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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第696回:岩国から新岩国へ - 錦川鉄道 岩国~清流新岩国 -

更新日2019/09/05



岩国駅の0番乗り場が錦川鉄道に割り当てられている。駅本屋に接する1番乗り場の南側を切り欠いて作られた場所だ。改札口から階段を使わずに行ける。しかし、午前中は日差しが当たり、日陰はわずかだ。そこに老人と母子がいて、なんとなく私は日なたにいる。冬なら嬉しいけれども日焼けしそうだ。錦川鉄道のディーゼルカーは09時38分に到着した。ワンマン運転の1両、黄緑色の車体に新緑の葉とカワセミが描かれている。こもれび号と書いてあった。なにはともあれ、冷房が入った車内に入る。

01
JR西日本キハ47形と錦川鉄道NT3000形

座席は転換クロスシートだ。運転士さんが通りかかったので、左右のどちらの席がオススメか聞いた。川を眺めるなら進行方向右側がいいという。アドバイスに従って右の後方の席に着く。壁に下がった板を引き上げるとテーブルになる。これはいい仕掛けだ。なにか食べ物を置きたくなった。100円ショップで買ったペットボトルを並べて、また鞄にしまった。テーブルは折りたたむ。このほうが広々としている。

02
NT3000形は転換クロスシート

03
折りたたみテーブルがあった

他に乗客は数人ほどだったけれど、しばらくすると子どもたちがたくさん乗り込んで賑やかになった。引率している男性の姿がワイルドだ。水色の瞳に髭面。彼は慣れた手つきで子どもたちに席を割り当て、自身は私の隣に座った。冒険学校の子どもたちと川下りをしにいく。彼自身はカヤックのインストラクターとのこと。

04
岩徳線区間、西岩国までは市街地

09時52分、定刻に列車が動き出す。次の川西駅まではJR西日本の岩徳線である。その岩徳線も初めて乗るから、私は景色に集中した。インストラクター氏は子どもたちと言葉を投げ合っている。気兼ねはいらない。車窓は市街地が続く。屋根の向こうに中国山地が見える。西岩国駅は岩徳線の終着駅で、岩国駅を名乗った時期もある。駅舎が錦帯橋をモチーフにした建築として知られている。その駅舎は車窓からだとオレンジ色の屋根しか見えない。プラットホームの屋根と柱が木造で、古き良き時代を感じさせる。

05
西岩国駅、プラットホームの屋根も風格あり

西岩国を過ぎると民家が減っていき、広い川を渡った。錦川鉄道の名の由来、錦川だ。この上流に錦帯橋がある。川西駅に着くと、錦帯橋まで徒歩16分とある。どうしよう。日が暮れなければ帰りに寄ってみようか。川西で降りて、錦帯橋へ行き、西岩国駅に戻る。悪くない散歩である。

06
中国山地が近づいてくる

07
錦川を渡った

錦川鉄道の起点は川西駅だ。しかし、線路1本、プラットホーム1本の質素な造りで、分岐駅の雰囲気ではない。列車が走り出す。切り通しになり、トンネルを通り抜けた山の中に分岐点があった。私が乗った列車は右へ分岐、岩徳線の線路は左へ曲がっていく。短いトンネルを通り抜け、高速道路をくぐり、小さな鉄橋を渡ると、前方に新幹線の高架が見えた。その手前に、こちらから分岐した線路跡が見える。廃線の先は新幹線の保守基地だ。山陽新幹線を建設する際に、この線路で資材を搬入したかもしれない。開業後も砂利やレールを搬入したかもしれない。しかし、鉄道は用済みとなったようだ。

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谷を行く

新幹線の高架線を過ぎたところに清流新岩国駅がある。無人駅で、1本のプラットホームに屋根があり、待合室はコンテナ貨車の車掌室を改造した。この駅は山陽新幹線の新岩国駅のそばだ。徒歩5分ほどの距離。しかし、山陽新幹線の開通時に乗換駅とはならなかった。山陽新幹線に七不思議があるとれば、その一つはここだろう。当時は錦川鉄道が発足する前で、国鉄岩日線の御庄駅だった。

09
山陽新幹線の新岩国駅と保線基地

東海道新幹線は、横浜線との交差部分に新横浜駅を作った。山陽新幹線の新神戸駅は、地下鉄を延伸する形で乗換駅とした。でも、新岩国駅と御庄駅は同一駅にならなかった。「実は乗り換え可能な駅同士」として、知る人ぞ知る関係だった。国鉄は赤字の岩日線を廃止するつもりで、御庄駅を無視したのではないかと噂された。

山陽新幹線新岩国駅の開業は1975年。岩日線はその前、1968年に国鉄諮問委員会が指定した「赤字83線」にリストアップされた。鉄道として使命を終えたと判断されたわけだ。さらに1984年に「第2次特定地方交通線」として廃止またはバス転換が決定した。これを受けて地元自治体は第三セクター方式の鉄道存続を選択した。岩国市と山口県が主に出資し、民間企業も資本参加した。こうして錦川鉄道が発足した。

1987年に錦川鉄道が運行を引き継いでも、御庄駅の名はそのままだった。地域のための鉄道だから、新幹線を意識するより、地域の地名をいただいた駅名を大切にしたかったかもしれない。しかし、2013年になって、やっと清流新岩国駅と改称された。地域輸送だけではなく、観光集客も必要という判断があったのだろう。錦川鉄道2002年から「とことこトレイン」というアトラクションを運営している。

2002年といえば、全国で観光列車が続々と誕生しはじめた頃だ。地方鉄道の救済手段として、観光誘客が重要という認識が広まった。錦川鉄道は観光については敏感なはず。もっと早くから新岩国をアピールして良かったと思う。いや、アピールはしていたけれども、駅名を変えるほどではないと考えたか。実際のところ、駅名変更がどれほど効果的かは解らない。今日、乗り換え客らしき人は見かけなかった。きっと平日だからだろう。

10
清流新岩国駅。待合室は元「コキフ」

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
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