(1965年)

第329回:流行り歌に寄せて No.134
「逢いたくて逢いたくて」~昭和41年(1966年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari