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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第308回:流行り歌に寄せて No.113 「花と竜」~昭和39年(1964年)

更新日2016/07/21

私が二十歳代の頃、お互いの年齢を遠回しで聞くのに「オリンピックの時、何年生だった?」という言葉を、みんな時々使っていた。オリンピックとは、当然、東京オリンピックのことである。私で言えば、相手が小学5年生だったら2級先輩、1年生だったら2級後輩ということになる。

そのうちにオリンピックの後に生まれたという人が社会に出てきて、その時はかなり衝撃的だったのだが、今では店の常連さんの中には五輪後生まれの方が多いほどで、その中で年長者は50歳を超えている。

戦前、戦中、戦後生まれという言い方が、以前からたいへんよく使われてきているが、私の中では無意識のうちに五輪前、五輪後生まれというふうに、世代を大雑把に区切っている気がする。

今回ご紹介する曲は、昭和39年10月25日(日)から日本テレビ系で放映された、テレビドラマ『村田英雄の花と龍』の主題歌である。25日と言えば15日間開催された東京オリンピックの、閉会式の翌日であり、五輪後生まれ最初のヒット曲と言える。

私がもう20年以上前に原子力発電所の従事者として、福島をはじめいくつかの現場で働いていた際、仕事仲間には北九州出身の人が多くいた。彼らと仕事の後、カラオケなどに繰り出すと必ず歌われるのが、この『花と竜』だった。

殊に、私より四つほど年少のKちゃんはこの歌が格別にうまかった。彼は高校時代、ラグビーのウイングとして活躍し、九州代表にまで選ばれた男である。もともと筋肉質の体躯だったが、卒業後、入社すると同時に日に日に肥えていき、当時は100kgを越す巨体だった。

酒が滅法強く、会社から従事者への酒の支給がある程度許されていたことを良いことに、当時取っ手が付きほぼ2リットル入ったサントリーの角瓶のボトルを1日3分の2は開けていた。普通のボトル約2本分である。そして、やはり北九州出身の現場の所長に、「おまえみたいに酒の味が分からん奴が角を飲むのは、つまらん、百年早い。トリスにしとかんかい!」といつも怒られていた。

そんな所長も、Kちゃんが『花と竜』を歌うとき、「それが男さ それが男さ」と「花と竜」の合間に、絶妙なタイミングで「ドッコイ」とか「ヨイショ」と実に気分よさそうに合いの手を入れるのである。

「花と竜」  二階堂伸:作詞  北くすお:作曲  村田英雄:歌
1.
波も荒けりゃ 心も荒い

度胸ひとつの 玄海男

恋も未練も 波間に捨てる

それが男さ それが男さ

花と竜

2.
ごんぞ稼業で 生きぬく俺は

どんな苦労も 承知の上だ

胸を叩いて 青空にらむ

それが男さ それが男さ

花と竜

3.
竜の彫りもの 伊達ではないぞ

命すて身の 若松みなと

俺の死に場所 ここだと決めた
   
それが男さ それが男さ

花と竜


作詞の二階堂伸、作曲の北くすお、双方とも村田英雄のペンネームである。要は、『花と竜』は村田英雄の作詞、作曲、歌の曲である。この二つのペンネームにより村田は一人で、あるいはまたそれぞれ別の作詞者、作曲者とともにいくつかの曲を作っている。歌は浪曲家であることも含め超一流だが、そればかりか、作詞、作曲の才があるのはすばらしいことである。

この『花と竜』に関して言えば、この6年前、吉野夫二郎が作詞(古賀政男:作曲)し、村田が歌った『無法松の一生』の詞の影響を受け、同じような言い回しが随所に見られるのは面白い。

さて『花と竜』、作家火野葦平の実父である玉井金五郎とその妻マンの来し方をモデルにして描かれた大河小説である。歌に出てくる『ごんぞ稼業』、筑豊の炭鉱から掘り出された石炭は遠賀川を渡って若松港で荷揚げされるのだが、その荷揚げをする沖仲仕のことを「ごんぞう」と呼ばれていたという。玉井は若松港でその沖仲仕を仕切る玉井組組長であった(沖仲仕や沖士は現在では差別用語とされ、港湾労働者という言葉が使われている)。

彼の生き方は多くの人々を魅了し、同タイトルで何回も映画化、テレビドラマ化されている。藤田進、石原裕次郎、中村錦之助、高倉健、渡哲也、辰巳柳太郎、そして村田英雄ら錚々たる顔触れ、その時代の、男らしいスターたちが玉井金五郎を演じているのである。

マイクを強く握り、気持ちよさそうに歌うKちゃんの姿を時々思い出す。あの頃は、とても自分が歌えるような歌ではないと思っていたが、年齢のせいか、今度しっかり覚えて歌ってみようかなあと思っている。当時「ごんぞう」と陰でささやかれていた、強面の所長のタイミングの良い合いの手を、受けた心持ちになりながら。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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