第347回:流行り歌に寄せて No.152「哀愁の夜」~昭和41年(1966年)
前回、昭和41年の『第17回NHK紅白歌合戦』のリストを確認したところ、ご紹介したい曲が残っていたとして、青江三奈の『恍惚のブルース』について書かせていただいた。
今回はもう1曲紅白で披露された舟木一夫の『絶唱』を取り上げようとしていたが、なぜかしきりに「何か忘れちゃいませんか」という考えがよぎった。その頃、舟木さんの曲で大好きだった曲があるはずと思い調べてみたところ、今回の『哀愁の夜』に気付いたのである。こちらの方が2月と発売が早いため先にご紹介し、『絶唱』は次回に回させていただくことにした。
基本的に一つの資料を参考にして書き続けているため、時には漏れてしまうこともあるが、どうしてこの曲が思い出せなかったか不思議なくらい、当時から最も好きな歌の一つだった。イントロからエンディングまで、バックを流れる美しい口笛のメロディー、憂いがあり、柔らかく伸びやかな歌唱が実に素晴らしい。
この曲は、実は一般の方々にはあまり多く知られていないが、熱心な舟木一夫ファンにとってはたいへんな人気曲である。5年前、舟木の所属する日本コロンビアが『舟木一夫芸能生活50周年記念』ということで『あなたが選ぶ舟木一夫ベストソング』を実施したところ、『高校三年生』『学園広場』に続いて、この『哀愁の夜』が第3位に選ばれている。また、舟木自身も自分の最も大切にしている曲の一つである、としているそうである。
「哀愁の夜」 古野哲哉:作詞 戸塚三博:作曲・編曲 舟木一夫:歌
1.
なんて素敵な 夜だろう
星はきらめく 瞳はうるむ
ああきみと行く 夜風の舗道(みち)は
いつか二人の胸に
恋を育てた あの日の舗道よ
2.
夢を見るから ゆれるのか
長い黒髪 波うつように
ああ街の灯は やさしくもえて
何か誓いの言葉
交わしたいよな ふたりの夜よ
3.
たとえ別れは 辛くとも
想うこころは 変わりはしない
ああ面影が 消えないように
きみと歩いた舗道に
ひとりたたずむ 哀愁の夜
作詞の古野哲哉は、星野哲郎門下生であり、舟木の作品では戸塚と組んだ『星の広場へ集まれ』、船村徹との『ブルー・トランペット』の他、市川昭介とのコンビで都はるみの『あんこ船』、竜鉄也の『男の酒場』の詞を手掛けた人である。作詞家教室の指導者として、晩年まで後進の指導にあたり、また日本作詩家協会の事務局長も務めている。
作曲の戸塚三博は、舟木への提供曲の他に、丘灯至夫とのコンビで二代目コロムビア・ローズの『智恵子抄』を作ったことでよく知られている。また、生田悦子『青い夢』、松原智恵子『泣いてもいいかしら』など、本来は歌手ではない女優にも曲を提供をしている。この『哀愁の夜』では編曲も担当しているが、あの口笛がなかったら、この曲はここまでファンの心を捉えられなかっただろう。
当時、小学校5年生になったばかりの私が何の雑誌を見たのかは思い出せないが、ある雑誌にこの曲が掲載されていて、添えられた写真には、ほんのりと灯る街路灯の下で舟木一夫と和泉雅子は静かに佇んでいた。
おそらく曲の発表後に作られた、同名の日活映画のワンシーンであったのだろう。この曲の哀しみと相俟って、少年心にも恋をする切なさのようなものが伝わってくる思いがした。
“和泉雅子さんのような素敵な人を恋人に持ったら、絶対に別れたくないのにな。そんなのは辛すぎる”などと、単純なことを考えていたのである。
さて、私はこの曲を何回かカラオケでチャレンジしたことがあったが、なかなか上手く歌えない。今回、もう一度数回聴き返してみてあることに気付いた。私はずっと舟木一夫を、主に低音に魅力のある歌手だと思い込んでいた。ところが、この人の魅力は低音もそうではあるが、むしろ柔らかく伸びていく高音部の方にあるのではないか。
それが、何度聴いても素晴らしい、あの独特の声質をより素敵なものにしているのだと理解した。それを声質も良くはなく、高音になるとすぐに不安定になってしまう私などに歌える歌ではないのだと悟ったのである。今さら何を、と舟木ファンにはお叱りを受けそうな話だ。
-…つづく
第348回:流行り歌に寄せて No.153「絶唱」~昭和41年(1966年)
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